雇用労働部が雇用保険適用基準を変更する改正案を立法予告

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雇用労働部は7月7日、「雇用保険法」及び「雇用保険及び産業災害補償保険の保険料徴収等に関する法律」の改正案を立法予告した。法案によれば、労働者の雇用保険への加入条件が、「労働時間」から「報酬」基準に変更される。以下に概要を紹介する。

労働者の適用基準を「労働時間」から「報酬」に

1995年の雇用保険導入以来、労働者の雇用保険適用基準は、「週所定労働時間が15時間以上であること」と定められてきた。

しかし、近年は雇用形態の多様化等により、労働時間の確認が難しいフリーランス等の労務提供者や、週15時間未満で働く複数事業労働者等が雇用保険の適用を受けられないことが問題となっていた(注1)。また、事業主の申告漏れにより、本来は適用対象であるにもかかわらず未加入の労働者がいた場合、労働時間基準では実態把握が難しかった。

こうした課題を踏まえ、政府は制度改編に取り組んできた。2023年3月には、雇用労働部次官が委員長を務める「雇用保険委員会」を設置し、労使や専門家による計11回の審議・議決を経て、今回の改正案が取りまとめられた。

改正法案では、報酬(所得税法上の勤労所得から非課税勤労所得を差し引いた額)を労働者の適用基準とする。このような報酬基準にすることで、フリーランスやプラットフォーム労働者に適用の余地が今後広がると予測される。さらに、報酬は国税庁に照会することで容易に確認できるため、申告漏れによる未加入者を円滑に発見し、加入を促すことが可能となる見通しである。

また、複数の事業場で働く超短時間労働者についても適用対象が広がる。現行では、複数事業場のうち、週15時間以上就業した事業場でのみ雇用保険適用対象となるが、改正法案では、複数事業場の報酬を合算した額が基準額を超えれば、労働者の申出により雇用保険に任意で加入することができるとしている(注2)

適用基準となる具体的な報酬額は未定であり、今後施行令を通じて別途定めることとしている。

なお、雇用保険制度は大きく「失業給付」事業と「雇用安定・職業能力開発」事業に分かれている。保険料率は、失業給付事業は労使折半で0.9%、雇用安定・職業能力開発事業は企業規模に応じて0.25%~0.85%で事業主のみ負担する(注3)

雇用保険・労災保険料算出基準も報酬に変更

さらに、雇用保険料及び労災保険料の算出基準を、「平均報酬月額」から「報酬実績額」に変更する。

韓国の雇用保険・労災保険制度(産業災害補償保険制度)では、保険料の徴収や給付などの実務は、雇用労働部の傘下機関である勤労福祉公団が担っている。勤労福祉公団は、前年の事業主の報酬支給額を元に平均報酬月額(総報酬額を12か月で割った額)を算出し、その額を元に概算で当年度の保険料を賦課する。概算保険料と報酬実績額の差額は、年度末に賃金総額が確定した後に精算を行う。そのため、事業主は勤労福祉公団に対して毎年、前年度の確定保険料と新年度の概算保険料をまとめて申告・精算している。

他方、国税庁は「リアルタイム所得把握制度」を導入しており、事業主が毎月、賃金支払明細書等の資料を国税庁に申告している。この制度は、2021年7月に日雇い労働者を対象に施行された後、段階的に対象労働者の範囲を拡大しており、2026年1月からは常用労働者も対象に加わる予定である。これにより、国税庁は労働者の報酬実績額を迅速に把握できるようになる。

保険料の算出基準を国税庁の総支給額データに統一することで、事業主は勤労福祉公団に対して別途支給額を申告する必要がなくなり、前年度分の精算の手間も解消され、事務手続きの簡略化と事業主の負担軽減が期待される。

失業給付の算出基準も報酬に変更

このほか、「求職給付(最も基本的な失業給付)」の給付額の算出基準を、「離職前3か月間の平均賃金」から、「離職前1年間の報酬」に変更する。

現行の制度では、失業者に対して支給される求職給付の支給額は、離職前3か月間の平均賃金に基づいて支給されている(注4)。失業給付を受給するためには、失業者は離職した事業所から離職前の賃金を記載した「離職確認書」の発行を受け、それを公共職業安定所(「雇用福祉プラスセンター」)に提出し、確認を受ける必要があり、この申告の手間が求職給付の迅速な支給の妨げとなっていた。

改正法案では、求職給付の算出基準を雇用保険料の徴収基準とそろえ、「離職前1年間の報酬」基準とすることで、給付額の算出と行政手続きの迅速化を図る計画である。

雇用労働部は、育児休業給付や育児労働時間短縮給付といった他の雇用支援事業の給付金についても、報酬基準に一元化する方針である。

今回の改正案は、今後40日間立法予告期間が設けられ、この間に利害関係者の意見聴取が実施される。その後、関係省庁の協議を経て10月中に国会に法案が提出される予定である。

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