台湾製造業にインド人労働者1,000人を受け入れへ
台湾とインドは2024年2月、労務協力覚書(MOU)(注1)に署名した。これにより台湾はインドからの労働者の受け入れで人手不足の解消を目指す。11月5日には両者による第1回「実務者協議」が開かれ、初期段階でインド人労働者を製造業に1,000人受け入れる目標などを確認した。しかしながら、受け入れ開始に向けては、パブリックコメントの聴取、具体的な導入計画の策定、さらには両者間での行政手続きや法規の整備などのプロセスや課題が残されている。
「実務者会議」で今後の協力関係の強化も確認
「第1回台湾・インド労務協力実務者会議」(Taiwan-India Labor Cooperation Working-Level 1st Meeting)は11月5日に開催された(注2)。ここでは、インドからの労働者の受け入れに関する複数の合意が成立し、また、両者の協力関係の強化も確認された。これに基づき、インドから台湾への労働者の受け入れ計画が推進されることとなった。
具体的には、インド人労働者の受け入れプロセスや「直接雇用システム」導入に向けた計画が協議され、以下の3つの重要な合意に達した。
1.会議の開催形式と頻度
「実務者会議」は両者の所管部署の局長クラスが主催し、オンライン形式で開催する。頻度は原則として2カ月ごとに1回とし、必要に応じて臨時会議も開催する。
2.「インド労働力受け入れ開始計画」の推進
「インド労働力受け入れ開始計画」では、受け入れ開始時期について具体的な期限を設けず、会議の進行に合わせて柔軟に調整していく。目標としては、初期段階で、1,000名のインド人労働者を製造業に受け入れる。そのうち5%は「直接雇用制度」を適用する。さらに、状況に応じて業種や受け入れ人数の拡大を検討していく。
3.直接雇用専任部署の指定
両者は、それぞれ直接雇用に関する専任部署を設立する。台湾では、労働部(日本の厚生労働省に相当)労働力発展署がその役割を担い、実施機関として「直接雇用総合サービスセンター(注3)」が指定された。一方、インドでは、海外移民保護局が担当し、オンラインシステム(eMigrate 2.0)を活用して協力を進めることとした。ただし、台湾側は、両者のシステムの詳細に関する問題点を提起しており、インド技術協会(ITA)を通じてインド側の協力を求める方針である。
労働力不足の現状
台湾は近年、深刻な労働力不足に直面している。2024年10月30日に労働部が発表した「台湾におけるフルタイム勤務の労働力不足状況」に関する特別報告によると、フルタイム勤務の労働力不足は6.6万人に上り、そのうち製造業が最多の2.1万人、続いて卸売・小売業が9,000人、建設業が7,000人に達している。また、職種別では中級技能職の人手不足が最も多い。
労働力不足の主な原因としては、生産年齢人口の減少と待遇への不満という点が挙げられる。台湾の生産年齢人口(15-64歳)は2015年に1,737万人でピークを迎え、その後減少を続け、2023年には1,633万人にまで減少した。年間平均で約12万人が減少している。台湾国家発展委員会の推計によれば、2070年には台湾の生産年齢人口は696万人にまで減少すると予測されており、今後、労働力不足がさらに深刻化する見通しである。
また、労働力不足のもうひとつの大きな原因が「待遇への不満」である。行政院主計総処「人材活用(人的運用)調査統計結果」によれば、2023年5月までに、失業者41万2,000人のうち、15万8,000人が就業の機会自体を得ていたものの、就業には至らなかった。その主な理由としては、「待遇が期待に合わない」が62.02%、次いで「興味が合わない」が11.96%、「勤務地が理想的でない」が10.57%を占めている。
一方、14億人以上の人口を抱えるインドでは、2022年時点の生産年齢人口(15-64歳)は9億6,080万人に達し、全人口の約67.8%を占めている。推計によると、2030年の生産年齢人口は10億4,339万人に達し、若年層の豊富な労働力を背景に「人口ボーナス」が続く(注4)。このため、台湾にとってインド人労働力の受け入れは製造業が直面する労働力不足を解消するための、非常に有望な選択肢のひとつとなっている。
注
- 台湾労働部ウェブサイト
参照(本文へ)
- 台湾労働部ウェブサイト
参照(本文へ)
- 台湾では、外国人労働者の受け入れはほとんど、台湾と送出し国の民間人材仲介会社を通して行っている。そのため、就労にあたって、外国人労働者が仲介会社に支払う仲介費が高額になることなどが問題視され、台湾当局は「直接雇用総合サービスセンター」を設け、人材仲介会社を通さない外国人労働者の就労ルートを設けた。この度のインド人労働者の受け入れに関して、台湾当局は同センターを「直接雇用」の実施機関に指定した。なお、台湾の外国人労働者(非熟練労働者)の受け入れ制度については、JILPT資料シリーズNo.281「韓国・台湾の外国人労働者受入れ制度と実態―非熟練を中心に-」を参照。(本文へ)
- 労働政策研究・研修機構『データブック国際労働比較2024』参照(本文へ)
参考資料
- 台湾労働部ウェブサイト
2024年11月 台湾の記事一覧
- 台湾製造業にインド人労働者1,000人を受け入れへ
- 2025年1月から最賃引き上げ ―4.08%増、新法施行後初
関連情報
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