相次ぐ事業所閉鎖の発表と懸念される雇用への影響

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2025年2月

国立統計経済研究所(INSEE)の発表によると、2024年第4四半期(10月期~12月期)のGDPは前年同期比でマイナス成長となった(注1)。同期の民間部門の雇用労働者数は前期比で5万100人(0.2%)減少し、雇用情勢の悪化が鮮明になった(注2)。それを反映するかのように、事業所閉鎖や解雇による人員削減の発表が目立つようになった。この動向は今後、暫く続くという見方が有力である。

最近の事業所閉鎖、整理解雇の動向

2024年末の数週間に事業所閉鎖に伴う人員削減の発表が相次いだ。小売り大手のオーシャンが2,389人、タイヤ製造のミシュランが1,250人、自動車部品のヴァレオが868人、鉄鋼のアルセロール・ミッタルが135人の人員削減をそれぞれ公表した(注3)。CNAJMJ経済データ観測所(注4)によると、2024年は整理解雇の件数が15年ぶりの高水準となり、2024年末までに6万5,000件に達すると予想された(注5)。同観測所は、雇用機会の喪失の懸念がある総数を、16万人と推計している(注6)。また、労働総同盟(CGT)の試算よると、フランスでは約250の社会計画(整理解雇計画)(注7)が準備されており、最大20万人の雇用が脅かされている(注8)。実際に民間部門の雇用労働者数の減少が統計上にも表れており、24年第4四半期に前期比で5万100人(0.2%)減少し、雇用情勢の悪化が鮮明になった(注9)

化学産業における事業所閉鎖

2022年2月に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻を契機として、世界的なエネルギーの需給逼迫による資源燃料価格の高騰が際立つようになった。化学産業はエネルギーや電気料金の影響を特に受けやすいため、今後、2027年までに、総雇用者数20万人の8%に相当する1万5,000人の雇用機会が失われる恐れがあることが明らかになった(注10)。2024年半ばの数カ月間で既に1,000人の雇用が失わたのに加え、石油化学業大手のエクソンモービルが、ポール・ジェローム・シュール・セーヌ(フランス北部のセーヌ=マリティーム県)の事業所で670人の雇用を削減する方針を打ち出した。フランス南西部オーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地方では、ポン・ド・クレー(イゼール県)の化学プラットフォームにあるベンコレックス社の破産により、同グループと取引関係にある他の産業部門が影響を受け、約5,000人の雇用が危機に瀕しているとCGTは推定している。フランスに限らず、ヨーロッパ全体で同じような影響が顕著となっており、イギリスの一般消費財メーカーのユニリーバ、ドイツの特殊化学品製造のエボニック、ドイツの総合化学メーカーのBASFも人員削減を発表した。

自動車産業における事業所閉鎖

タイヤ製造業大手のミシュランは、2024年11月、ショレ(フランス中西部のメーヌ=エ=ロワール県)とヴァンヌ(フランス西部のモルビアン県)の工場閉鎖を発表した。この閉鎖によって1,000人以上の従業員が影響を受けるため、社会に対して衝撃を与えた(注11)

この他、自動車部品製造業のヴァレオは、国内の8拠点で868人の人員削減計画を発表した(注12)。イゼール県サン=カンタン=ファラヴィエで238人(全従業員307人)、アミアンで97人(同765人)、ランスで97人(同323人)、リモージュで83人(同462人)、ラヴァルで16人(同265人)、サント=フロリーヌで80人(同462人)の人員削減が行われる。さらに、ラ・ヴェリエール(パリ首都圏イヴリーヌ県)の研究開発センターの閉鎖が検討されており、25人が解雇され、365人がセルジーとクレテイユの拠点に異動する可能性があるとされている(注13)

相次いで人員削減計画が発表されたことを受け、フェラッチ産業・エネルギー担当相は24年11月、今後数週間から数カ月のうちに更なる工場閉鎖が発表され、それに伴い数千人規模の雇用が影響を受けるとの見通しを示した(注14)

建設業における雇用喪失の懸念

2024年12月、予算法審議過程でバルニエ内閣が総辞職したことにより、主要産業の一つである建設業で雇用喪失の懸念が顕在化した(注15)

フランス建設業連盟(FFB)のオリヴィエ・サルロン代表は、建設業界は経済状況の悪化に先立って人員削減を実施することはなく、経営環境が実際に悪化し、それ以外の選択肢がない場合にのみ従業員を解雇する姿勢を強調している。最近2年以上にわたって不動産業界は危機に直面しているが、120万人(2024年のフルタイム労働者換算)を超える雇用労働者を抱える建設業では大規模な解雇を行っていないことは高く評価されるべきであると主張した。建設業の雇用労働者数の推移を示したのが図表1である(注16)。サービス業などは四半期ごとの雇用労働者数の増減が大きいが、建設業の雇用労働者数は23年以降緩やかな減少に留まっている。

