2026年適用最低賃金は2.9%増の10,320ウォンで決着

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最低賃金委員会は2025年7月10日、2026年1月から適用される最低賃金を現行より2.9%(290ウォン)引き上げ、時給10,320ウォンとすることを決定した。採決なしに労使合意によって最低賃金が決定されたのは、2008年以来17年ぶりである。以下で決定経過の概要を紹介する。

17年ぶりに採決なしに労使合意により決定

韓国では、雇用労働部長官の要請によって、最低賃金委員会が最低賃金額を審議・議決し、雇用労働部長官が8月5日までに翌年の最低賃金を告示する仕組みとなっている。

最低賃金委員会は、公益委員、労働者委員、使用者委員各9人、計27人で構成されている。同委員会は、2026年適用の最低賃金を審議するため、2025年4月から7月にかけて12回の全体会議を開催した。

6月19日に開催された第6回会議で提示された当初案では、労働者委員は14.7%増(時給11,500ウォン)を提案し、使用者委員は現行水準の据え置き(10,030ウォン)を提案した。両者の隔たりは大きかったが、その後の修正案では次第に接近していった(図表1)。

図表1:2026年度韓国最低賃金案(単位:ウォン、%)
労働者委員 使用者委員
時給 引き上げ率 時給 引き上げ率
当初案 11,500 14.7% 10,030 0.0%
第1次修正案 11,500 14.7% 10,060 0.3%
第2次修正案 11,460 14.3% 10,070 0.4%
第3次修正案 11,360 13.3% 10,090 0.6%
第4次修正案 11,260 12.3% 10,110 0.8%
第5次修正案 11,140 11.1% 10,130 1.0%
第6次修正案 11,020 9.9% 10,150 1.2%
第7次修正案 11,000 9.7% 10,170 1.4%
第8次修正案 10,900 8.7% 10,180 1.5%
第9次修正案 10,440 4.1% 10,220 1.9%
第10次修正案 10,430 4.0% 10,230 2.0%
2026年度最低賃金額 10,320(2.9%)

出所:最低賃金委員会報道資料を基に作成

7月9日に開催された第10回・第11回会議では、審議促進を目的として、公益委員が上限4.1%、下限1.8%という上下幅を提示した。この上限4.1%は、2025年の国民経済における生産性上昇の予測値2.2%に、過去3年間の累積消費者物価指数上昇率と最低賃金引き上げ率との差1.9%を加えたものである(注1)。一方、下限1.8%は、2025年の消費者物価上昇率の予測値に基づいている。

しかし、この上下幅の水準が低すぎるとして、韓国全国民主労働組合総連盟(民主労総)推薦の労働者側委員4人は会議を途中で退席した。

翌7月10日に開催された第12回会議では、委員長が上下幅内での修正案の提出を労使に求めると、民主労総推薦の労働者委員4人は前回と同様に反発して退席した。残りの労働者委員と使用者委員は引き続き修正案を提出した。第10次修正案では、労働者委員が4.0%増、使用者委員が2.0%増を提案し、労使の差が縮まった。

最終的に2026年度適用最低賃金額は採決をとらず、公益委員の調整と労使の合意によって、現行より2.9%(290ウォン)引上げとなる時給10,320ウォンに決定した(図表2)。月額換算では、月209時間基準で215万6,880ウォンである(注2)

労使合意によって最低賃金が決定されたのは、2008年以来17年ぶりのことである。

図表2:最低賃金の推移(2016年~2026年) (単位:ウォン、%)
画像:図表2

出所:最低賃金委員会報道資料を基に作成

この最低賃金は、雇用労働部長官が8月5日までに正式決定し、2026年1月1日から1年間適用される。最低賃金の影響を受ける労働者は、経済活動人口調査によれば290万4,000人で、影響率は13.1%である。

業種別適用は今年も否決

最低賃金法では、特定業種に異なる最低賃金を設定することが認められている。しかし、業種別適用は、最低賃金制度導入初年度の1988年に一度実施されたが、それ以降は、全業種一律の最低賃金が適用されている。近年では、中小企業等から使用者の支払い能力を考慮して業種別適用を求める声が強まっており、最低賃金委員会での主要な争点の一つとなっている。

第6回会議では、この業種別適用の可否をめぐって採決が行われたが、賛成11票、反対15票、無効1票で否決された。これにより、2026年度も全業種に対して一律の最低賃金が適用される。

労使団体の評価

今回の決定について、労使団体はそれぞれの立場から声明を発表した。

民主労総は、物価上昇を考慮すると実質的な最低賃金は下落するとして、強く反発した。また、今年6月に発足した李在明政府が掲げる「労働尊重」や「国民経済の回復」といった公約に反していると批判している。

韓国労働組合総連盟(韓国労総)も、公益委員が提示した上下幅は使用者に有利だったと指摘し、最低賃金が低水準にとどまった分を補完する施策として、政府に対し低賃金労働者向けの生活支援政策の拡充を求めた。

一方、韓国経営者総協会は、中小企業や小規模自営業者の経営難を考慮すると最低賃金の凍結が必要だったとの認識を示しつつも、労使が対立を繰り返すのではなく、互いに一部譲歩しながら調整したと評価した。また政府に対しては、最低賃金の引上げが経営悪化や雇用の縮小につながらないよう、政策的な支援を期待すると述べている。

参考資料

参考レート

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