世界の雇用の4分の1が生成AIに代替される可能性
―ILO研究ブリーフ
国際労働機関(ILO)は2025年5月、生成AIが雇用に与える影響について分析した最新研究レポート「Research Brief AI and jobs: A 2025 update」を公表した。以下で概要を紹介する。
事務職が最大の影響を受ける
本研究では、生成AIが各職業に与える影響を調べるために、各職業を構成するタスクごとにAIによる自動化の可能性をスコアづけする方法を用いた。分析対象となる職業は、国際標準職業分類(ISCO-08)に基づく436種であり、これらに対応するタスクとして、ポーランド政府による詳細な職業分類に基づく29,753個のタスクが使用された(注1)。
各タスクのAIによる自動化の可能性は0~1の範囲で評価され、0は完全に自動化の影響を受けないこと、1は完全に自動化が可能であることを示す(注2)。職業レベルでの自動化の可能性は、その職業に含まれるタスクのスコアの平均値と分散によって評価する。
本研究では、すべての職業を、生成AIの影響を受ける職業(段階1〜段階4)と、影響が限定的な職業(「わずかな影響」「影響なし」)の6つに分類している。
段階1は、タスクレベルでばらつきが大きく、職業レベルでの影響は小さい。段階2は、タスクレベルのばらつきは段階1同様に大きいものの、職業レベルでは中程度の影響を受ける。段階3は、タスクレベルのばらつきは大きいものの、平均値が高いため職業レベルでの影響は段階2よりも大きい。段階4では、ほぼすべてのタスクが均一に大きな影響を受けており、職業レベルで生成AIによる自動化の可能性が高い。
「わずかな影響」は一部のタスクに中程度以下の影響が見られるのみで、職業レベルでは影響を受けないものを指し、「影響なし」は、ほぼすべてのタスクが影響を受けない職業を指す。
職業ごとのAIによる自動化の影響は図表1のような分布となった。最も自動化の可能性が高い段階4の職業の多くは事務職であった。「影響なし」の職業は熟練技能職や技師・准専門職が多い。
図表1:各職業のAIによる自動化の影響
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出所:ILO(2025)
2023年よりもスコアは低下し、少し現実的な評価に
2023年時点の推計と比較したところ、全体の平均点は、2023年の0.30から、2025年には0.29までわずかに低下した。また、2025年の結果は2023年と比較して全体的に分散が小さく、分布が密集していた(図表2)。
2023年と同様、2025年も最も大きな影響を受ける職業は事務職であった。
図表2:各職業のAIによる自動化の影響の比較(2023年、2025年)
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出所:ILO(2025)
しかし、事務職で行うタスクの一部は、2023年から2025年にかけてスコアが低下しており、それに伴い段階4の事務職のいくつかのタスクは自動化可能性が低下している(図表3)。議事録の作成やアポイントの調整等のタスクの中には、2023年にスコアが0.9に上昇したものもあったが、2025年の推計では、最も高いスコアでも0.76にとどまっている。これは、2023年には理論上の可能性に基づいてやや楽観的に評価されていたのに対して、2025年は実際の生成AI利用経験に基づいて評価されたためと考えられる。この結果は、生成AIによって深刻な影響を受ける職業であっても、生成AIが実際の業務を完全に代替することには限界があり、依然として人間の関与が不可欠であることを示している。
図表3:段階4の職業の自動化による影響の変化(2023年、2025年)
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出所:ILO(2025)
一方、高度なデジタル技術を必要とする職業の一部は、2023年から2025年にかけてスコアの平均値が上昇した(図表4)。これは、2023年時点では、生成AIは主に高度なテキスト作成ツールであると考えられていたのに対して、2025年には画像や音声も扱う多機能性や、指示に応じて自律的に作業を進める能力が加わったことにより、より幅広い作業の自動化が可能になったためである。このような生成AIの能力の向上により、ウェブ・マルチメディア開発者や、データベース設計者・管理者といった職業は、大きな影響を受ける段階3、段階4に属している。ただし、これらのデジタル関連職の多くが技術の進歩に伴って近年登場したように、このAIによる影響が一概に労働者の役割を減らすわけではなく、生成AIの発展に伴って新たな職業が創出される可能性も示唆される。
