労働保障、「軽微な違法行為」の処罰免除

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  • 国別労働トピック:2024年6月

中国の各地域は「労働保障に関する軽微な違法行為に対する処罰を免除するリスト」(以下:「免除リスト」)を順次発表している。人的資源・労働保障分野において、企業の「軽微な違法行為」に対する処罰を、それが初めての違法行為であり、所定期限内に是正することなどを条件に緩和する。企業のビジネス環境改善などを目的にあげている。四川省においても2024年4月、初めて「免除リスト」が発表された。以下は四川省、北京市、上海市の「免除リスト」の概要である。

四川省の免除リストは18項目について規定

四川省は、18項目の労働保障に関する「軽微な違法行為」について、初回の違法行為であること、自主的に是正を行ったこと、「軽微な結果」であること、などの条件を同時に満たす場合、行政処罰を免除することを定めた。免除リスト(下表)は、労働雇用、社会保険、人材市場サービスなどの分野を対象としており、2024年6月1日から適用され、有効期間は5年間となっている。

表:法律違反行為と処罰免除条件
項目(法律違反行為) 根拠法と処罰の具体的な内容 処罰免除条件(すべての条件を同時に満たす必要がある)
(1)使用者が制定した労働規則が法令に違反する 「中国労働契約法」第八十条:使用者が労働者の利益に関わる規則を法律に違反して定めた場合、行政部門が是正を命じ、警告を与える。また、労働者に損害が出た場合、賠償責任を負う
  • 違法行為の初回発見、規則施行後1年以内で、かつ被害未発生
  • 自主的是正または期限内是正
(2)労働者が法に基づき労働契約を解除または終了する際に、使用者が労働者の身上調書(中国語:档案)やその他の物品を押収する 「中国労働契約法」第八十四条第二項:使用者が担保などの名目で労働者から金品を違法に取った場合、行政部門が返還を命じ、500~2,000元の罰金を科す。損害が発生した場合は賠償責任を負う
第三項、労働者が合法的に労働契約を解除または終了する際に、使用者が労働者の書類や物品を押収した場合も、同様に処罰される
  • 違法行為の初回発見
  • 違法行為が労働者3名以内、または関連する金額が5,000元未満
  • 自主的是正または期限内是正
  • 違法行為が集団事件や突発事件などの社会的害悪を生じさせていない
(3)使用者が労働契約法に関する従業員名簿の作成規定に違反する 「中国労働契約法実施条例」第三十三条:使用者が従業員名簿の作成に関する規定に違反した場合、行政部門が期限を定めて是正を命じる。期限内に改正しない場合、2,000~20,000元の罰金を科す
  • 違法行為の初回発見
  • 違法行為の継続期間が1年未満で、かつ被害が未発生
  • 自主的是正または期限内是正
(4)企業が「企業年金弁法」に違反する 「企業年金弁法」第二十九条:県レベル以上の行政部門は、本規定の実施状況を監督し、違反があれば警告し、是正を命じる
(5)営利人材サービス機関が、営業許可証、サービス項目、料金規定、監督機関および監督電話番号、人材サービス許可証をサービス場所で適切に掲示しない
(6)営利人材サービス機関が、内部制度を整備しない、サービス台帳を保存しない
(7)営利人材サービス機関が、営業状況年次報告書を提出しない
「人力資源市場暫定条例」第四十四条:情報公開や年次報告の提出などを怠ると、是正命令と罰金(5,000~10,000元)を科す
「オンライン採用サービス管理条例」第三十三条:情報公示や年次報告を怠ると、「人力資源市場暫定条例」第四十四条に基づき処罰される
(8)使用者が労働者を採用する時に、B型肝炎ウイルスの血液検査結果を健康診断の基準として使用する 「就業サービスと就業管理規定」第六十八条:使用者が、禁止されている職種でB型肝炎ウイルス検査を採用基準とした場合、行政部門は是正を命じ、1,000元以下の罰金を科す。損害が生じた場合は賠償責任を負う
  • 違法行為の初回発見
  • 違法行為が労働者3名以内
  • 自主的是正または期限内是正
  • 違法行為が集団事件や突発事件などの社会的害悪を生じさせていない
(9)使用者が、正当な身分証明書を持たない人を雇用する 「就業サービスと就業管理規定」第十四条第五項:使用者は、合法的な身分証明書を持たない者を雇用してはならない
第六十七条:使用者が第十四条第五項に違反した場合、行政部門は是正を命じ、最大1,000元の罰金を科す。当事者に損害を与えた場合は、賠償責任を負う
(10)職業紹介機関が、職業紹介サービスが成功しなかった場合でも労働者に対して紹介手数料を返還しない 「就業サービスと就業管理規定」第七十三条:職業紹介機関が、本規定第五十五条に違反し、職業紹介サービスが成功しなかった場合、受け取った仲介サービス料を労働者に返還しないことがあれば、行政部門が是正を命じ、最大で1,000元以下の罰金を科す
  • 違法行為の初回発見
  • 違法行為が3人以下に関与するものか、関連する金額が5,000元未満
  • 自主的是正または期限内是正
