重点産業の技能人材育成を強化
―上海市
上海市の人的資源・社会保障局などは2024年11月13日、「上海市重点産業分野における技能人材育成の試行強化に関する通知」(以下、「通知」)を発表した。集積回路(IC)、バイオ医薬、人工知能(AI)の3つの「先導型産業」と、人材不足の状態にある高齢者介護や家事サービスなどを重点分野とし、新たな技能人材育成のため、補助金支給などの政策を打ち出している。
17職業に対する職業能力向上補助金を30%引き上げ
「通知」(注1)は、上海市人的資源・社会保障局をはじめとする7つの関連部門が出した。それによると、同市では、人材需要が急速に高まっているIC、バイオ医薬、AIに関する「先導型産業」と、人手不足の高齢者介護、家事サービス業に関連する合計17の職業をリスト化し(表1)、その職業の技能資格(職業技能等級証明書(注2))を取得した労働者に対して、職業能力向上のため支給する補助金を30%引き上げることとした。
番号 | 職業 |
---|---|
1 | 医薬品検査員 |
2 | 化学合成医薬品製造工 |
3 | 医薬品製剤工 |
4 | 生化学医薬品製造工 |
5 | ワクチン製品製造工 |
6 | 電子製品製版工 |
7 | プリント回路製造工 |
8 | 半導体チップ製造工 |
9 | ディスクリート半導体及び集積回路組立工 |
10 | 人工知能(AI)トレーナー |
11 | 工業ロボットシステム運用管理員 |
12 | 工業ロボットシステム操作員 |
13 | コンピュータプログラム設計者 |
14 | コンピュータソフトウェア試験員 |
15 | マルチプロセスCNC工作機械操作調整工 |
16 | 高齢者介護職 |
17 | 家事サービス職 |
出所:上海市人的資源・社会保障局ウェブサイト
また、人工知能のデータラベリング及びモデル適用に関する職業能力評価基準を開発して、特別な資格証明書を発行する。この証明書を取得した、①上海市の学校に在籍する卒業年度の学生、②在職者(公務員及び政府系事業組織の非技能職を除く)、③失業者など、に対して、上述の職業能力向上に関する補助金の支給対象に含めることとした。補助金の支給基準は一人あたり1,000元とする。
高齢者介護及び家事サービス従事者に対する支援
高齢者介護や家事サービスの従事者に対しても、その専門性を高めるため、職業能力向上補助金の支給対象を拡大する。これまでの支給対象は、雇用主に労働者として雇われ、都市従業員向け社会保険に加入している者としていたが、雇用主と労働関係(労使関係)を築いていなくても、上海市の民政部門が運営する「上海市介護職員情報管理システム」及び商務部門が運営する「上海市家事サービス管理プラットフォーム」の登録者で、職業技能証明書の取得後12カ月以内に雇用された者(証明書発行時に就労している者を含む)に対して、上海市の規定に基づき、補助金の申請を認めることとした。
企業の職業訓練に対する支援
企業の職業訓練に対する支援策も講じる。上海市の企業は職業訓練機関に委託して、同市内の失業者、社会保険の加入を維持した退職者(協保人員)、元農村余剰労働力、他の省・自治区・市からの求職者らを対象にした職業訓練を行うことができる。訓練を上海市内で行った場合の補助金基準は1人あたり1,500元、他の省・自治区・市で訓練を行い、上海市での就職を促進した場合は1人あたり1,800元である。訓練後6カ月以内に就職できた場合、訓練機関は就職した人数に基づき、50%の補助金を申請でき、就職者が6カ月以上、上海市での雇用を維持した場合、残りの補助金を申請できる。
「企業新型見習い制度(注3)」に対する補助金支給の仕組みも改善する。従来、在職者の見習い訓練のみを適用対象にしていたが、職業訓練受講者が受講後3カ月以内に企業と労働契約を締結し、社会保険料を納付した場合も対象とする。企業が学校や職業訓練機関と連携し、見習い訓練を実施した場合、学校や訓練機関に対して、1人あたり4,000〜8,000元の基準で補助金を支給する。
AI関連などの職業能力評価の更新
また、上述のように、IC、バイオ医薬、AI、高齢者介護、家事サービスなど、需要が急速に高まり、人材が不足している重点分野について、各業界の研究機関、主要企業、優良な教育機関に対して、「職業技能等級」の認定や、特定職業に関する能力評価の開発および更新のプロジェクトの実施を奨励する。開発成果が市の審査に合格した場合、各プロジェクトは最大10万元の助成金を得られる。
また、人材サービス機関に対して、職業訓練とその評価活動への参加を促す。人材サービス機関が重点分野に焦点を当て、新しい職業訓練の開発、訓練機関の設立、評価機関としての登録申請を行うことを支援する。重点産業の企業から委託を受け、特定職業に関する訓練や企業新型見習い制度の訓練、オンライン・オフラインの職業技能訓練などを実施する優秀な人材サービス機関を、補助金政策の適用対象とする。
注
- 上海市人的資源・社会保障局ウェブサイト
参照
「通知」は2024年11月14日に施行し、有効期限は2025年11月13日までと設定している。「7つの関連部門」は上海市の人的資源・社会保障局、財政局、人材労働局、産業局、科学技術委員会、民政局、商務委員会、及び中国共産党上海市経済・情報化委員会。(本文へ) - 中国の職業資格の証明書には、①職業資格評価、②職業技能等級認定、③特定職業能力評価、によるものがある。①の職業資格評価について、中国人的資源・社会保障部は2019年に「国家職業資格リスト」を発表し、このリストに掲載した職業(2021年版リストには72の職業を掲載)について、検定合格者に「国家職業資格証明書」を発行することとした(「専門技術者職業資格証明書」と「技能要員職業資格」がある)。このリストの対象外の職業に関しては、企業や職業教育機関等が②の職業技能等級認定、あるいは各省・自治区・市が③の特定職業能力評価、にそれぞれ基づく証明書を発行している。(本文へ)
- 「企業新型見習い制度」は、企業と学校や職業訓練機関が協力し、従業員の職業技能を育成する仕組みである。企業が職業の実践訓練を担当し、学校や訓練機関が理論教育を担う。訓練期間は通常1〜2年で、訓練生は仕事と学習・訓練を交互に行う。政府はこの訓練を行う学校や訓練機関に補助金を支給する。(本文へ)
参考文献
- 上海市人的資源・社会保障局
参考レート
- 1中国人民元(CNY)=20.61円(2025年3月6日現在 みずほ銀行ウェブサイト
)
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