「ケア責任」のため、世界で7億人の女性が労働市場に参入できず
 ―ILO報告

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  • 国別労働トピック:2024年11月

ILO(国際労働機関)が10月29日に発表した報告書によると、世界で約7億800万人の女性が「ケア責任」のため労働市場に参入できていない。同報告書は「子育てや障害者、長期に介護を必要とする人のケアなどの責任を、いかに女性が不均衡に負わされているかを表している」と指摘。各国がケア政策に適切な投資を行い、拡大する不平等の解消に取り組まなければならないとしている。

「ケア責任」理由の非労働力化は、女性45%に対し男性5%

ILOは、「国際ケアサポートの日」にあたる10月29日、世界125カ国のデータを分析した報告書「ケア責任が女性の労働参加に及ぼす影響(The impact of care responsibility on women’s labour force participation)」を発表した。同報告書で紹介されているILOの新しい世界および地域の労働参加率の推計(注1)によると、世界で計24億人(男性8億人、女性16億人)が非労働力化しており、このうち約30%が「ケア責任」を理由に労働市場から外れている。

男女別にみると、女性は約半数(45%)が「ケア責任」を理由としたのに対し、男性では5%にすぎず、自身の就学や病気の療養などの「個人的理由」が58%と最も多くなっている(図1)。

図1:男女別にみた非労働力化の理由(2023年)
画像:図1

出所:ILO(2024)

この著しい男女格差について、報告書は「子育てや障害者、長期に介護を必要とする人のケアなどの責任を、いかに女性が不均衡に負わされているかを表している」と指摘する。

「北アフリカ」や「アラブ諸国」、「中低所得国」で高い割合

ケア責任のため非労働力となっている女性の割合を地域別にみると、「北アフリカ」が63%で最も高く、「アラブ諸国」も59%と6割近い。「アジア・太平洋地域」は52%(東アジア44%、東南アジア/太平洋52%、南アジア56%)、「ラテンアメリカ・カリブ海地域」は47%、「中央及び西アジア」は54%、「サハラ以南アフリカ」は28%となっている。割合が低いのは、「東欧」(11%)や「北欧・南欧・西欧」(12%)、「北米」(19%)の先進国地域だった。

国の所得水準グループ別に、ケア責任により非労働力となった女性の割合をみると、「高所得国」で19%なのに対し「中低所得国」では54%と、35ポイントの格差がみられた(図2)。

図2:所得国別にみた「ケア責任による非労働力女性」の割合(2023年)
画像:図2

出所:ILO(2024)

教育や都市・農村部の格差も非労働力化の要因に

報告書は、他の社会人口学的要因の影響についても広く分析し、教育による影響を示唆する。ケア責任を理由に労働力から外れている女性は、基礎教育以下の教育しか受けていない割合が高くなっている。この傾向はアラブ諸国で特に顕著だとし、女性が教育にアクセスできるようにするとともに、教育水準の低い女性が就学できる支援システムの必要性を指摘する。

また、農村部と都市部の差についても分析している。農村部の女性は、都市部に比べ、ケア責任を理由に非労働力となる傾向が強くなっている(アジア太平洋地域を除く)。報告書は、農村部の女性は、社会保障や保育、介護施設など、基本的な公共サービスを受けられず、また雇用機会が限られるなど、労働市場において多層的な不利益に直面している、と分析する。さらに、農村に影響を及ぼす気候変動や、ジェンダー平等への取組みの遅れなどが状況をさらに悪化させている、と指摘する。

2018年に比べると改善傾向も、さらなる取組みが必要

ケア責任を理由に、労働力から外れている女性の割合の変化をILOの統計からみると、5年前の2018年に比べ、多くの国で減少傾向にあることが明らかになった。ILOはこの理由として、政策介入や社会保障プログラムの成果を挙げている。

報告書は、有給の育児休暇と、保育・幼児教育(ECCE: Early Childhood Care and Education)には、強力な投資価値があると指摘する。データが入手可能な50カ国について分析したところ、ECCEに投資をしている国は、投資が少ない国に比べ、育児責任のため労働力から外れている女性の割合が低い傾向にあると分析する。

多くの国が政策投資を増やしたことで、この5年間に女性の労働力参加が促進された。しかし報告書は、今後も世界的に進む人口の高齢化や、気候変動の悪影響による農村部の不平等拡大などにより、ケア労働の需要が増加する可能性があると懸念し、さらなる支援政策や制度が必要だと指摘する。

ILOは、男女間のケア責任の不平等な分配は、⼥性の経済的包摂と社会参加を妨げており、労働の世界における男⼥格差を拡⼤しているとし、「ケア政策への適切な投資の重要性を強調した2024年6月のILO決議(Resolution concerning decent work and the care economy:ディーセント・ワークとケア経済に関する決議)(注2)のもと、ケア政策に適切な投資を行い、拡大する不平等の解消に取り組み、社会正義を実現しなければならない」と訴えている。

参考資料

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