ジェンダー平等進むもガラスの天井も
―ILO・IOE報告書、使用者組織調査
ILO(国際労働機関)と国際経営者団体連盟(IOE:International Organization of Employers)は2024 年3月に、報告書「Women in business: How employer and business membership organizations drive gender equality(ビジネスにおける女性:使用者・企業会員組織のジェンダー平等の状況)」を公表した。各国のEBMO(使用者・企業会員組織、Employer and Business Membership Organizations)において、ジェンダー平等と多様性を進めるために直面する課題と成果、今後の見通しなどを分析した。
女性割合は職員で高いが管理職は依然低い
報告書は、ILOの使用者活動局(ILO-ACT/EMP)とIOEが87カ国の95のEBMOを対象に実施した調査(2023年調査)と、20人以上のEBMO代表者へのインタビュー結果をとりまとめたもの。2017年の調査結果と比較し、6年間の進歩についても検証した。
報告書によると、EBMO職員の女性割合は全体的に高い。2023年に女性が「4割以上」と回答したEBMOは74%に達する。しかし、管理職の女性割合は依然として低い。女性が4~6割を占めるEBMOは28%と、3分の1にも満たない。また、1割(9%)のEBMOには女性管理職が全くいない。
図表1:EBMOにおける職員と管理職の女性割合、2023年
出所:IOE-ILO(2024)
CEOの約3人に1人は女性
しかし、EBMO取締役会メンバーの女性割合の変化をみると、6年前に比べ増加している。取締役会メンバーの女性割合が「3割以上」だったEBMOは、2017年は19%だったが、2023年には26%へと7ポイント増加した。取締役会メンバーが男性のみのEBMOは、同期間に11%から5%へと6ポイント減少している。
図表2:EBMOにおける取締役会メンバーの女性割合:2017年および2023年
出所:IOE-ILO(2024)
また、2023年におけるEBMOの最高経営責任者(CEO)の女性割合は30%であり、EBMOのほぼ3分の1が女性リーダーによって率いられている。女性リーダーは他の女性職員にとって強力なロールモデルとなるため、将来、EBMO内のジェンダー平等と多様性が進むことが期待される。報告書は、「女性のCEOがいるEBMOは、男性のCEOがいるEBMOに比べ、管理職の女性割合が『4割以上』である割合が25%ポイント高い」と分析している。
図表3:EBMOにおけるCEOの男女比率:2023年
出所: IOE-ILO(2024)
研修やWLB改善で「ガラスの天井」超えを
報告書は、多くのEBMOが管理職、CEO、取締役会など、組織内の上層レベルのジェンダーバランスを達成する上での課題を抱え、「ガラスの天井」に直面していると分析する。「ガラスの天井」とは、意思決定の場における女性の参画が何らかの障壁によって阻害されている状況を表すもので、EBMOに根強く残っていると指摘する。
この課題を克服するためには以下のような取り組みが有効だと提唱する。
- 研修、メンタリング、プログラムを実施し、女性のスキル向上をはかる
- 職員のワーク・ライフ・バランス(WLB)を改善する
- (女性登用に)ネガティブな文化的態度に対処する
- 職場を超えた女性の教育と能力開発に貢献する
- 女性職員がEBMOの女性役員や女性CEO、その他の影響力のある人物など、ロールモデルに接する機会を設ける
取り組みの効果を検証することが必要
調査によると、EBMOの46%が、ジェンダー平等とダイバーシティの推進が経済効果を上げていると認識している。経済効果の上位3つは、「収入増加」「組織評価の向上」「有能な人材の確保」となっている。しかし、EBMOの半数(49%)は、こうした取り組みがどのように経済効果を向上させるかについて、明確には理解していない。
これについて報告書は、EBMOが通常、取り組みの影響を検証していないためだと指摘する。これは、ジェンダー平等の取り組みの何が効果的で、なぜ取り組みを行うべきかという貴重な情報をメンバーが共有できていないことを意味する。報告書は、検証の手法を確立し、取り組みの有効性を高め推進すれば、よりパフォーマンスを向上させることができるとしている。
約4割が「同一労働同一賃金」を提唱
EBMOの8割は、政府や労働者団体と連携して「ジェンダー平等」の拡大を提唱している。その具体的内容は、「同一労働同一賃金」が37%で最も高く、「女性の指導的地位確立」が22%、「ビジネスにおける多様性と包摂」が12%となっている。
ジェンダー平等と多様性の取り組みは、EBMOによって、大きく進んでいるところとまだこれからのところの格差が大きい。報告書は、こうしたギャップを徐々に埋めていくため、更なる支援や様々な活動が必要だと指摘している。
参考資料
- IOE(国際経営者団体連盟)-ILO(国際労働機関)(2024)Women in business: How employer and business membership organizations drive gender equality
- IOEウェブサイト
- ILOウェブサイト
2024年5月 ILOの記事一覧
- 気候変動により世界の労働者の7割が健康被害などの恐れ
- ジェンダー平等進むもガラスの天井も ―ILO・IOE報告書、使用者組織調査
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