全国都市部と各地域平均年収状況
 ―2025年現時点

カテゴリー:労働法・働くルール労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2025年11月

国家統計局はこのほど、「2024年都市部就業者の平均年収状況(注1)」(以下:「年収状況」を公表した。これに伴い、各地域でも地域別の平均年収に関する統計が順次発表されている。

平均年収――伸び率の鈍化はさらに深刻

「年収状況」によると、2024年の都市部における平均年収は、非私営企業(国有企業、集団企業、共同経営、株式制、外商投資企業、香港マカオ台湾投資企業等を含む)で12万4,110元(前年比+2.8%)、私営企業では6万9,476元(前年比+1.7%)となり、双方で緩やかな上昇が続いた。地域別では、非私営企業で東部地区が14万3,712元と最も高く(前年比+3.2%)、私営企業でも東部が8万0,415元(前年比+2.9%)と地域差が顕著である。一方、西部・中部・東北ではいずれも伸びが限定的となった。

産業別に見ると、非私営企業では、情報通信・ソフトウェア・情報技術サービス業(23万8,966元)や金融業(20万1,883元)が高い水準を維持した。私営企業でも金融業(13万5,339元)や教育業(6万0,719元)が前年を上回るなどサービス産業が堅調である。一方、製造業は非私営(10万7,987元)・私営(7万1,467元)とも伸び悩みが見られ、産業構造間の二極化が進む。

また、企業規模で見ると、一定規模以上企業(総従業員数が50人以上の企業など)の平均年収は10万2,452元であり、専門技術職(14万8,046元)や管理職層(20万3,014元)が平均を大きく上回った。これは職種・技能による格差の拡大を示すものであり、成長分野への人材集中が続いていることを示唆する。

中国では近年、平均年収の伸びが急速に鈍化している。暦年の平均年収の推移からみると、、私営企業(図2)の伸び率は前年比1.7%と、統計を遡れる中で最も低い水準となった。2010年代前半には二桁の賃金上昇率が常態化していたが、近年は減速傾向が強まっている。一方、国有企業などを含む非私営企業(図1)も伸び率は低迷している、2024年は2023年からの伸び率が2.8%にとどまり、かつて10%前後の高い伸びを維持していた時期から大きく後退した。

賃金上昇の鈍化の背景には、経済成長の減速がある。ゼロコロナ政策からの回復が遅れ、消費や投資の回復に力強さを欠く。不動産の深刻な不況の長期化は地方財政や建設業などの雇用に打撃を与え、企業収益の改善を阻害している。さらに若年層の失業率の高さも、企業の人件費負担拡大を難しくしている。

図1:全国都市部における非私営企業の平均年収の推移(2009~2024年)
画像:図1

図2:全国都市部における私営企業の平均年収の推移(2009~2024年)
画像:図2

出所:中国国家統計局

地域別平均年収伸び率――内陸部で伸び加速、沿海部は鈍化傾向

地域別(表1)の非私営企業の平均年収をみると、まず、これまで経済の中心地として高賃金を維持してきた北京(+2.9%)、天津(+3.2%)、などの直轄市では、安定した伸びが続いている。特に北京は22万4,608元と全国最高水準であり、一極集中構造の存在感を依然として示している。

表1:各地域の非私営企業と私営企業の平均収入と伸び率
地域 非私営企業 私営企業
  2024年度 2023年度 伸び率(%) 2024年度 2023年度 伸び率(%)
全国 124110 120698 2.8% 69476 68340 1.7%
北京 224608 218312 2.9% 106905 105931 0.9%
天津 142437 138007 3.2% 73657 72966 0.9%
河北 97046 94818 2.3% 52374 51281 2.1%
山西 97781 95025 2.9% 51010 50452 1.1%
内モンゴル 113172 108856 4.0% 59217 57410 3.1%
遼寧 99069 97330 1.8% 55179 53333 3.5%
吉林 94937 51214
黒龍江 95750 47281
上海 229337 111347
江蘇 129220 125102 3.3% 78114 75088 4.0%
浙江 137239 133045 3.2% 77230 74325 3.9%
安徽 105416 103688 1.7% 60610 59498 1.9%
福建 112377 108520 3.6% 69055 67651 2.1%
江西 95750 92794 3.2% 56492 55201 2.3%
山東 108131 107131 0.9% 61196 61046 0.2%
河南 86199 84156 2.4% 50625 48841 3.7%
湖北 109227 60583
湖南 97170 97015 0.2% 60537 60277 0.4%
広東 135395 131418 3.0% 80976 80685 0.4%
広西 96547 96184 0.4% 52456 51527 1.8%
海南 117433 114572 2.5% 65299 66059 -1.2%
重慶 117546 113653 3.4% 65098 63941 1.8%
四川 110177 110160 0.0% 63161 62105 1.7%
貴州 102010 54156
雲南 110206 106769 3.2% 55317 53944 2.5%
チベット 165004 70084
陝西 111921 106969 4.6% 58791 58022 1.3%
甘粛 101173 99124 2.1% 52499 51380 2.2%
青海 122787 121457 1.1% 57042 56424 1.1%
寧夏 120355 117681 2.3% 62509 61567 1.5%
新疆 116329 112305 3.6% 63862 62220 2.6%

出所:人社通、各地域統計局、人的資源・社会保障局

一方で、注目されるのは内陸部地域の顕著な伸びである。陝西省は4.6%増と全国トップの上昇率を示し、資源産業や製造業の集積が賃金改善を後押ししていると考えられる。また、伸び率は内モンゴルが+4.0%と最も高く、重慶(+3.4%)、福建省(+3.6%)などが続いた。従来沿海部に偏っていた高賃金地域が内陸へと広がりつつあることがわかる。

これに対し、山東省(+0.9%)や広西自治区(+0.4%)、さらには湖南省(+0.2%)といった地域では伸びが停滞している。さらに四川省は前年とほぼ横ばい(0.0%)にとどまり、経済回復の恩恵が十分に浸透していない可能性を示唆する。産業高度化の遅れや、大都市集中型の経済構造が背景として考えられる。

私営企業の平均年収は、沿海部と地方との賃金格差が依然として顕在であり、地域差が引き続き明確に表れている。特に中国経済を支える沿海部では強い伸びが維持されており、江蘇省が前年比+4.0%と全国トップの上昇率を示した。製造業の集積地として、高度化や産業投資の拡大が賃金上昇を後押ししていると考えられる。続いて、河南省(+3.7%)、遼寧省(+3.5%)、新疆ウイグル自治区(+2.6%)などが全国平均を上回っており、雲南省や江西省も2〜3%台の伸びを記録した。

一方で、伸び悩む地域も存在する。海南省は-1.2%と唯一のマイナス成長となり、給与水準が前年割れした。観光産業への依存度が高い海南省では、外部要因や消費回復の遅れが影響した可能性が高い。また、山東省(+0.2%)、湖南省・広東省(+0.4%)といった一部地域も小幅な伸びにとどまり、産業構造の課題が浮き彫りとなっている。

参考文献

  • 中国国家統計局、人的資源・社会保障部、各地域統計局、各地域人的資源・社会保障局、人社通

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