最低賃金の引き上げ状況
―2025年9月時点
中国各地域の人的資源・社会保障当局は、最新の最低賃金額を相次いで公表した。2025年9月時点で、13の省・直轄市・自治区が最低賃金を引き上げており、対象地域には、北京市や上海市、広東省・深セン市といった大都市圏に加え、山西省、福建省、湖南省、広西チワン族自治区、貴州省、新疆ウイグル自治区などの内陸部・西部地域が含まれる。今年の改定の特徴は、大都市圏では安定的かつ小幅な上昇にとどまる一方で、内陸部・西部地域では二桁の引き上げが相次ぎ、地域間格差の是正を図る政策的意図がうかがえる(図表1)。
大都市圏―小幅ながらも安定的な改定
北京では9月1日から最低賃金が2,540元に引上げられ、前回(2023年9月)の2,420元から4.96%上昇した。上海では、7月1日に2,740元に改定され、前回(2023年7月)の2,690元から1.86%上昇し、国内最高額を維持したが、上昇率は最も小さかった。両都市はいずれも国内トップクラスの賃金水準を誇るが、上昇幅が小さい背景には、すでに高水準にある物価や所得水準を踏まえ、これ以上の急激な賃上げが企業負担や雇用不安を招かないようにする意図があると思われる。
また、広東省と深セン市は、大都市圏としては比較的高い引き上げ幅を示した。広東省では、2025年3月1日に最低賃金が2,500元に引き上げられ、前回(2021年12月)の2,300元から8.70%の上昇となった。深セン市も同日付で2,520元に改定され、前回(2022年1月)の2,360元から6.78%の上昇を記録した。いずれも大都市圏としては上昇幅がやや大きい部類に入るが、広東省では3年以上、深セン市でも2年以上にわたって改定が行われていなかったという空白期間の長さが、その背景にあると考えられる。
図表1:中国各地における月額最低賃金の改定状況(2025年9月時点)
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出所:中国人的資源・社会保障部、各地域の人的資源・社会保障局サイトより
内陸・西部地域―二桁の引き上げ
今年の改定で際立ったのは、内陸部や西部地域における大幅な引き上げである。貴州省では、2月1日から2,130元に改定され、前回(2023年2月)の1,890元から12.70%上昇し、国内で最も高い引き上げ率を記録した。貴州は、全国的に所得水準が低い地域とされているが、今回の改定には生活保障の強化と州内消費の底上げを図る政策的な狙いが見て取れる。
また、福建省も4月1日に2,265元へ改定し、前回(2022年4月)の2,030元から11.58%上昇した。電子部品・食品加工・建材産業などを中心に製造業が集積し、物流の要衝でもある同省では、労働力確保や地域間の人件費格差の調整といった意図があると考えられる。
さらに、重慶市と四川省では、1月1日にともに2,330元へ引き上げ、前回(2022年4月)の水準から10.95%上昇した。また、青海省でも5月1日に2,080元に改定され、前回(2023年1月)の1,880元から10.64%上昇した。新疆ウイグル自治区では、1月1日に、3年9カ月ぶりとなる改定が実施され、最低賃金は2,070元となった。これは、2021年4月の1,900元から8.95%の上昇となる。これらの地域はすべて西部地域に属しており、今回の改定によって最低賃金が初めて2,000元台に到達した点も注目される。
改定頻度の減少 ― 制度的変化とコロナの影響
最低賃金の改定頻度は、年々減少する傾向にある。2004年に公布された「最低賃金規定」では、各地域に対して少なくとも2年に1回の改定が義務づけられていた。しかし2015年末に人力資源・社会保障部が、改定頻度の指針を従来の「2年に1回」から「2~3年に1回」へ緩和したことを受けて、複数の省・地域が独自に条例を制定し、制度的に改定ペースを緩やかにする動きが加速した。さらに、新型コロナウイルスによる経済の停滞も、一時的な改定の見送りや先送りを招き、結果的に改定の間隔の長期化を助長したと考えられる(注1)。
図表2(注2)は、2013年から2025年にかけての最低賃金の改定頻度を示したものである。
この図表では、年間の最低賃金を改定した地域数を示すとともに、前回の改定から「2年以上経過して引き上げた地域の数」と「2年以内に引き上げた地域の数」を色分けして表示している。
既述の新型コロナウイルスの影響もあり、改定頻度を落とす地域数の増加が顕著である。たとえば2021年に最低賃金を引き上げた22地域のうち、20地域では前回の改定から少なくとも2年以上が経過していた。
2025年の動向を見ても、北京市や上海市、山西省、湖南省、貴州省、青海省などは2年以内に改定した一方で、福建省は3年ぶり、広東省は約3年3カ月ぶり、深セン市は3年2カ月ぶり、新疆ウイグル自治区に至っては3年9カ月ぶりと、依然として改定頻度の減少傾向が続いている。
図表2:前回改定から2年超/2年以内に最低賃金を引き上げた地域数の推移(2013年~2025年)
出所:中国人的資源・社会保障部、各地域の人的資源・社会保障局サイトより2013~2025年の最低賃金をもとに作成。
注
- 2020年は新型コロナの影響で、多くの地域で最低賃金が予定通り引き上げられなかった。(本文へ)
- 前回改定から2年を超えている場合/2年以内である場合の区分は、最低賃金の実施日を基準として計上する。(本文へ)
参考資料
- 中国人的資源・社会保障部、各地域の人的資源・社会保障局サイト
参考レート
- 1中国人民元(CNY)=20.82円(2025年9月8日現在 みずほ銀行ウェブサイト
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