失業率の「低下」と求職者数の「増加」

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2025年3月

国立統計経済研究所(INSEE)の発表によると、2024年第4四半期の失業率は、前期比0.1ポイント低下し、7.3%となった。同期はオリンピック後の経済の低迷が顕在化するなか、各社から事業所閉鎖の方針発表が相次ぎ、失業率の悪化が見込まれたが、その見方を覆す結果だった。ただ、INSEEによるILO基準の「失業率」とは別に、フランス・トラバイユ(公共職業安定機関)の発表する「求職者数」は増加しており、失業率とは異なる傾向を示している。また、INSEEやフランス銀行の将来予測では、2025年から2026年にかけて失業率が7.5~8%に上昇する恐れがある。そのため今回INSEEによって発表された失業率の低下は、経済情勢の好転を示すものではなく、慎重に受け止めるべきであるとの見方が多い。

失業率の低下

国立統計経済研究所(INSEE)が2月11日に発表した統計によると、2024年10-12月期の失業率は7.3%(海外県マヨット除く)となり、前期から0.1ポイント低下した(図表1参照)(注1)。失業者数は6万3,000人減少し、227万2,000人となった。7.3%という数値は、1982年以来の最低水準となった2022年第4四半期および2023年第1四半期の7.1%より僅かに高い水準であり、近年のピークだった2013年第2四半期の10.3%を大幅に下回っている。

図表1:失業率の推移 (単位:%)
画像:図表1
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出所:INSEE Informations Rapides · 11 février 2025 · n° 34より作成。

雇用労働者数の減少

失業率の低下が見られものの、2024年のオリンピック以後、事業所閉鎖の発表が相次いでおり、雇用への影響が懸念される(国別労働トピック:2025年2月参照)。

実際、INSEEが2月7日に公表した統計数値によると、雇用労働者数が2024年第3四半期から第4四半期にかけて5万100人減少したことに、その兆候が見て取れる(図表2参照)(注2)。産業別にみると、サービス業が3万6,600人減と最も大きく減少し、そのほか、農業が2,400人減、製造業が3,200人減、建設業が7,800人減となっている。サービス業は、四半期ごとに増減を繰り返しているが(図表3参照)、建設業は2022年第4四半期以降、一貫して減少している(図表4参照)。

図表2:雇用労働者数の推移 (単位:千人)
画像:図表2

出所:INSEE, Informations rapides, No 33より作成。

図表3:サービス業の雇用労働者数の推移 (単位:千人)
画像:図表3

出所:INSEE, Informations rapides, No 33より作成。

図表4:建設業の雇用労働者数の推移 (単位:千人)
画像:図表4

出所:INSEE, Informations rapides, No 33より作成。

求職者数は増加

国際比較で用いられるILO基準の「失業者数」とは別に、フランス国内では、フランス・トラバイユ(公共職業安定機関)に登録された「求職者数(カテゴリーA)」(注3)が、失業者の統計数値として用いられている。2024年第4四半期は、前期比11万3,800人(4.0%)増加し、1年間で3.7%の増加となった(注4)

ILOの定義に基づいてINSEEが発表する「失業率」と、「求職者数」の登録に基づき失業者数を集計するフランス・トラバイユ(公共職安)の数値は、集計方法が異なるため、ギャップを生じさせているとの指摘がある(注5)。ILOの定義の方が厳格であり、就労実績や求職活動の有無の判断で、フランス・トラバイユの定義では求職者に含まれるが、ILOの定義では非労働力として失業者に含まれない場合があるという指摘もある(注6)。2015年以降の失業者数と求職者数の推移を図示したものが図表5である。「求職者数」と「失業者数」は概ね同じ動きを示しているが、増減に時間差が生じたり、一時的に全く異なる動きを示すことがある。

図表5:失業者数と求職者数の推移 (単位:千人)
画像:図表5

出所:DARES Dares Indicateurs N° 5およびINSEE, Informations rapides, No 33より作成。

求職者と失業者の統計数値の相違について分析したレポート(2017年の労働市場を対象)によると、「カテゴリーAの求職者数」には後述の「失業者予備軍=失業の縁辺部の労働者」が一部含まれるほか、「過渡期的状況(situations transitoires)」(注7)、あるいは健康上の理由で一時的に就労していない労働者が含まれる(注8)図表6参照)。その一方で、ILO基準の「失業者」には、フランス・トラバイユに登録された求職者のカテゴリーBおよびD(注9)の一部が含まれている場合もあるほか、求職者登録せずに求職活動をする学生が含まれている。

