若年失業率は13%と15年ぶりの低水準も、5人に1人がNEET
 ―ILO「世界の雇用情勢―若者編2024年版」

カテゴリ−:雇用・失業問題若年者雇用

ILOの記事一覧

  • 国別労働トピック:2024年8月

ILO(国際労働機関)は8月12日、『世界の雇用情勢――若者編2024年版』を発表した。コロナ禍からの経済回復に伴い若者の雇用は改善し、若年失業率は13%と15年ぶりの低水準となった。しかし、地域格差が依然として大きいこと、5人に1人がNEET(仕事に就かず、教育・職業訓練も受けていない)であること、不安定で低賃金の仕事に就く者が多く、ディーセント・ワークの実現が課題となっていることなどを指摘した。

コロナ禍からの経済回復で特に男性の失業率が改善

報告書によると、コロナ禍の発生から4年以上が経過し、若者の労働市場は大きく改善した。2023年の世界の若者(15~24歳)の失業率は13%と、15年ぶりに低い水準を記録した。若年失業者数は6,490万人と、2000年以降で最も少なくなった。失業率を男女別にみると、男性13%、女性12.9%とほぼ同率だった。コロナ禍前の10年間(2009~2019年)は一貫して男性の失業率が高かったが、世界経済の回復で特に男性の雇用状況が改善した(図1)。若年失業率は今後2年間でさらに低下し、2024、2025年は12.8%になると予想している。

図1:若年失業率の推移(2000・2010~2023年) (単位:%)
画像:図1

出所:ILO(2024)

しかし、地域別にみると状況は異なっている。失業率をコロナ禍前の2019年と比較したところ、南アジア(4.4ポイント減)、ラテンアメリカ・カリブ海(4.3ポイント減)、中央・西アジア(3.9ポイント減)では大きく改善した。一方で、東アジア(4.3ポイント増)、東南アジア及び環太平洋(1ポイント増)、アラブ諸国(1ポイント増)では悪化している(図2)。

図2:地域別にみた若年失業率の増減(2019~2023年) (単位:ポイント)
画像:図2

出所:ILO(2024)

若年人口の20%がNEET、うち3人に2人が女性

若者の失業率は改善しているものの、若年人口の20.4%にあたる2億5,600万人が、仕事に就かず、教育・職業訓練も受けていない「NEET(ニート:Not in Employment, Education or Training)」の状況にある。そのうち、女性が3分の2を占める。

地域別にみると、アラブ諸国で33.2%と最も高く、以下、北アフリカが31.2%、南アジアが26.4%、サハラ以南アフリカが21.9%、ラテンアメリカ・カリブ海が19.7%と続く。

ニート率は、国の所得水準が低くなるにつれ上昇する傾向にある。高所得国では10.4%だが、低所得国では28.7%だった。

ニート率はコロナ禍前の2019年(21.4%)に比べるとやや改善しているものの、ILOは「世界のあまりに多くの若者がニートであり、これは、若者が労働市場から排除されている状況を顕著に表すとともに、人的資本開発の機会を逃していることを示唆している」と指摘する。

失業や雇用安定に不安を抱く

また、報告書は「世界価値観調査(World Values Survey(注1))」の結果などを基に、多くの若者が失業や雇用の安定性、経済状況、世代間格差や経済的自立の見通しなどについて不安を抱え、若者の幸福度が低下していると分析する。そのうえで「困難な時代を生きる若者の不安を和らげるため、学校から仕事、若者から大人への移行に伴う困難を払拭し、若者を導かなければならない」とする。

若年雇用の20年――アラブ諸国で失業率が上昇

今年の報告書は、20周年記念号で、2000年以降の長期的な動向についても分析している。それによると、25~29歳の若者は、低所得国では5人に1人しか安定した仕事に就いておらず、この傾向は2000年以降、大きく変わっていない。高所得国においても、臨時雇用で働く若者の割合は徐々に増加している。世界的に労働のカジュアル化が進み、若者の将来不安の原因となっていると分析する。

失業率の推移を地域別にみると、アラブ諸国で上昇が続く。北アフリカは2017年まで最も失業率が高い地域だったが、その後低下しアラブ諸国と逆転した。東アジアは失業率が最も低い地域のひとつだったが、コロナ禍以降は悪化し、2023年は15%近くまで上昇している(図3)。

図3:主な地域別にみた若年失業率の推移(2000~2023年・抜粋) (単位:%)
画像:図4
画像クリックで拡大表示

出所:ILO(2024)

激増するアフリカの若者に良質な雇用創出が急務

報告書は、今後の若年人口動態の大きな変化について注視している。2023年から2050年にかけての若年労働力の増減を地域別にみると、東アジアや東南アジア・環太平洋地域等で減少が予想される一方、サハラ以南アフリカでは7,260万人と、爆発的な増加を見込んでいる。アフリカ大陸の若年人口の激増は「Youthquake(若者の地震)」とも呼ばれ、2050年には、世界の若者の約35%、実に3人に1人以上がアフリカ人となると予想されている(図4)。

図4:地域別にみた2023~2050年の若年労働力の増減 (単位:万人)
画像:図3

出所:ILO(2024)

現在、サハラ以南アフリカの若者は、半数以上が農業に従事している。失業率は8.9%だが、仕事は不安定で賃金は低く、ディーセント・ワークが著しく不足している。地球上の他のほとんどの地域で高齢化が進み労働力人口が減少する中、激増するアフリカの若者が良質な仕事に就き高い生産性を発揮できるか、世界的な懸念となっている。

ILOは「若いアフリカ人にディーセント・ワークを創出することが、社会正義と世界経済の将来にとって極めて重要だ」と指摘する。

若年女性やNEET等に特化した政策・投資を

報告書は、今後、①特に若年女性を対象にした雇用創出の促進、②NEETを含む若者の労働市場への移行を支援する機関の増強、③若者の雇用と社会保障の統合、④国際協力による世界的不平等の改善――等に向け、より効果的かつ多額の投資が必要だとまとめている。

参考資料

関連情報