「職場暴力防止」の州法を制定
 ―ニューヨーク、カリフォルニア

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  • 国別労働トピック:2024年12月

米国では、従業員が顧客とのトラブルなどから職場で暴力の被害に遭う事件が増え、社会問題化している。カリフォルニア州とニューヨーク州でこのほど、職場での顧客など他者による暴力から従業員を守るための法律が制定された。カリフォルニア州では、ほとんどの業界の雇用主に対して、非常時対応の訓練を含む、職場での暴力防止計画の策定を義務づけた。ニューヨーク州では、従業員10人以上規模の小売業者を対象に、同様の計画策定を義務化。500人以上規模の小売業者に対しては、従業員が非常時に身の危険を知らせるアラーム(パニックボタン)にアクセスできるようにすることなどを定めている。

「職場での暴力」が社会問題に

米国では小売店などの従業員が顧客とトラブルになり、銃で脅かされたり、暴力をふるわれたりする被害が目立ってきており、社会問題化している。

連邦労働省労働統計局によると、2021~22年に職場で従業員が暴力の被害(致命的ではない故意の傷害)に遭い、休職や就労制限、作業転換(Days Away from work, job Restriction, or Transfer, DART)を余儀なくされた案件は5万7,610件にのぼる(注1)。職種別に見ると、「サービス(看護助手、警備員、調理師などを含む)」が2万5,320件を占め、「医療・技術」が1万4,040件、「運輸・輸送」が2,440件、「販売関連」が2,410件となっている。

2022年には、職場で従業員が犠牲になった殺人事件が、524件発生。前年の481件から8.9%増加し、2011年以降で最多となった。このうち、銃器による殺人が435件と約8割を占めている。業種別に見ると、「警備サービス」が121件と最も多く、「運輸・輸送」が76件と次いで多い。

カリフォルニア州法

カリフォルニア州では2024年7月1日に一般産業を対象とする「職場暴力防止法(Workplace Violence Prevention Laws、以下「新法」)(注2)が施行された。これに先立ち、同州では2017年4月1日に医療・介護などヘルスケア関連の労働者を職場での暴力から守る法律が施行されており、これを一般産業に拡げた形だ(注3)

新法は、一般産業の雇用主に対して、①職場での危機を適時に特定して是正するとともに、従業員に非常時等における効果的なトレーニング機会を提供し、雇用の結果として傷害が発生するのを防ぐこと、②「職場での暴力」に起因するものを含む、雇用場所または雇用に関連して発生した従業員の重傷、疾病、または死亡を直ちに州労働安全衛生局(Cal/OSHA)に報告すること、などを定めた。

「職場での暴力」について新法は、「雇用場所で発生する暴力行為または暴力の脅威」と定義している。従業員が負傷したかどうかにかかわらず、①物理的な力の脅迫または使用により、傷害、心理的トラウマ、またはストレスをもたらす、②銃器またはその他の危険な武器(一般的な物体を武器として使用することを含む)の脅威または使用を伴う、という案件が該当する。

新法は「職場での暴力」を4つのタイプに分ける。それは、①職場で正当に業務を担っていない者が行う職場暴力であり、犯罪目的で職場に立ち入る者や労働者に近づく者による強盗などの暴力行為、②顧客、クライアント、患者、学生、受刑者、または訪問者によって従業員に向けられた職場での暴力、③現在または過去の従業員、監督者、または管理職による従業員に対する職場での暴力、④職場で働いていないが、従業員と個人的な関係を持っていた、または持っていたことが知られている人が職場で行った職場での暴力、である。

雇用主はこうした職場でのリスクを考慮したうえで、暴力に対する予防措置を講じる必要があると規定した。具体的には、雇用主に対して、書面による「職場暴力防止計画(Workplace Violence Prevention Plan)」の策定を義務づけた。計画には、「職場での暴力について従業員とコミュニケーションを取り、トレーニングを提供するための手順」「職場での暴力の危険性を特定、評価、是正するための手順」「インシデント後の対応と調査の手順」などを盛り込む。計画の策定と実施には、従業員および権限ある従業員代表の積極的な関与を得る必要がある。

従業員が職場での暴力により負傷した場合、適時かつ適切な医療を受けられるようにしなければならない。また、その事件を調査し、今後の暴力の危険を減らすため、計画の有効性を確認し、必要に応じて修正することとしている。

ニューヨーク州法

ニューヨーク州のキャシー・ホクール知事は2024年9月5日、「小売労働者安全法(Retail Worker Safety Act)案」に署名し、同法が成立した(注4)

同法は、従業員10人以上の小売業に対して、職場での暴力防止プログラムを策定し、従業員に「安全のための対処方法」を訓練することなどを義務化した。具体的には、従業員に対して、暴力のエスカレートの阻止、銃乱射への対応、緊急時の手順、警察への連絡方法などに関する研修を毎年実施することなどを盛り込んでいる。

さらに、州全体で500人以上を雇う事業主に対しては、従業員に携帯または着用させたり、建物内のアクセスしやすい場所に設置したりする形で、アラーム(パニックボタン)を提供し、非常時に、警察に身の危険を知らせられるようにする必要があるとした。

小売店舗の販売従業員らを職場での暴力から守る法律の制定は、小売業の従業員らを組織する小売・卸売・百貨店労働組合(RWDSU)などが求めていた。同法の制定について、RWDSUのスチュアート・アッペルバウム会長は「私たちの組合員、州全体の小売業の従業員、そして買い物客はより安全になる。この法律が提供する予防措置は、暴力やハラスメントを未然に防ぐのに役立つだけでなく、さらに重要なことは、緊急時に労働者が迅速に助けを求めることを、より安全に支援するものであることだ」と評価するコメントを発表した(注5)

RWDSUが組合員を対象に実施した調査結果によると、回答者の80%以上が、銃撃犯が職場に侵入することを心配している。「暴力事件の発生後、安全性を高めるために雇用主が職場で何らかの変更策を講じた」と回答した者は7%にとどまっている。

同法は知事の署名から180日後(2025年3月4日)までに施行する予定にしている。ただし、500人以上規模を対象とする従業員へのアラート手段の提供義務に関する規定は、2027年1月1日施行としている。

なお、連邦労働省労働安全衛生局(OSHA)は、連邦政府機関や州政府、研究機関等が発表した、職場での暴力防止に関するさまざまな情報をホームページで提供している(注6)

参考資料

  • ウエストロー、カリフォルニア州労使関係局、ニューヨーク州議会、ニューヨーク州知事室、ニューヨーク州労働局、ブルームバーグ通信、連邦労働省、各ウェブサイト

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