図表6:求職者と失業者の相違
画像:図表6

出所:Christophe Dixte (2019) p. 25より作成。

注:カテゴリーA=全く就労しておらず、積極的に求職活動をする必要がある求職者、カテゴリーB=1カ月当たり78時間以下の就労をしながら、積極的に求職活動をする必要がある求職者、カテゴリーC=1カ月当たり78時間超の就労をしながら積極的に求職活動をする必要がある求職者、カテゴリーD=失業中であるが、インターンシップ、職業訓練、病気などの理由によって積極的な求職活動をする必要がない求職者。実線内がカテゴリーAの「求職者」。破線内がILO基準の「失業者」。

なお、2020年第2四半期に、カテゴリーAの求職者数が急増しているが、Unedic(失業保険制度の運営組織の全国商工業雇用連合)は、コロナ禍の危機により職を失ったために新規登録者が増加したというよりも、それまでカテゴリーBやCとして登録し、短時間労働をしていた求職者が全く就労できなくなり、カテゴリーAに区分されるようになったためとしている(注10)

減少傾向の失業者数と増加傾向の「失業者予備軍」

失業率の低下を伝える一方で、INSEEの同レポートでは、失業率の背景にあるものとして「失業者予備軍」の増加について分析している(注11)。「失業者予備軍」は「失業の縁辺部の労働者(halo autour du chômage)」と称される、就労する意欲はあるが、積極的に求職活動をしていない、あるいは、即時には就業ができる状態にないなどの理由で失業者の定義には該当しない者とされる(注12)。育児の問題、健康上の問題、または単に求職活動を積極的にする気力を失ったことなどにより働くことができない、あるいは、「過渡期的状況」のため、公式の統計上の失業者にはカウントされていないグループである(注13)。労働力人口に占めるこうした「失業者予備軍」の割合は2024年10-12月期に4.6%となり、前期比0.3ポイント増加、最近1年間で9万3,000人増加し、197万1,000人となった。「失業者予備軍」は、ある意味で労働市場の根本的な脆弱性を反映していると考えられるため、この増加傾向を無視すべきではないとの指摘もある(注14)

失業者予備軍の増加傾向

失業率は近似曲線を描くと長期的にみてほぼ横ばいだが、失業者予備軍の占める割合は上昇傾向にある。また、失業者数は減る傾向にあるが、失業者予備軍の数は増加傾向にある(図表7および8参照)。

図表7:失業率と失業者予備軍の占める割合の推移 (単位:%)
画像:図表7

出所:INSEE Informations Rapides · 11 février 2025 · n° 34より作成。

図表8:失業者数と失業者予備軍の数の推移 (単位:千人)
画像:図表8

出所:INSEE Informations Rapides · 11 février 2025 · n° 34より作成。

失業者予備軍について、若年者層の増加が顕著との指摘もある(注15)。失業者予備軍に占める15~24歳の若年層の割合は、第3四半期は前期比0.7ポイント低下したが、第4四半期には1.2ポイント上昇した。この増加は主に、就学中の若年層によって押し上げられており、水準としては、INSEEが四半期ごとの測定を開始した2003年以後、最高水準となった。

若年者層の雇用への影響では、カテゴリーAの求職者が増加した要因も、若年者層の求職者数の増加が大きな要因として挙げられている。2024年第4四半期に25歳未満のカテゴリーAの求職者数が8.5%増加し、1年間では7%増加した。フランス経済情勢観測所(OFCE)・分析予測部門のエリック・ヘイヤー部門長は、公的財政の悪化により職業訓練に対する助成が削減された影響との見方を示している(注16)。また、若年層が人員整理の対象になった可能性もあるとしている。企業が従業員の人員調整をする場合、勤続年数の短い従業員を調整の対象にする場合が一般的であるためである。

2025年に失業率が上昇すると予想

2025年~26年の失業率に関する将来予測では、上昇するとの見方が有力である。

INSEEは2024年第4四半期の失業率が低下したと公表したが、2024年12月の分析レポートでは、「失業率」は「緩やかな上昇を続け、2025年半ばには7.6%に達する」と予測している(注17)。また、フランス銀行は失業率が「2025~2026年には7.5~8%になる可能性がある」と予測し(注18)、フランス経済情勢観測所(OFCE)は2025年末までに失業率が8%前後に上昇すると予測している(注19)

(ウェブサイト最終閲覧日:2025年3月14日)

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