連邦最低賃金以下で働く労働者の特徴
 ―労働統計局発表、2024年

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  • 国別労働トピック:2025年8月

連邦労働省労働統計局(BLS)はこのほど、2024年において連邦最低賃金未満で働く者が約76万人にのぼるとの推計結果を発表した。現在の連邦最賃は時給7.25ドルで、2009年7月以降、据え置かれている。連邦最賃と同額で働く者は約8.2万人だった。時給制労働者のうち最低賃金以下で働く者の割合は約1.0%(約84.2万人)で、2011年以降、下がり続けている。

連邦最賃以下の労働者割合の推移

調査は全米約6万世帯を対象とした国勢調査局の人口動態統計(CPS)をもとに、BLSが推計した。それによると、2024年に時給制で働く16歳以上の労働者は約8,030万人で、全賃金・給与労働者の55.6%を占めた。時給制労働者のうち、現在の連邦最低賃金(時給7.25ドル)以下で働く者は約84.2万人(連邦最賃未満で働く者約76万人、連邦最賃と同額で働く者約8.2万人)で、時給制労働者に占める割合は1.0%にとどまり、減少が続いている(図表1)。なお、多くの州や市などでは、連邦最賃を上回る独自の最低賃金を設定しており、連邦最賃の役割や影響力は低下しつつある。

図表1:連邦最低賃金の水準と連邦最賃以下で働く労働者割合の推移
画像:図表1

出所:連邦労働省ウェブサイトより作成

時給制労働者のうち最低賃金以下で働く者の割合を属性別にそれぞれ見ると、年齢別では16~19歳の若者が2.6%(最賃以下で働く全米労働者の6.3%)で、25歳以上の0.7%(同80.1%)の4倍ほどに達した(16~24歳の区分では2.3%、最賃以下で働く全米労働者の19.9%)。連邦公正労働基準法(FLSA)は20歳未満の労働者について、雇い始めから90日間は、時給4.25ドルにすることを認めている。

男女別では、女性(1.3%、最賃以下で働く全米労働者の61.7%)が男性(0.8%、同38.7%)を上回る。人種・民族別の違いは、ほとんどみられない。学歴別では、高校を卒業していない者が1.5%(最賃以下で働く全米労働者の15.5%)であるのに対して、高卒以上は1.0%(同84.5%)だった。就業形態別では、パートタイム労働者(通常の労働時間が週35時間未満)は2.4%(同55.9%)で、フルタイム労働者(同35時間以上)の0.6%(同43.5%)の4倍にのぼった。

職業別ではサービス職の3.2%(最賃以下で働く全米労働者の72.6%)、産業別ではレジャー・ホスピタリティ産業の5.6%(同65.4%)が最も高かった。FLSAはチップを得ている労働者について時給2.13ドルの最賃を認めており、これとチップの合計が、一般労働者の最賃(時給7.25ドル)を上回ればよいとしている。サービス職やレジャー・ホスピタリティ産業で、最賃以下で働く労働者が比較的多いのは、この制度の影響とみられる。

州による最賃の格差

時給制労働者のうち最低賃金以下で働く者の割合を州別に見ると、ルイジアナ州の2.2%(最賃以下で働く全米労働者の2.8%)が最も高く、サウスカロライナ州の2.0%(同3.1%)が続く。

米国では連邦政府のほか、多くの州や主要な市・郡が独自に最賃を定めている。2025年8月現在、全米50州のうち30州が連邦最賃を上回る水準を設定している。このうち、11州とワシントンD.C.では、時給15ドル以上の最賃を設定している(注1)

一方、連邦最賃を適用している州は、上述のルイジアナ州やサウスカロライナ州などの南部を中心に20州ある(図表2)。これらの州は、①州法で州最賃を連邦最賃と同水準とする州(ニューハンプシャー州、ペンシルベニア州、アイダホ州、インディアナ州、アイオワ州、ノースカロライナ州、テキサス州)、②州法で州最賃を連邦最賃と同額にすると定めているわけではないが、連邦最賃に合わせて州最賃を引き上げるなどして、現行州最賃が連邦最賃と同額になっている州(ウィスコンシン州、カンザス州、ケンタッキー州、ノースダコタ州、ユタ州)、③連邦最賃より低い最賃を規定する州(ジョージア州、ワイオミング州)、④最賃自体を規定していない州(テネシー州、サウスカロライナ州、ルイジアナ州、ミシシッピ州、オクラホマ州、アラバマ州)にわかれる。

FLSAは、州(あるいは市・郡)が連邦より厳しい賃金・労働時間規制を設けた場合、使用者はこれを遵守しなければならないことを示している。逆に州法の基準がFLSAより低い場合はFLSAの基準を遵守する必要があるため、③と④の州に対しても、連邦最賃が適用される。

図表2:連邦最賃を適用している州(網掛けの州が該当)
画像:図表2

出所:経済政策研究所ウェブサイトなどより作成

なお、BLSの2025年7月時点の州別民間平均時給の水準を見ると、上位15州は、いずれも連邦最賃を上回る独自の最賃を設けている(図表3)。一方、下位26州のうち14州は連邦最賃適用州であり、時給の低さが目立っている。