(11)使用者が社会保険行政部門の労災事故の調査に協力しない 「労災保険条例」第六十三条:使用者が行政部門による事故の調査に協力しない場合、行政部門は是正を命じ、2,000元以上20,000元以下の罰金を科す
  • 違法行為の初回発見
  • 違法行為が事故調査結果に影響を及ぼさなかった
  • 自主的是正または期限内是正
(12)使用者、被災労働者、またはその近親者が労災認定中に虚偽の資料を提出する 「四川省労災保険条例」第四十三条:使用者、被災労働者またはその近親者が労災認定において虚偽の資料を提出した場合、行政部門が2,000元以上10,000元以下の罰金を科す
  • 違法行為の初回発見
  • 違法行為が労災認定結果の誤認を生じさせなかった
  • 自主的是正または期限内是正
(13)使用者が労働組合の集団交渉代表の特別な保護権益を侵害する 「四川省集団契約条例」第十九条:企業は、協議代表がその職務を果たすために必要な業務時間を保障しなければならない。協議代表が職務を果たすために費やす時間は正規の出勤時間と見なされる。
企業は協議代表に対して報復行為をしてはならない。
企業は、法律や規則に定めた場合を除き、協議代表の労働契約を変更または解除してはならない。
企業がリストラを行う場合、協議代表には優先的に職を保持する権利がある
第三十九条:第十九条の規定に違反した場合、行政部門が警告と是正命令を出し、改正を拒否する場合は、責任者に対して10,000元以下の罰金を科す
  • 違法行為の初回発見
  • 関連する労働者が3人以下、または単一の違法行為のみが存在する
  • 自主的是正または期限内是正
  • 違法行為が集団的な事件や突発的な事件など、社会的な被害を引き起こさなかった
(14)使用者が最低賃金の差額支払いを拒絶し、または賠償金支払いを拒否する 「四川省最低賃金保障規定」第十三条:使用者が最低賃金の差額を支払わず、または賠償金を支払わない場合、労働行政部門は警告を行い、改正しない場合は、未払いの最低賃金差額と賠償金の合計額の1倍から3倍の罰金を科す
  • 違法行為の初回発見
  • 関連する労働者が3人以下、或いは10,000元未満の金額を支給しない
  • 自主的是正または期限内是正
  • 違法行為が集団的な事件や突発的な事件など、社会的な被害を引き起こさなかった
(15)企業が失業者に対する失業保険の給付の告知を怠り、失業者の労働関係の終了または解除の証明書を発行せず、または失業者リストや記録を規定期限内に提出しない
(16)使用者が補助的な職位の確定手続きの手順に違反する
「四川省失業保険条例」第三十五条:使用者が失業者に失業保険給付を告知せず、労働契約の終了または解除証明書を発行せず、または失業者のリストや記録を規定期間内に提出しない場合、県レベル以上の行政部門が警告を与え、期限を定めて是正を命じる。使用者や直接的な関係者には、500元以上2,000元以下の罰金を科す
「労働派遣暫定規定」第三条第三項:使用者が派遣労働者を補助的な職務に配置する場合、職員代表大会または全職員の意見を聴取し、労働組合または職員代表と平等に協議した後、使用者で公示する必要がある。
第二十二条:使用者が上記第三条第三項の規定に違反した場合、行政部門が是正を命じ、警告を与える。派遣労働者に損害を与えた場合は、法律に基づき賠償責任を負う
  • 違法行為の初回発見
  • 関連する労働者が3人以下
  • 自主的是正または期限内是正
  • 違法行為が集団的な事件や突発的な事件など、社会的な被害を引き起こさなかった
(17)私立学校が虚偽の入学案内書や広告を出して金品を騙し取る 「私立教育促進法」第六十二条:私立学校が以下の行為を行った場合、県レベル以上の行政部門、またはその他の関連部門が期限内に是正を命じ、警告を与える。・・・(略) (三)虚偽の入学案内や広告を発表し、金品を騙し取ること
「私立教育促進法実施条例」第六十四条第一項:私立学校が「私立教育促進法」第六十二条または本条例第六十三条の規定に違反した場合、県レベル以上の行政部門、またはその他の関連部門が、学校の意思決定機関の責任者、校長、および直接の責任者に対して警告を与える
  • 違法行為の初回発見
  • 違法収益が存在しない
  • 自主的是正または期限内是正
  • 違法行為が集団的な事件や突発的な事件など、社会的な被害を引き起こさなかった
(18)保険料を支払う法人が従業員の給与から社会保険料を差し引いて納付しない、または従業員に自社の社会保険料の納付状況を公表しない 「社会保険料徴収監督検査規則」第十四条:以下のいずれかの行為を行った場合、徴収対象の単位に警告を与え、5,000元以下の罰金を科すことがある。・・・(略) (二)従業員の給与から社会保険料を差し引いて納付しないこと。(三)従業員に自社の社会保険料の納付状況を公表しないこと。
上記違法行為に対する行政処分は、法律や法規が別に定めている場合はその規定に従う
  • 違法行為の初回発見
  • 関係する労働者が3名未満、または個人給与からの社会保険料が10,000元以下、あるいは社会保険料支払状況の未公表回数が2回未満
  • 自主的是正または期限内是正
  • 違法行為が集団的な事件や突発的な事件など、社会的な被害を引き起こさなかった