図表4:2023年から2025年にかけて平均値が増加した職業
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出所:ILO(2025)
世界の雇用の24%が影響を受ける
次に、生成AIの影響を受けると判断された112の職業(段階1~段階4に属する)をILOの雇用推計と照らし合わせ、世界の雇用に及ぼす影響の大きさを調べた。
この推計によると、世界の総雇用の24%が生成AIの影響を受けることが明らかとなった(図表5)。また、影響の大きさは男女で異なり、影響を受ける雇用の割合は、男性は21%であるのに対して、女性は28%にのぼる。これは、女性が多く就業する事務職でAIによる自動化リスクが高いためであると考えられる。特に、第3段階、第4段階では男女差が顕著であり、これらに該当する雇用は男性がそれぞれ3.1%と2.4%であるのに対し、女性は5.7%と4.7%に達する。
さらに、所得水準によっても影響の度合いは異なる。影響を受ける雇用の割合は、低所得国では11%にとどまる一方、高所得国では34%にのぼる。これは、事務や財務、顧客サービスといった、生成AIの影響を大きく受ける職業の従事者が高所得国に集中しているためである。
図表5:生成AIによって影響を受ける雇用の割合と件数(単位:%、件)
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出所:ILO(2025)
上記のように、本調査では生成AIが職業に与える影響を分析した。ただし、この結果はあくまでも論理的な見通しに過ぎず、実際にはインフラや技術コスト等が制約となるため、生成AIが人間の雇用を完全に代替する可能性はほぼなく、依然として大半の仕事で人間の関与が必要になると予測される。
職業コード | 職業名 | 平均 | 標準偏差 |
---|---|---|---|
4132 | データ入力事務員 | 0.70 | 0.03 |
4131 | タイピスト、ワープロオペレーター | 0.65 | 0.05 |
4311 | 会計・経理事務員 | 0.64 | 0.07 |
4312 | 統計・財務・保険担当事務員 | 0.64 | 0.02 |
3311 | 証券・金融のディーラー、ブローカー | 0.63 | 0.04 |
4419 | 他に分類されない事務補助員 | 0.63 | 0.03 |
2413 | 金融アナリスト | 0.62 | 0.06 |
4313 | 給与計算事務員 | 0.61 | 0.08 |
5244 | コールセンター販売員 | 0.61 | 0.10 |
2513 | ウェブ・マルチメディア開発者 | 0.60 | 0.08 |
3312 | 貸付審査・貸付融資担当者 | 0.60 | 0.04 |
4110 | 一般事務員 | 0.60 | 0.10 |
4416 | 人事担当事務員 | 0.60 | 0.09 |
出所:ILO(2025)より作成
職業コード | 職業名 | 平均 | 標準偏差 |
---|---|---|---|
2643 | 翻訳者、通訳者、その他の言語学者 | 0.59 | 0.11 |
4120 | 秘書(一般) | 0.58 | 0.10 |
4211 | 銀行窓口係及び関連職業の事務員 | 0.58 | 0.09 |
4222 | コールセンター案内係 | 0.58 | 0.06 |
4414 | 代書人及び関連職業の従事者 | 0.58 | 0.08 |
2412 | 財務・投資顧問 | 0.57 | 0.11 |
2514 | アプリケーションプログラマー | 0.57 | 0.08 |
2521 | データベース設計者・管理者 | 0.57 | 0.08 |
2522 | システムアドミニストレーター | 0.57 | 0.05 |
3314 | 統計・数理及び関連分野の准専門職 | 0.57 | 0.10 |
3331 | 通関士、荷送人 | 0.57 | 0.09 |
4225 | 照会窓口事務員 | 0.57 | 0.09 |
4226 | 受付係(一般) | 0.57 | 0.17 |
2120 | 数学者、保険計理士、統計の専門職 | 0.56 | 0.09 |
4221 | 旅行コンサルタント・事務員 | 0.56 | 0.07 |
2431 | 広告・市場調査の専門職 | 0.55 | 0.09 |