図表3:州別民間平均時給(2025年7月、非季節調整値)
順位 平均時給 順位 平均時給
1 コロンビア特別区 $53.59 27 ウィスコンシン $33.87
2 ワシントン(州) $42.29 28 オハイオ $33.19
3 マサチューセッツ $41.76 29 ミシガン $33.15
4 カリフォルニア $41.07 30 デラウエア $32.50
5 ミネソタ $40.09 31 モンタナ $32.49
6 コロラド $38.93 32 ペンシルベニア $32.47
7 ニューヨーク $38.85 33 メーン $32.45
8 コネチカット $38.78 34 ネブラスカ $32.40
9 アラスカ $37.81 35 ミズーリ $32.24
10 ニュージャージー $37.79 36 ネバダ $32.08
11 ハワイ $37.60 37 インディアナ $31.92
12 オレゴン $37.23 38 カンザス $31.91
13 ロードアイランド $36.58 39 サウスカロライナ $31.84
14 バージニア $36.16 40 ワイオミング $31.69
15 メリーランド $35.68 41 アラバマ $31.18
16 ニューハンプシャー $35.24 42 サウスダコタ $31.17
17 イリノイ $35.15 43 テネシー $30.97
18 アリゾナ $34.79 44 オクラホマ $30.56
19 バーモント $34.69 45 アイオワ $30.35
20 ジョージア $34.67 46 ケンタッキー $29.92
21 ユタ $34.62 47 ルイジアナ $29.86
22 アイダホ $34.43 48 ウエストバージニア $29.86
23 ノースダコタ $34.22 49 アーカンソー $29.73
24 フロリダ $34.19 50 ニューメキシコ $28.82
25 テキサス $34.14 51 ミシシッピ $28.48
26 ノースカロライナ $33.93      

注:網掛けは、連邦最賃(時給7.35ドル)適用州

出所:労働統計局ウェブサイト(Total private average hourly earnings and weekly hours and earnings by state新しいウィンドウ)より作成

「貧困ライン」と最低賃金

米国勢調査局は、世帯人数や家族構成ごとの年収に基づく「貧困ライン」を毎年算出している。世帯の総所得がこの基準を下回ると、その世帯の全員が貧困状態にあるとみなされる。「貧困ライン」は、消費者物価指数の変動などを踏まえ、毎年改定される。

2023年の全米平均の貧困率(全人口のうち「貧困ライン」未満で暮らす者の割合)は11.1%(約3,680万人)だった。州別に見ると、ニューハンプシャー州(7.2%)が最も低く、ユタ州(9.0%)がこれに続く。最も高いのはルイジアナ州(18.9%)で、ミシシッピ州(18.0%)がそれに次ぐ(図表4)。この4州はいずれも連邦最賃適用州であるが、州の最低賃金の低さと貧困と直接的な関連性は明確ではない。ただし、貧困率の低い上位26州を下位25州(コロンビア特別区を含む)と比べると、後者には連邦最賃適用州が多い(上位は8州に対し、下位は12州)。このことから、連邦最賃の低さと貧困率の高さとの間に一定の関連性がうかがえる。

図表4:州別貧困率(2023年値)
順位 貧困率(%) 順位 貧困率(%)
1 ニューハンプシャー 7.2 27 ネバダ 12.0
2 ユタ 9.0 28 カリフォルニア 12.0
3 コロラド 9.3 29 ミズーリ 12.0
4 ミネソタ 9.3 30 ペンシルベニア 12.0
5 メリーランド 9.5 31 オレゴン 12.2
6 ニューージャージー 9.7 32 フロリダ 12.3
7 バーモント 9.7 33 インディアナ 12.3
8 ノースダコタ 9.8 34 アリゾナ 12.4
9 ハワイ 10.1 35 ノースカロライナ 12.8
10 アイダホ 10.1 36 オハイオ 13.3
11 バージニア 10.2 37 ミシガン 13.5
12 コネチカット 10.3 38 ジョージア 13.6
13 ワシントン(州) 10.3 39 テキサス 13.7
14 アラスカ 10.4 40 サウスカロライナ 13.9
15 マサチューセッツ 10.4 41 コロンビア特別区 14.0
16 メーン 10.4 42 テネシー 14.0
17 デラウエア 10.5 43 ニューヨーク 14.2
18 ネブラスカ 10.5 44 アラバマ 15.6
19 ウィスコンシン 10.7 45 アーカンソー 15.7
20 ロードアイランド 10.8 46 オクラホマ 15.9
21 カンザス 11.2 47 ケンタッキー 16.4
22 アイオワ 11.3 48 ウェストバージニア 16.7
23 ワイオミング 11.3 49 ニューメキシコ 17.8
24 イリノイ 11.6 50 ミシシッピ 18.0
25 モンタナ 11.7 51 ルイジアナ 18.9
26 サウスダコタ 11.8      

注:網掛けは、連邦最賃(時給7.35ドル)適用州。貧困率は各州において「貧困ライン」未満で生活している者の割合。「貧困ライン」の定義は本文参照。

出所:議会調査局ウェブサイト(Poverty in the United States in 2023新しいウィンドウ)より作成

連邦保健福祉省(HHS)は、上述の国勢調査局による「貧困ライン」をもとに、世帯人数別の「連邦貧困レベル(FPL)」を「貧困ガイドライン」として示し、メディケイド、CHIPSなどの医療保険受給資格の判断基準としている。例えば2025年のFPL(年収)は、1人世帯が1万5,650ドル、2人世帯が2万1,250ドル、3人世帯が2万6,650ドル、4人世帯が3万2,150ドルとなっている(注2)

現在の連邦最賃(時給7.25ドル)を年収に換算すると1万5,080ドル(7.25ドル/時×40時間×52週)で、一人世帯のFPLにも満たない水準である。リベラル系シンクタンクの経済政策研究所(EPI)は「適切な水準に設定された最低賃金は、低賃金労働者の経済的安定を向上させる最も有力な政策手段の一つであり、貧困削減にも効果的な手段だ」と主張し、貧困対策の観点からも連邦最賃を引き上げを訴えている(注3)

参考資料

参考レート

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