出所:四川省人的資源・社会保障局ウェブサイト等より作成

四川省の行政処分免除の流れ

免除リストと同時に、「軽微な違法行為」に対する行政処罰免除の流れについても公表されている(下図)。違法行為が発覚すると、行政機関はその行為について立件し、捜査を開始する。これによって、当事者の行為が処罰免除リストに該当するかどうかが判断される。

違法行為が処罰免除リストに該当する場合は、行政機関は当事者に対し、以下の対応をとる。

違法行為が行われたことを指摘し、関連する法律や規則を告知し、違法行為の是正を要求し、是正勧告通知書を発行する。これにより、当事者は違法行為を是正する機会が与えられ、適切な対応を促される。そして、当事者が直ちに違法行為を是正するか、期限内に是正するかの措置を行った場合、処罰免除が決定される。一方、違法行為が処罰免除リストに該当しない場合、行政処分が実施される。

図:「軽微な違法行為」に対する処罰を免除する流れ
画像:図

出所:四川省人的資源・社会保障局ウェブサイト等より作成

各地域も行政処罰免除リストを発表

四川省の他、北京市、上海市、浙江省、深セン市、天津市、山東省などの地域でも、すでに「軽微な違法行為に対する行政処罰の免除リスト」が発表されている。企業が行う違法な雇用行為などが軽微であり、かつ即座に是正される場合、当該企業に対する処罰を免除する旨が明記されている。

  • 北京市では、労働保障に関する35項目の「軽微な違法行為」に対する行政処罰の免除が適用されている。これは、労働契約、労働時間、雇用管理、労務派遣、人材市場、職業能力開発、社会保険、労働保障監査など、広範な分野に及ぶ。この免除が適用されるためには、以下の条件が全て満たされる必要がある。
    • 違法行為に関与する人数が一定基準を超えないこと。
    • 過去1年間に同様の違反が摘発されていないこと。
    • 違法行為が社会的な不和を引き起こしておらず、突発的な事件などの悪影響を及ぼしていないこと。
    • 自主的な是正措置を取るか、行政機関の命令に従い期限内に是正されること。

これらの条件を満たすことで、「軽微な違法行為」に対する行政処罰が免除される。

  • 上海市では、2023年4月1日から免除リストが施行され、2028年3月31日まで有効である。このリストには、以下の6つの項目に関する行政処罰の免除が含まれている。
    • 労働者の利益に直接関連する使用者の規則が法律や規定に違反すること。
    • 派遣労働者を補助的な職位に配置する際に、法定手続きを経ずに決定し、または公示しないこと。
    • 労働者の労働時間を違法に延長すること。
    • 職業紹介機関が、サービス提供場所での許可証や監督電話番号を明示しないこと。
    • 職業紹介機関が、職業紹介に成功しなかった場合でも労働者に紹介手数料を返金しないこと。
    • 使用者が労働者を採用する時に、B型肝炎ウイルスの血液検査結果を健康診断の基準として使用すること。

上記の6つの違法行為については、厳格な適用条件のもとで行政処罰が免除されることが定められている。

こうした取り組みにより企業の「軽微な違法行為」を是正することで、使用者への行政処罰を回避しつつ、労働者の権利を確保し、ビジネス環境の改善、労働市場の活性化を促進するとしている。

参考文献

  • 四川省人的資源・社会保障局、北京市人的資源・社会保障局、上海市人的資源・社会保障局

参考レート

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