定年延長方針と長期介護保険制度の設立について公表
 ―中国共産党「三中全会」

カテゴリー:高齢者雇用

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  • 国別労働トピック:2024年8月

2024年7月15~18日に、中国共産党第20期中央委員会第3回全体会議(三中全会(注1))が開催された。三中全会では「改革をさらに全面的に深化させ、中国式の現代化を推進する決定」(以下:「決定」(注2))を採択し、人口高齢化に対応するための定年延長などの包括的な方針を示した(21日に公表)。主な内容として、「自主性と柔軟性の原則に基づき、法定定年年齢を段階的に引き上げる改革を着実に進める」「孤独者や障がい者、介護が必要な困難な状況にある高齢者への支援を充実させ、長期介護保険制度の設立を加速する」ことが柱となっている。以下はこの度の「決定」に関して公表された説明の概要である。

大量退職時代への突入

定年退職年齢の引き上げが急務なのは、急速に進行する少子高齢化が主因である。現在、中国では世界トップクラスの速さで少子高齢化が進行しており、労働力人口も減少し続けている。政府の統計データによると、2023年末時点で中国の60歳以上の人口は2.97億人に達し、全人口の21.1%を占めている。65歳以上の人口は2.17億人で、総人口の15.4%に相当する。さらに、10年後の2035年頃には、60歳以上の人口が4.2億人を超え、「深刻な高齢化社会」に突入することが予測されている。

1949年以来、中国では1950~58年、1962~75年、1981~97年の三度にわたり「ベビーブーム」が発生し、それぞれの期間で出生数のピークを迎えた。特に1962~1975年には、年間平均で2,583万人が生まれた。

現行の定年退職制度は、男性が60歳、女性管理職が55歳、女性一般職が50歳である。これに基づくと、2022年には1962年生まれの男性が60歳の定年を迎え、多くの1972年生まれの女性労働者も退職年齢に達した。この期間に生まれた「60年代生まれ」と「70年代生まれ」は、2022年から2035年にかけて続々と高齢期に入り、この十数年間で毎年2,000万人以上が退職すると予想される。退職者の総数は約3億人に達し、歴史上最大の退職ラッシュが見込まれる。一方、年間の新たな潜在労働力の供給は約1,700万から1,800万人程度である。つまり、毎年労働年齢人口が300万から500万人減少することになる。

これにより、国内の年金制度に対する負担が増加することになる。退職者の増加によって年金受給者の数が増える一方で、新たな雇用者数よりも退職者数の方が多いため、年金を支払う人の数は減り続けることになる。現在では、年金の積立が不十分であり、多くの人々が「数年後には、政府が年金を支払う資金がなくなるのではないか」と懸念している。今後数年間にわたり、中国経済が持続的に低迷し、さらには悪化する可能性が高いと予測しており、経済の低迷が年金制度にさらに打撃を与えるとしている。

中国社会科学院の推計によると、全国の都市部労働者の基本年金保険基金は2035年に枯渇するとされている。「中国年金詳細計算報告2019-2050(注3)」では、2023年から全国の都市部企業従業員の基本養老保険基金の積立金が減少し始め、2028年には初めて単年度でマイナス(-1,181.3億元)となる見込みで、その後、赤字は拡大し続け、2050年には単年度でマイナス11.28兆元にまで落ち込むとされている。

この研究報告によれば、今後30年間で中国の年金制度における扶養率は倍増すると示されている。具体的には、2019年には約2人の保険料納付者が1人の退職者を支えていたのに対し、2050年にはほぼ1人の納付者が1人の退職者を支える必要があるとされている。

また、中国の年金制度の不合理な点として「退職年齢が低い」「保険料納付期間が短い」などの問題を挙げており、「早急に退職年齢引き上げの方策を策定する必要がある」と強調している。

慎重に進む定年延長政策

高齢者の割合は増加の一途をたどっており、それに伴い定年延長の議論も早い段階から行われてきた。先述のとおり、男性の定年年齢は60歳、女性は管理職で55歳、一般職で50歳だが、これを段階的に引き上げることで、高齢者の労働市場への再参入を促進し、経済活動の維持を図る重要な施策である。

