出生率の低下と「出産休暇」の創設

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出生数が減少傾向にあり、近年は減少幅が著しい。2006年から2015年まで2前後で推移していた合計特殊出生率が、17年には1.89となった。その後、22年に1.79となり、23年には1.68まで低下した。出生率低下の要因を特定するのは困難だが、調査会社(Ifop)が実施したアンケートによると、50歳以下の子供を持つことを諦めた人の約半数が、仕事と育児の両立が経済的に困難なためだと回答した。育児休暇制度などの家族政策を見直す必要があり、大統領は24年1月、新たな育児休暇に関する制度「出産休暇」を2025年に導入する考えが示した。

低い給付水準のためあまり利用されていない育児休暇制度

出生率低下の要因は、出産年齢人口の減少や経済情勢、社会不安など複数の要因がからみ合っているとされる。縄田(2009)によると、1993年から2005年にかけて出生率が回復したのは30代の出産数の増加が大きく寄与していたが、直近の出産数に関する統計数値によると、30代の出生数の減少幅が最も大きい(注1)。現行の家族政策では30代が子供を持とうとする効果が見込めないと考えることもできる。社会党オランド大統領の政権下において、財政支出の抑制を優先するため家族手当(allocations familiales)の調整、乳幼児迎え入れ手当の基礎手当(Paje)の削減、家族係数(quotient familial)(注2)の変更が行われため、それ以降、家族政策の弱体化が進んだが、その結果として出生率の低下ではないかと右派共和党のジュヌヴァール国民議会議員は主張している(注3)

1977年に創設された育児休暇制度は、子供が3歳になるまで親が一時的に仕事を休み育児に専念できる制度である。何回かの改正を経て2014年のオランド政権下おける改革では手当が減額され、期間が片方の親のみの取得の場合は2年に短縮された。もう一方の親が取得する場合に3年間に延長できるという制度になった。その目的は、父親の休暇取得の促進であり、25%の父親の取得が目標だった(注4)。しかし実際には、OFCE(フランス経済情勢研究所)の2021年の調査結果によれば、育児休暇を取得した父親の割合は1%未満で、しかも2013年から2020年にかけて、男女を問わず育児休暇を取得する親の数は50万人から24万6千人に減少してしまった(注5)。女性の取得率も低く14%程度である(注6)。給付水準が低いため、低所得層にとっては意義のある育児休暇制度であるが、一定の所得以上の層にとって仕事を一時的に休んでまで育児に専念する効果が期待できない制度になっている(注7)

出生数低下の要因を示唆する調査結果

出生率の低下の要因を特定するのは困難だが、カトリック家族協会(AFC)の依頼で調査会社Ifopが行ったアンケート調査から幾つかの示唆を得ることができる(注8)。18歳以上のフランス人2,010人を対象に2023年7月実施した調査によると、50歳以下の33%が出産を諦めた(2子目以降を含む)と回答した。(もう一人)子どもが欲しかったが、結局は諦めざるを得なかったのかという質問に対して、15歳未満の子どもを持つ親の38%、子どもがいない人の28%が「諦めた」と回答した。

子どもを持つことをあきらめた理由(複数回答)については、「経済的または就業に関する理由」を44%が挙げ、「保育・託児の困難」のためと回答したのが27%だった。経済的または就業に関する理由を第一の理由とする人が最も多く19%だった。私生活と仕事の両立の困難さが出産を思いとどまる動機として最も重要であることがわかる。

また、育児休暇の取得が子供を持つことに影響するかどうかの質問については、自分自身あるいはパートナーが育児休暇を取得できたら子供を持つことを諦めなかったと回答したのが48%だった。育児休暇取得の条件が改善されれば、出産を諦めるという選択を見直すかもしれないことを示唆している。内訳として、15歳未満の2児の親が最も多く59%、15歳未満の1児の親が48%、子供のいない人が43%と、子供が多ければ多いほど、育児休暇の重要度が高まることがわかる。

育児休暇に必要な手当の月額最低額に関する自由回答の質問では、500ユーロ以下と回答したのが22%、501~999ユーロと回答したのが13%、1,000~1,499ユーロと回答したのが33%、1,500ユーロ以上と回答したのが32%で、平均では1,141ユーロだった。

家族政策改革の模索

出生率が直近の約10年間にわたって低下する傾向にあることを受けて、ベルジェ連帯大臣は11月8日に既存の育児休暇制度に加えて「家族休暇(congé familial)」を創設すると発表した(注9)。この新しい制度は、若い親が従来よりも高い水準の給付を受けながら、育児のために仕事を休むことができるようにするための制度であり、現行の育児休暇に代わる制度ではなく、補完する制度と位置づけている。

2024年1月16日には、マクロン大統領から検討中の休暇制度の具体的な内容の説明があった(注10)。マクロン大統領の発表では「出産休暇(congé de naissance)」という名称になっており、既存の育児休暇に加えて、産休と育休の後、両親はそれぞれに取得する権利を付与し、フルタイム、パートタイムのどちらも選択でき、両親が同時に取得することも、両親が時期を変えて取得することもできる制度とする予定である。出産休暇は、現行制度の出産休暇(16週間)に出産休暇(28日)を組み合わせれば合計で6カ月間、育児に専念して子どもと一緒に過ごすことができることとになる。7カ月目以降、3歳までの育児休暇期間は短くなるが、給付額は大幅に増額される。大統領の考えでは給付額は従前賃金に何割か設定する予定だが、上限を月額1,800ユーロとし、従前賃金に達しない分は、雇用主によって補填される仕組みとする考えが示された。実際の給付額など条件の決定には社会保障関連法の改正が必要となるため、法改正を24年の秋の議会で行い、2025年の施行をめざすとしている。

現行の育児休暇制度の給付額は月額429ユーロだが(注11)、先に紹介した調査結果で、育児休暇手当として必要な最低額の回答が平均1,141ユーロだったことを踏まえると、現行制度では必要な額を満たせていないことがわかる。新しい制度は、一定額以上の所得層も休暇を取得するメリットがある制度にする狙いがある。

保育サービスの拡充にも目をむけるべき

今回発表された出産休暇が出生数を増やすための最善の解決策なのかについて疑問を呈する研究者もいる。

出産休暇の創設自体は良い取り組みだが、出生率を効果的に回復させるには、他の施策が伴っている必要があるとINEDのトゥールモン研究主任は力説する(注12)。出産休暇の目的は、何よりも若い親の生活条件を改善することだが、子どもが生後6カ月を過ぎた以降に、仕事に復帰する時点で、安心して預けられる託児所が十分に用意される保育制度の整備が前提となる。しかし、今回大統領から発表された計画ではこの点については全く触れられなかったため、最善の解決策とは言い難いという。ただ一方で、出産休暇制度は男女間の不平等を解消する施策としては重要な役割を果たすため、若い両親の幸福を向上させる効果はあるだろう。子育てには一定のコストがかかるものだが、現状ではそのほとんどは女性が負担している。育児休暇を男女で同じ期間取得すれば女性の休暇期間が短くなり、女性が育児休暇後に仕事を見つけられなかったり、キャリアを追求できなかったりするリスクを抑えることもできる。その効果については一定の評価を与えた。

(ウェブサイト最終閲覧日:2024年2月6日)

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