建設・公共事業向け特別補償制度の対象を拡大
 ―補償対象の悪天候に「猛暑」を追加

カテゴリー:労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2024年8月

近年、熱波に見舞われる年が増えたため、強風や豪雨、積雪など悪天候のために工事等を停止せざるを得ない場合の特別補償制度が拡充され、猛暑(Canicule)も適用対象となった。労働者保護を目的として、休工期間中の賃金の75%の賃金が国等から補償される。ただ、休工の決定は事業主に委ねられる部分が大きく、工期の日程が厳しい場合には適用されない懸念を拭えない。

猛暑による労働災害

フランス国土の大部分は西岸海洋性気候に属し、通常であれば、夏季であってもそれほど気温が上昇することはない。しかし、温暖化の影響もあり2003年以降、数回、猛暑(熱波)が押し寄せている。公衆衛生局によると、2023年の夏は4回の猛暑に見舞われ、人口の73%が影響を受けたとされている(注1)。4回観測された猛暑期間中における死亡者は1,523人であり、猛暑期間以外を含めれば暑さに起因する熱中症等の死亡者数は5,167人に達した。労働総局によると猛暑による労働災害の死亡事故が11件起こっており、その半数は、建設現場で就労中に発生したとされている。労災死亡事故は、厳重および非常の警戒予報期間以外にも起こっている。

図表1:熱中症等による死者数の推移(人)
画像:図表1

出所:政府サイト(vie-publique, Canicule de l'été 2023 : plus de 5 000 décès à cause de la chaleur新しいウィンドウ)を参照して作成。

注:黒=猛暑(熱波)期間中の死者数、グレー=夏季全体における死者数。

経済社会環境評議会(CESE)は2023年の本会議において『仕事と健康・環境:気候変動に直面して、どのような課題に対処する必要があるか?』という調査報告書を提出し、「2022年の夏は猛暑によって労災や疾病のリスクが明らかに増しており、労働条件に著しい影響を与えている」と指摘している(注2)。報告書は「労働者が熱波に晒されることを制限するために、建設業界の労使関係者の協議を経て、猛暑のリスクを軽減するための法規制が必要である」と結論づけており(注3)、この調査結果を評議会メンバーによる全会一致の勧告として採択した(注4)図表1に示した通り、2022年には猛暑期間中に2023年を上回る2,051人が死亡しており、猛暑期間以外を含む夏季全体の熱中症等の死亡者数は6,969人に達していた。

猛暑期間の休工に対して給与の75%を補償

フランスでは雇用労働者の14%に相当する360万人が悪天候の影響を受ける屋外で働いている(注5)。建設・公共事業(bâtiment et des travaux publics (BTP))の就労現場は、屋外作業が多く、気象条件の影響を受けやすいため、1946年10月21日の法律で、悪天候(強風、豪雨、積雪、霜・凍結等)を理由とする作業中止の場合の特別補償制度が設けられている。だが、猛暑については、当時、社会問題化しておらず、対象リストに含まれていなかった(注6)。しかし、近年、温暖化の影響もあり、猛暑に見舞われる年が顕著になり、CGT(フランス労働総同盟)木材建設労働組合連盟は2018年から「猛暑」を悪天候に含めるように法改正を要望していた(注7)。法改正に向けた作業が、工芸・小規模建築会社連合(CAPEB)、フランス建築連盟(FFB)、全国公共事業連盟(FNTP)、協力参加型社会建設連盟(SCOP)、建設・公共事業悪天候時休暇基金(CIBTP)と労働省が協力して進められ(注8)、2024年6月28日の政令(注9)によって悪天候に「猛暑」が加えられた(注10)

「悪天候」と判断されて、建設現場の作業が中止となった場合、その時間・日数分の給与が全額保障される。その給与のうち75%が有給休暇基金(caisses de congés payés)から支払われ、会社側の負担は残りの25%分となる(注11)。適用対象となる悪天候の事案の判定は、気象協会(Météo-France 、メテオ・フランス)の注意報及び警報に基づく(注12)

メテオ・フランスは、4段階の警戒レベルを発表しており、警戒の強さの順に、赤は「厳重な警戒」、オレンジは「非常な警戒」、黄色は「注意」、緑は「警戒の必要なし」である。そのうち赤あるいはオレンジの警戒が特別補償の基準となる。「オレンジの警戒」以上が「猛暑」に相当するが、オレンジとは、生気象学指数(最低気温と最高気温を3日間平均したもの)が、3日連続で昼夜を問わず基準値以上になり、住民全体が健康被害を受ける可能性がある猛暑の期間である(注13)。警戒は、過去の出来事、観察された影響、県ごとの気象に対する順応レベルが考慮され、気象現象ごと、各県ごとに基準が定義されている。

ちなみに、赤の警戒が発表された例として、図表2に2023年8月22日の警戒予報図を示した。南東部の4つの県が赤、49の県がオレンジの警戒対象となった(注14)。また、2024年7月30日の予報では56県がオレンジ、45県が黄色の警戒対象となっており、オレンジのうち45県が猛暑、11県は雷雨の警戒対象である(注15)図表3参照)。

図表2:2023年8月22日の警戒予報図
画像:図表2

出所:政府サイト(Canicule et vagues de chaleur, publié le 26 juin 2023, modifié le 10 août 2023)参照。

図表3:2024年7月30日の警戒予報図
画像:図表3

出所:メテオ・フランスのウェブサイト参照。

実効性に疑問の声も

CGT木材建設労働組合連盟のマウ書記長によると、事業主は気温がたとえオレンジや赤の警戒でなくとも、従業員の健康安全を確保できないと判断すれば、建設作業の停止を決定することができる。それは事業主の裁量によるものであり、労働者保護のためこの制度の積極的な利用を促している(注16)。ただ、CFDT(フランス民主労働総同盟)建設労組中央本部のブランシャール書記は、特に事故の多いこの部門の従業員に暑さがもたらすリスクを考慮し、事業主の裁量に委ねるのではなく、建設作業を強制的に停止させる必要性があると主張している。

建設業界で40年間就労してきた59歳の建設労働者は、2021年には暑さのために1カ月で体重が10キロ減ったという(注17)。猛暑の最中に就労中に目眩がして息ができなくなった同僚がいたと語った上で、法律で休工が定められていても、実際には適用されないだろうと皮肉っている。というのは、猛暑で工事が一時中止となり遅延した場合、企業は違約金として1日あたり15万ユーロを支払う場合もあるため、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの中でも、労働者は働き続けたという経験があるためである。

(ウェブサイト最終閲覧日:2024年8月8日)

参考レート

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