途上国や女性の「労働力の未活用」解消を
 ―ILO世界の雇用及び社会の見通し(5月版)

カテゴリ−:雇用・失業問題統計

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  • 国別労働トピック:2024年6月

ILO(国際労働機関)は2024年5月29日、「世界の雇用及び社会の見通し2024年5月版(World Employment and Social Outlook: May 2024 Update)」を公表した。2024年の世界の失業率は4.9%とわずかに改善するが、地域によって労働力を十分に活用できていない状況にあると指摘。特に、地域やジェンダーによる大きな格差の解消が必要だと指摘した。

未活用労働力を4億200万人と推計

ILOは2024年の世界の失業率予測を5.2%から4.9%に下方修正し、パンデミック前の2019年の水準を下回ると予想した。しかし、依然として世界中で労働力を十分に活用できていない状況にあると指摘する。

労働力の未活用の程度を表すILOの新しい指標「ジョブギャップ(jobs gap) 」をみると、仕事をする意欲はあるが職に就いていない人は、世界で4億200万人に達すると推計される。このうち「失業者」にカウントされている人は1億8,300万人としている。

「ジョブギャップ率(労働力の未活用率、労働需要不足率)」を地域別にみると、ばらつきが大きい。アラブ諸国で20.5%と最も高く、アフリカが17.4%で続く。一方、アジア太平洋は7.5%と低くなっている。失業率との差をみると、アフリカが11.1ポイント、アラブ諸国は10.2ポイントとともに10ポイントを超える。アジア太平洋は3.3ポイントとあまり差がない(図表1)。

図表1:ジョブギャップ率と失業率(2024年予測値)
画像:図表1

出所:ILO(2024)より作成

男女の雇用率の格差は「家庭の責任」に起因

ILOは2024年の15歳以上の雇用率を、男性69.2%、女性45.6%と推定している。男女の雇用率の差は23.6ポイントに達する。ILOの新しいデータによると、この格差は主に「家庭の責任(結婚と子育て)」により生じていると分析し、女性が無給のケア労働に従事する割合が高いことが原因と示唆している。

女性が雇用されている場合でも、発展途上国では、男女間の賃金格差が大きい。所得の高い国では男性の賃金100に対して女性は72.9%だが、低所得国では44.1%に過ぎない(図表2)。

図表2:所得国別にみた女性の賃金比率(男性を100とした場合、2021年)
画像:図表2

注:収入の差は労働時間等の労働条件を調整していない。

出所:ILO(2024)より作成

GDP成長以外の重要な指標に注目を

ILOは、経済成長は雇用などの労働市場の状況や持続可能な開発の重要な推進力だが、GDPの成長と貧困やインフォーマル雇用の削減は連動していないと指摘する。2015年以降、貧困の削減はその前の10年間と比較して鈍化し、年間5.7%減だったのが、わずか1.4%減にとどまっている。インフォーマル雇用の労働者は、2005年の約17億人から2024年には約20億人に増加している。

GDPだけではなく、より持続可能で包摂的な成長のために「重要な指標」を測定し、注目することが大切だと結論づけている。

参考資料

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