病欠制度をめぐる議論が活発に

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  • 国別労働トピック:2026年3月

メルツ首相は1月17日、労働者の病欠日数の多さに疑問を呈し、かかりつけ医による電話診察のみで「労働不能証明書(AU)」(注1)が発行される現行制度を見直すべきだと主張した。電話診察による証明書発行の仕組みは、コロナ禍の2020年春に暫定措置として導入され、その後の延長や制度見直しを経て、2023年12月に恒久化された(注2)。首相の発言をきっかけに、制度の在り方をめぐる議論が関係者の間で活発化している。

医療保険の概要

ドイツに居住・就労する者は全員、「医療保険(Krankenversicherung)」への加入が義務付けられている。加入者の約9割が公的医療保険に属しており、公的医療保険は、地域型(AOK)、企業別(BKK)、業界別(IKK)など多様な「疾病金庫(Krankenkasse)」によって運営されている(注3)。疾病金庫は、社会法典第5編(SGB V)に基づく非営利組織である。1990年代初頭には1,000以上存在していたが、合併等により年々減少し、2025年1月時点では94金庫となっている(注4)。保険料は原則として所得比例制(給与の一定割合)であり、労使が折半して負担する。

労働不能証明書は2021年から段階的に電子化され、2023年1月には雇用主に対する「電子的労働不能証明書(eAU)」の取得が完全義務化された。これにより、労働者が紙の証明書を職場に提出する手間や紛失のリスクが解消され、関係者間での情報共有も円滑になった。現在では、労働者が病気で欠勤する場合、医師の診察後にeAUが発行され、そのデータは疾病金庫(Krankenkasse)に自動送信される。雇用主は必要な情報を電子的に照会することができる。

証明書が発行されると、雇用主は当該労働者に対し、病欠初日から賃金を全額支払う。雇用主の負担は年間で最長6週間までであり、この期間を超えてもなお病欠が続く場合には、疾病金庫が傷病手当金(Krankengeld)を支給する。

なお、電話診察によるeAUの発行は、原則として軽症の疾病・症状に限られ、従前から当該医師の診療を受けている患者について、医師の医学的判断に基づき最大5日間まで認められている(注5)

高止まりする病欠日数

連邦統計局の最新資料(注6)によると、2024年の労働者1人当たりの年間平均病欠日数は14.8日であり、2021年と比べて3.6日増加している。

病欠日数は、東西ドイツ統一時の1991年には12.7日であったが、2007年までに8.1日へと減少した(36%減)。この要因について連邦統計局は、労働者全体の食生活や健康状態の改善、健康に悪影響を及ぼす重労働の減少などを挙げている。さらに、1991年以降に続いた景気後退局面において、労働者が失職への不安から病欠を控えた可能性も指摘している。

その後、病欠日数は2008年から2016年にかけて緩やかに増加し、コロナ禍において電話診察による証明書発行が可能となった2021年以降、大きく増加した。ただし、その背景については、eAUの導入に伴う把握精度の向上も指摘されている(図表1)。

図表1:労働者1人あたりの年間平均病欠日数(1991年~2024年)
画像:図表1

出所:Statistisches Bundesamt (Destatis) (2026)新しいウィンドウ

注 :疾病金庫(Krankenkasse)の統計は、原則として3日目以降に「労働不能証明書」が提出されたケースを基礎としている。

連邦保健相、検証と見直しを表明

メルツ首相は、「コロナ期に電話診療のみで労働不能証明書を発行することは、当時は妥当であった」と評価する一方で、「ドイツの労働者の病欠日数は年平均で半月近くに及んでいる」として、現行制度に疑問を呈している。同時期に、主要な疾病金庫の一つであるDAKも、労働者の病欠日数が高水準で推移している要因について政府に調査を求めている。

これを受け、ヴァルケン連邦保健相は、今後制度の検証を進め、必要に応じて運用を見直す意向を表明した。なお、現連立政権の連立協定には、労働不能証明書の濫用防止を図ることが盛り込まれている。

企業は初日支払廃止を提案、労組は反発

ドイツ企業側は、病欠が高水準で推移していることを踏まえ、症状が現れて病欠した初日から賃金を全額支払う現行制度の見直しを提案している。現地報道によれば、初日の賃金支給を廃止した場合、年間約400億ユーロの負担軽減が可能になるとの試算が示されている(注7)

これに対し、ドイツ労働総同盟(DGB)は、「病欠時の賃金補償を削減すれば、病気でありながら出勤する人が増え、感染拡大や労働災害のリスクが高まる。その結果、企業の負担コストはむしろ増大しかねない」と警告し、強く反発している。金属産業労組(IG Metall)も、「労働者が仮病を使っていると決めつけている」と非難したうえで、「病気でも働くことを強いられたり、無給で過ごさざるを得ない状況は、1日分の賃金を失う余裕のない労働者に大きな影響を及ぼす」として強い懸念を示している(注8)

研究者は、「部分的病欠制度」を提案

現地報道(DW)によると、研究者は、「1970年代にドイツで病欠初日の無給制度が廃止されたのは、病気のまま出勤することによる同僚への感染拡大を防ぐためであった」と、制度の歴史的経緯を改めて指摘している。その上で、解決策の一つとして「部分的病欠(部分的就業)」の導入を提案している。

同制度はすでに北欧諸国などで導入されており、軽度の疾病であれば在宅勤務を行いながら、例えば1日のうち3時間のみを病欠とするなど、柔軟な運用が可能である。こうした仕組みにより、労使双方の立場に配慮しつつ、病欠率の抑制につなげることができるとしている。

注・参考資料

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