AI技術職の需要状況と人材争奪戦

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2025年4月

中国におけるAI技術職の需要や市場動向は、現在どのように推移しているのだろうか。猟聘ビッグデータ研究所は、2025年1月に「AI技術人材需給インサイトレポート(注1)」(以下、「レポート」)を発表した。本レポートでは、2024年2月から2025年1月までの1年間におけるAI技術職の需要状況や、市場に供給されているAI人材の特性が取り上げられている。AI技術職には高学歴の人材が求められ、採用の中心は若年層である。高収入職としても注目されており、年収50万元以上の職能において最も高い割合を占めている。中でもアルゴリズムエンジニアの需要が突出しており、主にインターネット業界で多くの求人が見られる。地域別では、北京・上海・深センにおけるAI人材需要のトップ3となっている。

AI人材不足

中国市場では、AI分野の人材不足が大きな課題となっている。「レポート」によると、AI技術全体の人材不足指数(TSI、Talent Shortage Index(注2))は3.24に達しており、労働市場は非常に供給不足の状態にある。職能別に見ると、検索アルゴリズムと推薦アルゴリズムの人材不足指数が特に顕著で、それぞれ9.35と7.35に達している()。音声認識やアルゴリズムエンジニアなどの職能別でも不足指数は3を超えており、画像アルゴリズムや機械学習などの職能でも2を上回っている。これらの数値から、各分野において専門人材の需要が非常に高いことがうかがえる。

図:職能種別における人材不足指数(TSI)
画像:図

出所:「AI技術人材需給インサイトレポート」

米コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーの最新調査報告(注3)によると、たとえ中国市場が目先では縮小傾向を示していたとしても、AI人材の確保は今後ますます困難になると見込まれている。2030年までに、AIが中国経済にもたらす潜在的な価値は1兆米ドルを超えると予測されており、それに伴いAI人材の需要は600万人規模に達すると見込まれている。一方で、国内外の大学や既存の高度人材による供給では、必要とされる人材の約3分の1に相当する200万人しか確保できず、約400万人の人材が不足する見通しだ。さらに、現在の出生率低下の影響により、2030年以降は大学生の数が減少すると予測されており、AI人材の不足は一層深刻化する可能性が高い。

学歴需要も収入も高まる

「レポート」によると、AI技術職には高学歴が求めてられている。明確に修士号または博士号を要件としている求人は全体の46.98%を占めており、内訳は修士号が42.72%、博士号が4.27%となっている。また、給与面においても、高年収の傾向が顕著であり、年収50万元(約1,000万円)以上の求人は30.97%にのぼり、非常に高い水準となっている。

AI技術職の職能別ニーズ分析によると、アルゴリズムエンジニアの人材需要が約7割(67.17%)を占めている。続いて、「画像処理アルゴリズム」が9.41%、「マシンビジョン技術」が6.46%を占める。また、ディープラーニングと機械学習もそれぞれ4.90%、4.19%と一定の需要を示している。

業界別需要分布を見ると、最も需要が高いのはインターネット業界で、全体の30.37%を占めている。次いで、電子・半導体・集積回路業界が21.25%で第2位、コンピュータソフトウェア業界と人工知能分野がそれぞれ19.35%、13.87%で第3位、第4位を占めている。機械・設備業界は7.10%で第5位に位置している。

業界別に見たAI技術人材需要の前年比成長率において、最も成長率が高かったのは家電業界で、93.75%に達している。次いで、通信機器(38.61%)、スマートハードウェア(37.22%)、新エネルギー(33.44%)が第2位から第4位を占めている。電子・半導体・集積回路業界も28.87%と堅調な伸びを示している。家電業界は現在、スマート化への転換を加速させており、それに伴ってAI技術への依存度および人材需要が著しく高まっている。

また、AI技術人材需要の都市別分布トップ10を見ると、北京(21.17%)、上海(20.54%)、深セン(16.42%)の3大都市が上位を占めている。続いて、杭州(7.53%)と蘇州(4.16%)が第4位、第5位に、広州(3.57%)が第6位にランクインしている。経済が発展し、産業の集積が進んでいる地域ほど、AI技術人材に対する需要が高い傾向が見られる。

AI技術分野の人材像

「レポート」では、AI技術分野で活躍している人材を見ると、30歳以下の人材が全体の59.90%を占めており、特に25歳~30歳の年齢層が38.33%と最も高く、続いて、30歳~35歳の年齢層が26.20%を占めている。年齢層が若年化していることがわかる。

学歴では、AI技術人材の多くが高い学歴を有しており、修士・博士課程修了者の合計は72.99%(うち修士63.93%、博士9.06%)に達している。専門分野に目を向けると、これらの人材の多くは、「計算機科学と技術」「ソフトウェア工学」「電子情報」「機械工学」「コンピュータ技術」などの分野に集中している。

AI人材争奪戦

昨年、「ディープシーク」の開発などを契機に、AI事業は中国本土で急速に盛り上がりを見せている。これにより、AI人材を巡るグローバルな競争が一層激化している。中国本土の企業も、AI人材の確保に本格的に乗り出しており、競争はますます熾烈となっている。

中国大手人材会社「智聯招聘」は2025年春の採用シーズン初週(2025年1月28日―2月7日)の報告において、人工知能(AI)業界の求職者数が前年同期比で33.4%増加し、業界別で最も高い成長率を記録したと発表した。AI業界の求人は増加傾向にあり、特にAIエンジニアの需要が高まっている。AIエンジニアの求職者数は69.6%増加し、職能別でトップとなっている。採用時の平均月収についても、AIエンジニアは21,319元と、全職能の中で最も高い水準となっている。経験年数に応じた月収は以下の通りである。

  • 経験年数を問わない場合:15,448元
  • 1年以下の経験者:20,600元
  • 1〜3年の経験者:21,410元
  • 3〜5年の経験者:22,267元
  • 5年以上の経験者:35,802元

このように、経験年数に応じて月収水準が大きく変動することが分かる。

大手企業側も優秀な人材の確保に向けて動きを強めている。バイトダンス(ByteDance)は、これまでAI人材の確保を目的として、主に博士課程修了予定者を対象に採用活動を行ってきた(注4)。対象となるのは、2024年9月から2025年8月までに博士課程を修了予定の者であり、トップカンファレンスや一流学術誌での論文・特許実績を有する「研究志向型」、国際大会において優れた成績を収めた「競技志向型」、または大型プロジェクトへの参加経験が豊富で、課題解決力に優れた「実務志向型」の人材である。採用対象分野は、AI応用、検索、推薦、広告、AI for Science、安全性、ロボティクス、プライバシー・セキュリティ、ハードウェア、映像処理およびシステムアーキテクチャなど、多岐にわたる技術領域に及ぶ。また、本年3月には、2025年9月以降に博士課程を修了予定の人材を中心に、正社員採用につながるAI人材向けインターンシップも実施された(注5)

アリババのクラウド事業を担うアリババクラウド(阿里雲)は、今年3月25日、ここ数年で最大規模となるAI人材のキャンパス採用を開始した。対象は清華大学、北京大学、浙江大学、スタンフォード大学など世界トップクラスの大学の新卒者で、募集分野は大規模言語モデル(LLM)、マルチモーダルの理解・生成、モデル応用、AIインフラといった技術領域に及ぶ。優秀な人材には、高い報酬や専門的な支援を提供するとのことである。

参考文献

  • 猟聘ビッグデータ研究所、マッキンゼー・アンド・カンパニー、都市南方報、NNA

参考レート

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