2519 | 他に分類されないソフトウェア・アプリケーション開発者、アナリスト | 0.55 | 0.16 |
2622 | 図書館司書、関連情報専門職 | 0.55 | 0.04 |
2631 | 経済分析家 | 0.55 | 0.08 |
2641 | 作家、著述家 | 0.55 | 0.09 |
3342 | 法務秘書 | 0.55 | 0.13 |
4227 | インタビュー調査員、市場調査員 | 0.55 | 0.16 |
2112 | 気象学者 | 0.54 | 0.13 |
2642 | ジャーナリスト | 0.54 | 0.10 |
3343 | 幹部・役員の秘書 | 0.54 | 0.14 |
4223 | 電話交換手 | 0.54 | 0.15 |
2512 | ソフトウェア開発者 | 0.53 | 0.07 |
3321 | 保険販売代理人 | 0.53 | 0.12 |
3344 | 医療秘書 | 0.53 | 0.11 |
3514 | ウェブ技師 | 0.53 | 0.12 |
2523 | コンピュータネットワーク専門職 | 0.52 | 0.06 |
3252 | 医療事務員、医療情報技師 | 0.52 | 0.10 |
2411 | 会計士 | 0.51 | 0.08 |
2434 | 情報通信技術販売専門職 | 0.51 | 0.09 |
4224 | ホテル受付係 | 0.51 | 0.07 |
4413 | コード化・校正及び関連職業の事務員 | 0.51 | 0.20 |
2433 | 技術医療販売専門家(情報通信を除く) | 0.50 | 0.10 |
4323 | 運送担当事務員 | 0.50 | 0.10 |
出所:ILO(2025)より作成
注
- 国際標準職業分類(ISCO-08)の最小単位は436種類の小分類であり、各職業には4ケタの職業コードが設定されている。ポーランドの職業分類(KZiS)は政府の労働統計等に使用されており、ISCO-08と互換性がある。この分類は、2,541種の職業と29,753のタスクで構成されており、最小単位には6ケタのコードが設定されている。
本研究は、2023年に発表された「ILO Working paper 96 Generative AI and Jobs: A global analysis of potential effects on job quantity and quality」の調査手法を更新して実施された。2023年の研究では国際標準職業分類(ISCO-08)に基づく436の職業について自動化可能性を評価していたが、本研究ではポーランドの職業分類を使用することでさらに詳細な分析が可能となっている。(本文へ) - 評価は人間とAIの組み合わせによって算出されている。一部のタスクについて、人間がアンケート調査によって自動化可能性を評価し、専門家がその評価の一部のタスクについて検証と調整を行った。次にこれらのスコアについて生成AIに学習させ、残りすべてのタスクについてAIによる評価を行った。(本文へ)
参考資料
- ILO “ILO Data: How might generative AI impact different occupations?
”
- ILO “Joint study: One in four jobs at risk of being transformed by GenAI, new ILO–NASK Global Index shows
”(2025/05/20)
- ILO “ILO Working paper 96 Generative AI and Jobs: A global analysis of potential effects on job quantity and quality
”
- ILO “ILO Working Paper 140: Generative AI and Jobs: A Refined Global Index of Occupational Exposure
”
- ILO “Research Brief Generative AI and jobs: A 2025 update
”
2025年7月 ILOの記事一覧
- 世界の労働力の4.7%は移民労働者 ―ILO国際労働力移動世界推計第4版
- 世界の雇用の4分の1が生成AIに代替される可能性 ―ILO研究ブリーフ
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