定年延長の必要性は2000年に初めて提言され、2012年の「社会保障第12次5カ年計画」で年金受給開始年齢の引き上げが検討された。2015年には、2045年までに男女共に65歳に引き上げる計画が示され、女性は3年ごと、男性は6年ごとに1年引き上げる案が提案された。

2021年には「第14次5カ年計画(2021~25年)と2025年長期目標」で、定年年齢の段階的引き上げが掲げられ、個人が数カ月単位で定年延長を選べる仕組みが提案されている。同年には「第14次5カ年計画国家高齢者事業発展・高齢者養老サービス体系計画に関する通知」で、定年延長の具体的な方針が明確にされた。

また、地域ごとに試行的な取り組みも行われ、2022年3月には江蘇省で定年延長が実施された(注4)。現行の定年退職制度では、本人の申請と雇用主の同意があれば、定年を1年以上延長することが可能となっている。

しかし、年金受給年齢の引き上げへの不満も見受けられる。中国では共働き家庭が多く、退職後の祖父母が孫の世話をするのが一般的なため、定年延長に対する子育ての懸念も広がっている。SNS上では「祖父母に預けられなくなり、少子化が進む」「定年延長より保育施設の整備が優先されるべきだ」といった批判的な声が多く見られる。一方、若年層は就職難に直面しており、定年の延長によって就職機会が減少することに対して不満を抱いている。さらに、「退職が遅くなるほど、寿命が短くなる」という議論が中国メディアで炎上し、退職を控える人々の間では不安が広がっている。このように、定年延長への抵抗という意見が根強く存在している。

それを受け、定年延長について、政府は慎重な姿勢を崩していない。「綿密に検討し、十分な根拠をもとに、適切なタイミングで着実に進める」という方針だと全国人民代表大会(全人代)(2023年3月13日)閉幕後の記者会見で、李強首相はあくまで慎重な言葉を選んだ。

これまでの計画では2025年までに定年退職年齢の引き上げが実施される予定だったが、今回の「決定」では、「個人意思を尊重し、自主性と柔軟性を重視する原則のもと、法定定年年齢を段階的に引き上げる」こととした。その実施時期は2029年まで延期された。

長期介護保険制度の設立

「決定」では、「長期介護保険制度の設立を加速する」とされている。長期介護保険は、基本年金保険、基本医療保険(出産保険を含む)、失業保険、労災保険に次ぐ新しい社会保険制度として、中国で広く認識されている。

2006年12月に発表された「人口発展“十一五”および2020年計画」で、初めて長期介護保険の導入が提案された。その後、医療と介護の統合や高齢者サービスに関する政策が進められ、2015年10月の中央委員会全体会議で長期介護保険制度の導入が提案された。2016年からの「第13次5カ年計画」では、その導入の検討と試行が明記され、2021年の「第14次5カ年計画」では制度の確立、介護人材の育成、介護用ベッドの供給拡大、経済的に困難な高齢者への補助制度改善などが提案された。2022年10月の第20回共産党大会では、長期介護保険制度の確立が初めて報告書に記載された。

2016年に、人的資源・社会保障部は「長期介護保険制度の試行に関する指針(注5)」を発表し、15都市で長期介護保険制度の試行を正式に開始した。吉林省と山東省は重点地域とした。2020年には、国家医療保険局と財政部が「長期介護保険制度の試行拡大に関する指針(注6)」を発表し、試行をさらに進めるために、14都市を新たに追加した。試行期間は2年間とした。2023年の「全国医療保障事業発展統計公報」によると、2023年には49都市で長期介護保険に加入している人数が合計1億8,330万人となり、そのうち13万4,290人が給付を受けている。

長期介護保険制度の試行が進む一方で、資金調達、支出と評価の制度、サービスの質に関する課題が依然として存在している。資金調達においては、医療保険の余剰金や保険割合に頼っているものの、都市と農村、年齢層による差があり、資金調達の公平性が大きな課題である。支出と評価に関しては、評価制度や介護計画が整っておらず、基準の統一が進んでいない。また、サービスの質を確保するためには、高品質のサービス機関や人材の不足、サービスの品質管理に対応する必要がある。

参考文献

  • 中国政府網、人的資源・社会保障部、国家医療保障局、澎湃新聞

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