国務院が雇用拡大に関する意見を発表
中国国務院(政府)と中国共産党中央委員会は9月25日、雇用の拡大と失業率の改善を図るため、「就職優先戦略の実施による質の高い完全雇用の促進に関する意見」(以下「意見」)(注1)を発表した。24項目の具体的な施策を盛り込み、雇用機会の創出、就職支援の強化などを目的としている。
経済発展と雇用促進の連携
「意見」では、質の高い完全雇用を経済社会発展の最優先課題に据え、財政、金融、産業、物価、雇用などの政策を一体的に推進し、経済発展と雇用の相互促進を図る方針が示された。産業の高度化と未来産業の育成を通じて質の高い雇用を創出する。具体的には、国有企業を中心に、財政支援や税制優遇などの政策を活用し、各企業が雇用の安定・拡大に貢献できるよう支援する。特に、企業が雇用拡大に貢献できるよう、土地利用計画の優遇や労働力支援の提供を強化する。
また、地域間の均衡ある雇用発展を目指し、資金、技術、労働集約型産業を中西部や内陸部へ移転する。デジタル経済やグリーン分野での新たな雇用創出も進める。更には、高齢化に伴うシルバー経済を発展させ、健康産業や介護、観光などの関連産業を融合させ、新たな雇用の成長を図る。
雇用のミスマッチの解消
現在、中国では「仕事があっても適した人がいない」「働きたいが仕事がない」という雇用のミスマッチが深刻化している。これに対応するため、「意見」では以下のような教育の質向上や産業ニーズに合った学科専攻の最適化を求めている。
- 教育の供給と人材ニーズの一致:科学技術や産業の変化に対応し、高等教育の質を高め、理工系や農業、医療分野の専攻を拡充する。産業のニーズに合わせて学科の構成を最適化し、就職実績に基づく「警告提示制度(注2)」を導入する。技術技能人材の育成を強化し、職業教育をさらに推進する。
- 職業技能訓練の強化:生涯にわたる職業技能訓練制度を整え、企業主導による市場指向型訓練システムを構築する。企業には従業員教育訓練のための予算を確保させ、このうちの60%以上を現場労働者の教育訓練に充てるよう指導する。
- 技能人材のキャリア発展支援:国家資格制度を整備し、職業資格と学位の相互認定を進める。新しい職業分野を開拓し、技能人材の給与待遇を引き上げる。技能競技大会を通じて優秀な技能者を表彰し、奨励する制度を強化する。
若者や農民工、就職困難者などへの雇用支援
また「意見」では、若年層や農民工等、特定層を対象とした雇用支援が強調されている。若者の就職や起業を促進するため、特に中小企業や基礎産業分野での雇用機会を拡大する。長期間就職できない若者に対しては社会保険の補助が検討されている。農民工に関しては、農村地域での雇用機会創出や起業支援を進め、都市と農村の労働力の流動化を促す政策が提案されている。また、退役軍人の就職支援を強化し、教育と職業訓練の体系を整え、地域社会での雇用を促す。さらに、卒業後2年以内に就職できていない大学卒業者が「フレキシブルワーク(注3)」を行う場合、社会保険の補助金を提供する。
公共雇用サービスの向上
公共雇用サービスの不足に対処するため、制度の普遍化を重視した全国民向けの公的雇用サービス制度を強化する。例えば、地域ごとのサービスの責任を明確化し、サービスの専門性を高めるための訓練や技能競技を実施する。また、地域密着型の公共雇用サービス基盤を整備し、サービスや人員のリソースを末端の行政組織や農村に分配し、求職者らの「家の近く」や「15分圏内」に雇用サービスステーションを設置する。
さらに、デジタル技術を活用した公共雇用サービスモデルを導入し、全国の雇用情報データベースを整備し、データ共有を進め、政策やサービスを積極的に提供する。これにより、求職者と雇用者のマッチングが効率化され、労働市場全体の効率が向上することが期待されるとしている。
労働者の権益保護
「意見」では、地域や性別、年齢などによる雇用差別の解消を目指し、平等な雇用の権利を明確に保障することを掲げている。労働報酬の適正な増加を促進するため、企業の賃金配分を指導する。また、企業に対する労働保障の指導を強化し、賃金や社会保険料の未払い、違法解雇などを取り締まる。社会保障の普及を拡大し、フレキシブルワーカーや農民工に対する社会保障制度の充実や、年金保険の加入を容易にする制度の整備を求める。
さらに、高齢者に対する支援に関しては、「意見」により、高齢者に適した多様な雇用機会を創出し、求職活動やスキル研修を強化する。法定退職年齢を超えて働く労働者を雇用する企業には、賃金や労働安全衛生、労災保障などの権利を保障し、社会保険への参加を支援する。
若者就職難の深刻化
「意見」では、若年層を対象とした支援策が盛り込まれているが、これには若者の就職難が年々深刻化していることが背景にある。中国政府発表の毎月の年代別失業率データによれば、16~24歳の失業率は上昇し続け、2023年6月には21.3%に達した。その後、政府は在学中の求職者に関する統計に問題があったとして、一時的に同年齢層の失業率の公表を中止し、学生を対象から外した上で2023年12月から再度発表を再開した。しかし、新しい算出方法でも失業率は上昇し、2024年8月には18.8%に達し、若者の就職が厳しい状況は続いている。
図:16-24歳の若年調査失業率の推移
注:2023年7~11月は非公表。集計方法変更のため、2023年6月以前と同年12月以降の数値は接続しない。
出所:国家統計局
さらに、中国の企業の経営状況も新型コロナウイルスなどの影響で悪化しており、企業は育成が必要な若者の採用に対して消極的になっている。それを受け、公務員を目指し、安定を求める若者が急増している。2025年度の国家公務員試験では、2万810の採用ポストに対して、総募集人数は3万9,721人、総応募人数は319万6,496人となっている。平均競争率が80.47対1となり、昨年同期の71.57対1を上回っている。
注
- 中共中央 国务院关于实施就业优先战略促进高质量充分就业的意见
(本文へ)
- 就職実績が低い専攻にはレッドカード、イエローカードを提示する。(本文へ)
- 自営業、パートタイマー、プラットフォームワーク等の就業形態。(本文へ)
参考文献
- 国家統計局、中国政府網、日本貿易振興機構
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