VWで労使合意
 ―工場閉鎖と大量解雇を回避へ

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2024年12月

ドイツ最大の自動車メーカーであるVW(フォルクスワーゲン)は12月20日、史上最長の70時間(5日間)におよぶ交渉の末、IGメタル(金属産業労組)との労使合意に達した。合意では、労働者側が2030年までの賃上げ凍結と賞与等の削減に同意する一方、会社側は当初発表していた国内3工場の閉鎖とそれに伴う大規模な人員削減計画を撤回した。

合意の概要

今回、労働組合側は、2030年まで直接的な賃上げ要求を放棄し、賞与や休日手当、長期勤続に対する報奨金等の大幅削減に同意した。これにより、新たに2030年までの雇用保障協定が締結された(注1)。同時に、会社側は、人員削減について、当初計画していた「業務上の理由による解雇」ではなく、今後2030年までに「社会的責任を伴う方法」によって約3万5,000人減らすことに合意した。さらに、閉鎖予定であった工場は当面稼働を継続することとし、長期的には以下の計画が示された:

  • ドレスデン工場:2025年末で車両生産を終了し、その後の代替案を模索中。
  • オスナブリュック工場:2027年夏で車両生産を終了し、別の用途への転換を検討中。

なお、工場全体の生産は恒久的に73万4,000台(全体の4分の1に相当)削減し、過剰生産を解消する計画である。

VWは、今回の労使合意により中期的に年間150億ユーロ以上のコスト削減が可能になるとしており、そのうち人件費は年間15億ユーロの削減が見込まれている。

関係者の反応

現地報道(tagesschau, taz)によると、今回の合意について、IGメタルの交渉責任者であるトルステン・グレーガー氏は、「従業員にとって痛みを伴う内容であるが、同時に労働者の将来を見据えた内容でもある。VWの各拠点で雇用を確保し、工場での生産を維持しつつ、将来への重要な投資を可能にする解決策を見出すことができた」とコメントしている。

また、VW従業員代表組織トップのダニエラ・カバロ氏は、「どの工場も閉鎖されることなく、業務上の理由による解雇も行われず、労働協約は長期的に守られる。この厳しい経済状況下で、確固とした解決策を得ることができた」と、評価した。

VWブランド統括責任者であるトーマス・シェーファー氏は、「交渉の主な優先事項は、①国内拠点での過剰生産能力の削減、②人件費の削減、③開発費の削減であった。これらすべての課題に対して実行可能な解決策を見出すことができた」として、合意の成果を強調した。

VWグループCEOのオリバー・ブルーメ氏も、「長時間にわたる集中的な交渉の末に達した今回の労使合意は、VWブランドの未来に向けた重要なシグナルとなるだろう」と、肯定的な声明を発表している。

オラフ・ショルツ首相は、合意を「朗報」と表現し、「困難な状況にもかかわらず、VWとその従業員に明るい未来を約束するものである」とコメントした。

一方、ハウク・アウフハウザー・ランペ(民間銀行)のチーフエコノミストであるアレクサンダー・クリューガー氏は、「価格競争の影響で、おそらく後日さらなる調整が必要になるだろう」と予測している。ただし、この点については、「すでにある程度の妥協案が準備されているようだ」とする報道もある(taz)。

欧州最大の自動車メーカー

VW(フォルクスワーゲン)は、ドイツ北部ニーダーザクセン州ヴォルフスブルクに本拠を置く欧州最大の自動車メーカーで、1937年に設立された。同グループにはアウディ、ベントレー、ポルシェなど、計10のブランドが含まれている。売上高では2016年から2019年まで世界首位を記録し、現在も欧州最大の自動車メーカーとしての地位を維持している。

グループ全体で、世界中に114の生産施設を持ち、68万4,000人の従業員を雇用しており、2023年には920万台の自動車を販売した。ドイツ国内だけで約30万人の従業員を抱えており、そのうちVWブランドだけで約12万人が雇用されている。なお、昨年は過去最高の3,220億ユーロの収益をあげたが、今年第3四半期は、純利益が前年同期比で64%も急減したことが発表され、経営陣は国内の10工場のうち少なくとも3工場を閉鎖し、数千人規模の雇用削減と10%以上の賃金削減をする計画を発表していた。

同社は工場閉鎖や大量解雇の必要性について、①中国との競争激化、②ヨーロッパでの需要低迷、③電気自動車(EV)の普及が予想よりも遅れていること、の3点を挙げている。

VWは設立以来、労働者の解雇を行ったことはあるが、自国工場を閉鎖したことはない。同社の本拠地があるニーダーザクセン州には同グループのドイツ人労働者の約3分の1が居住しており、州政府はVWの株式の20%を保有している。同州のシュテファン・ヴァイル首相はVWの監査役会(20人で構成)の役員も務めており、工場閉鎖に強く反対していた。

参考資料

参考レート

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