図表1:建設業の雇用労働者数の推移(2022~24年) (単位:千人)
画像:図表1

出所:INSEE, Informations rapides, No 33より作成。

しかし、2024年12月4日にバルニエ内閣不信任案が下院で可決されたことにより、国会における2025年予算法案の審議が中断したため、2025年に建設業界は危機的状況に陥る可能性が出てきた。バルニエ内閣が総辞職したため廃案となった法案には、不動産購入を促進させる複数の措置が含まれており、この措置によって5,000戸から10,000戸の住宅が追加で発注される可能性が高いとサレロンFFB代表は期待していた。例えば、ゼロ金利融資制度の拡充や新築住宅の購入のために家族から資金提供を受けた場合の贈与税を一時的に免除する措置のほか、賃貸物件の供給を増やすことを目的とする減税措置、所謂「ピネル制度」(注17)の適用期限を2025年3月31日まで3カ月間延長することも含まれていた。

これら2025年予算法案に盛り込まれた不動産購入促進策が成立しなければ、不動産の着工数は24年の25万3,000戸から、25年には23万9,000戸に減少し1954年以来の低水準(件数)になると懸念される。FFBでは、住宅の着工件数が1軒減少するごとに2人の建設労働者の仕事が無くなると試算している。なお、建設業の経営破綻数は、2024年11月までの11カ月間で約25%増加し、雇用労働者は3万人(フルタイム労働者数換算)削減された。不動産購入促進策が成立しなければ、2025年には10万人(同)の雇用機会が削減される恐れがある。

バルニエ内閣総辞職後、12月13日にエマニュエル・マクロン大統領は中道政党「民主運動(Mouvement Démocrate, MoDem)」のフランソワ・バイルー党首を首相に任命した。2025年に入って予算法案の審議を巡り、下院で過半数を持たない少数与党のバイルー首相は2月3日に、議会の採決を経ずに法案を成立させることができる「憲法第49条第3項」(注18)を発動して法案を可決した(注19)。同法は、憲法評議会の審議を経て公布されることになるが、12月の法案に盛り込まれていた措置が反映されているため(注20)、12月の廃案時の雇用喪失の懸念は払拭されたことになる(注21)。しかし、不動産購入の動向については、明るい兆しが見えている訳ではなく、その他の景気動向などを踏まえると、2025年中はそれほど購入件数が増加することなく、低調なまま推移すると見る向きもある(注22)

事業所閉鎖の要因

余剰人員削減計画の作成支援などを行うコンサルタント会社・アルファ・グループのアラン・プティジャン代表は、「社会計画の数は急増しており、ここ4~5年見られなかったような事業所閉鎖が起きている」と指摘する(注23)

その原因について、同氏は、低迷するGDP成長率、エネルギーコストの上昇、回復が見られない個人消費、減少する投資、厳しい国際情勢により圧迫される利益などを挙げている。さらに、経済指標の悪化は2023年以降、既に顕在化していたが、24年夏に開催されたパリ・オリンピックのお祭り気分がそれを隠蔽し、オリンピック後の経済の急激な減速を、なおさら際立たせたと分析している。その上で、大規模な在庫調整の基調は、2025年も継続する可能性が高く、企業が部品・原材料の供給業者への発注を停止あるいは減らす状況が続くと予想している。

なお、国立統計経済研究所(INSEE)によると、2024年第4四半期にGDPは0.1%減少した(注24)。これは、対外貿易のマイナス(第3四半期の-0.1から-0.2ポイントに低下)の寄与が大きい。輸入は回復したものの輸出の減少幅は拡大(図表2「輸出」参照)。また、家計消費の減速(第3四半期の+0.6%から+0.4%に低下)、特にサービス部門の減速が大きく影響したと考えられる(図表2「家計消費」参照)(注25)

図表2:2024年四半期ごとの変化と前年比 (単位:%)
画像:図表2
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出所:INSEE Informations rapides No 24より作成。

投資(総固定資本形成)は第3四半期から第4四半期にかけて-0.3%から-0.1%に改善したが、2024年全体では第1四半期の減少幅が大きかったため、2024年の年率のGDP成長を低迷させた(図表3参照)。フランス経済情勢観測所 (OFCE) (注26)分析予測部門のエリック・ヘイヤー部門長は、24年6月から7月にかけて行われた下院解散・総選挙後の政治的不確実性が、雇用と投資にとって大きな重荷となっていると分析している(注27)

図表3:経済指標の推移(2022年から2024年) (単位:%)
画像:図表3

出所:INSEE Informations rapides No 24より作成。

(ウェブサイト最終閲覧日:2025年2月17日)

参考レート

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