障害者の賃金は12%低く、自営業で働く可能性が高い
―ILOワーキングペーパー
ILO(国際労働機関)は8月27日、障害者の労働について分析したワーキングペーパー「障害者の就労と賃金に関する研究(A study on the employment and wage outcomes of people with disabilities)」を発表した。障害者は労働市場に参加する率が低く、賃金も12%少ない。また、自営業を選択する可能性が高いと指摘している。
障害のある人の労働参加率は25ポイント低い
世界保健機関(WHO)の2021年のデータによると、世界の人口の約6人に1人にあたる13億人が、相当程度(significant)の障害を経験していると推計している。そのうち、労働市場で活動している人は3割にすぎない。ワーキングペーパー(以下、「ペーパー」)は、概して障害者の労働参加率は非常に低く、インクルージョン(包摂)に向けた歩みは比較的遅いと指摘する。
ペーパーは、世界65カ国の2022年または入手可能な最新年のデータをもとに、障害のある人とない人の、特定の労働市場における確率の差を推計した。
その結果をみると、労働市場への参加については、障害のある人はない人に比べ、各国平均で24.9ポイント低く、男女別には男性で29.1ポイント、女性で20.3ポイントそれぞれ低くなっている(表1)。
計 | 男性 | 女性 | |
労働参加 | -24.9 | -29.1 | -20.3 |
失業 | 7.5 | 8.0 | 6.6 |
賃金雇用(対自営業) | -4.0 | -4.3 | -3.4 |
注:いずれの数値も統計的に1%水準で有意。
出所:ILO(2024)
失業の可能性も高い。障害のない人に比べ失業の確率は7.5 ポイント、男女別には男性で8.0ポイント、女性で6.6ポイント高くなっている。
また、障害のある人は、雇われずに働く自営業に向かう傾向があると分析する。就業形態(賃金雇用者/Wage employmentか自営業者/Self-employmentか)をみると、障害のある人はない人に比べ、自営業者よりも賃金雇用者となる確率が4.0ポイント低い。男女別には男性で4.3ポイント、女性で3.4ポイント低かった。
ペーパーは、この理由について、自営業者は雇用主から差別を受ける可能性を回避できること、労働時間や職場へのアクセスにおいてより柔軟性が高まること、などではないかと分析している。ただし、特に開発途上国においては、自営業者の10人に8人がインフォーマル経済で働いていることから、よりリスクにさらされる可能性が高いと懸念している。
賃金格差の4分の3は教育などの要因で説明できず
賃金については、賃金に関する質の高いデータがある30カ国を分析した。それによると、障害のある労働者の賃金は他の労働者に比べ、時給ベースで12%ほど低い。ペーパーは、賃金格差の要因について、教育水準の差が理由の一部となっている可能性があると示唆する。しかし、格差の4分の3にあたる9%は、「教育や年齢、仕事の種類といった要因によって説明できない」と指摘する。
賃金格差を国の所得別にみると、低所得国や中低所得国で26%とより開きがあった。このうち11%は、社会人口統計学的差異では説明できないとしている。
ペーパーは、賃金格差の理由として、個人の能力と仕事の要件のミスマッチによる生産性の低下、仕事の柔軟性や職場の便宜と雇用主が提供する賃金⽔準とのトレードオフによるもの、そして差別の可能性などが考えられる、と分析している。
オンラインや適切なツールを活用して支援を
障害を持つ人々の労働参加率を高めるために必要な手段として、以下を挙げている。
- オンラインを活用し、就職面接や就業に必要なプロセスにアクセスしやすくする
- 雇用主が障害を持つ人々を雇用しやすくなるよう支援を強化する
- 障害を持つ労働者がより働きやすくなるよう適切な手段などのツール提供を支援する
ペーパーは、「同一価値労働同一賃金の原則とともに、賃金に関するILO条約と勧告は、障害のある労働者の公正な報酬を促進する鍵となる」と主張している。
参考資料
関連情報
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