世界経済は緩やかに回復、2025年の成長率は3.2%と予測
 ―「OECD経済見通し2024」

カテゴリ−:雇用・失業問題統計

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  • 国別労働トピック:2024年6月

経済協力開発機構(OECD)は2024年5月2日、「経済見通し2024:回復の兆し (Economic Outlook 2024: An unfolding recovery)」と題する報告書を公表した。世界経済の見通しは明るくなり始めているものの、成長は依然として緩やかになると分析。金融引き締めの影響が引き続きみられるが、インフレ率は予想以上に早く低下しており、世界経済は比較的底堅いとして、2025年の世界の経済成長率は3.2%、OECDのインフレ率は3.4%と予測した。失業率は記録的な低水準かそれに近い状況にあるとし、OECD全体の平均失業率の予測値は5.0%とした。以下では、報告書の概要と、日本に関する分析について紹介する。

世界経済の見通し――インフレが急速に落ち着き経済は底堅い

世界経済のGDP成長率は、2024年は前年同の3.1%にとどまるものの、実質賃金の伸びと政策金利の引き下げにより、2025年は3.2%に上昇すると予測する(図表1)。

図表1:GDP成長率の推移 (単位:%)
画像:図表1

注:2024年、2025年は予測値

出所:OECD(2024)より作成

OECD各国で歴史的に高水準にあったインフレ率は、金融政策の引き締めやエネルギー価格の下落、主要作物の豊作などにより、2023年は急速に低下した。インフレ率は今後も継続的な低下が見込まれ、2025年末までにほとんどの主要国で目標値に戻ると予測する(図表2)。

図表2:消費者物価上昇率の予測(2024年、2025年)
画像:図表2

注:アルゼンチンとトルコ(右2国)のみ右側目盛り、その他の国は左側目盛り。
米国は個人消費支出価格指数、ユーロ加盟国およびユーロ圏(EA)、英国は消費者物価調和指数、その他の国は全国消費者物価指数。インドは4月に始まる会計年度の数値。

出所:OECD(2024)

インフレが落ち着くとともに貿易の伸びがプラスに転じ、実質賃金も改善し始めている。OECD諸国では全体的に労働力人口が力強い伸びを見せ、労働参加率が上昇し、労働市場の需給バランスは改善している。報告書は、2023年に米国、英国、カナダ、スペイン、オーストラリアなどで異例の大規模な移民流入があり、これが労働力を供給し成長率を押し上げた要因のひとつだと指摘している(図表3)。

図表3:労働力人口の伸びに占める外国人労働力の寄与度
画像:図表3

出所:OECD(2024)より作成

失業率は概して歴史的な低水準かそれに近い状況にあると分析。雇用の伸び率は2023年の1.75%から2024-25年は0.75%に鈍化し、2025年の失業率はわずかに上昇して5.0%になると予想する。

動向は依然として国によってばらつきがあり、米国や多くの新興市場国では力強い成長が続いているが、先進国、特に欧州では軟調に推移している。しかし、この格差も、欧州の景気回復等によって次第に解消に向かうとみている。

中東紛争、企業・家計貯蓄の活用、AI効果等により予測に変動も

世界経済を予測するうえでのリスク要因には、地政学的な緊張の高まりを挙げる。中東の紛争の激化は、エネルギー市場と金融市場を混乱させ、インフレ、成長の鈍化につながる。また、実質金利上昇の影響が予想以上に強ければ、期待するほどの経済成長がのぞめない恐れがある。

一方で、先進国がパンデミック期間に蓄積した財や貯蓄を、企業や家計でより効率的に活用すれば、需要が伸び、成長する可能性もある。また、多くの国で労働力人口が増加しており、インフレ率が予想以上に早く低下する可能性もある。

人工知能(AI)は、停滞する生産性を引き上げる効果をもたらす可能性があると指摘する。しかし、AIの活用が大企業に集中していることや、AIが実際にどの程度労働を代替するのかなど、経済全体に与える影響は不確実な要素も多いと留保している。

財政の安定化と成長に向けた積極的な政策を

こうした分析を踏まえ、報告書は、政策が優先すべき事項として3点を具体的に指摘した。

  1. 引き続き慎重な金融政策が求められる
    金融政策は、インフレを持続的に抑制するため、引き続き慎重な対応が求められる。ただし、インフレの緩和が続けば、国によっては経済状況に応じて政策金利を引き下げる余地もある。
  2. 山積する課題に対応する財政安定化政策
    各国政府は、高齢化や気候変動、防衛対応など、山積する財政課題に直面し、多くの国で債務負担の増大が懸念されている。財政の持続可能性を高めるため、リスクに対応した中期的な政策で財政を再建しなければならない。
  3. 経済成長を推進する積極的な構造政策
    長期的な経済成長のため、より野心的な構造政策が求められる。
    投資を促進し、技能開発・イノベーションを強化し、生産性を高め、雇用を促進する強力な政策が必要となる。助成金や優遇税制などで企業の研究開発を積極的に支援し、イノベーションを推し進めるべきである。

日本経済の見通し――1.1%の成長を予測

報告書は日本経済について、「内需は弱いが、回復の兆しが見え始めている」と分析。GDP成長率は2024年に0.5%に減速したのち、内需の回復に伴い2025年は1.1%の成長を予測する。

賃金の上昇と財政政策が個人消費を下支えし、政府のグリーン投資やデジタル投資への補助金等が企業投資を後押しすると分析。インフレ率はエネルギーや食料価格が安定するにつれ緩やかになり、賃金が上がるとともに上昇するとみる。

図表4:日本の消費者物価上昇率(左図)と賃金上昇率(右図) (単位:%)
画像:図表4

出所:OECD(2024)

日本銀行のマイナス金利政策の解除については「妥当」と評価し、インフレ率が2%に落ち着くように、2025年にかけて政策金利を段階的に引き上げることが適切だとしている。そして、「終身雇用と年功序列賃金という伝統的な労働モデルを改革すれば、特に高齢者や女性労働者の雇用が増加し、人口動態の逆風に対処するのに役に立つ」と指摘する。

参考資料

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