安定を求める中国の大卒者

カテゴリー:人材育成・職業能力開発若年者雇用

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  • 国別労働トピック:2024年1月

猎聘(Liepin)ビッグデータ研究所は2023年10月、「全国大学新卒者の就職動向と展望2023(注1)」と題する報告書を公表した。同書は、全国の大学新卒者(以下:新卒者)の就職動向を把握するため、異なる都市や学歴保有者の就職動向を細かく分析している。それによると、昨今の厳しい経済状況を反映して、23年の新卒者の就職は安定を求める傾向が顕著に見られた。

企業側の需要

企業が提示する「新卒採用時平均月収」は、22年には前年の9292元から1万575元へ13.8%上昇したが、昨今の厳しい経済状況を反映して23年は1万342元と、前年比で2.2%下落した。

近年の傾向として、高学歴人材に対する企業の需要が高まっている。学士号を保有する新卒者の需要は一貫して高く、21年の28.8%から、22年は42.6%、23年は42.9%にまで増加した。修士号に対する需要も21年の2.2%から23年には6.3%に、博士号も、21年の0.4%から23年に1.4%に増加した。一方で、「大専(注2)」やそれ以下の学歴、および学歴制限のない新卒者の需要は継続的に減少している。

産業別の求人割合(図1)を見ると、IT/インターネット/ゲーム業が過去3年間で最も高い求人割合であるものの、比率は21年の20.32%から23年には17.70%へと、明らかに減少している。同様に、研究技術/ビジネスサービス、不動産/建築、交通/物流/貿易/小売りなどの産業も、新卒者に対する需要が減少している。一方で、医療健康、機械/製造、電子/通信/半導体、エネルギー/化学/環境保護、自動車、消費財など、近年中国が重点的に発展を図っている産業では、新卒者の需要が顕著に増加している。

図1:産業別の求人割合(21~23年)
画像:図1

出所:全国大学新卒者の就職動向と展望2023

上記の産業を細分化して、23年の新卒採用時平均月収を職種別(図2)に見ると、人工知能(AI)が1万8592元で最も高く、次いで、ブロックチェーン(1万7467元)、介護(養老)サービス(1万6992元)、航空/宇宙機器(航空航天設備)(1万6042元)が続く。

図2:職種別の23年の新卒採用時平均月収(左軸)と賃上げ率(右軸)
画像:図2

出所:全国大学新卒者の就職動向と展望2023

さらに、過去3年間の賃上げ率を見ると、介護(養老)サービスが88.1%と最も高かった。次いで新聞/出版業が80%超、医薬アウトソーシング、ブロックチェーン、人工知能、インターネット医療、コンピュータハードウェア、航空/宇宙機器(航空航天設備)も40%を超える賃上げ率であった。

新卒者の希望

新卒者の就職希望先(図3)を見ると、23年に最も希望する割合が多かったのは、IT/インターネット/ゲームで、次いで医療健康であった。他方で、3年間の希望の推移を見ると、21年から23年にかけて、IT/インターネット/ゲーム、不動産/建築業、金融の3分野は、割合が著しく減少している。IT/インターネット/ゲームは、21年新卒者の28.92%から23年には19.39%に10ポイントほど減少し、不動産/建築は21年の12.86%から23年には7.85%に、金融は同10.10%から7.03%にそれぞれ減少した。

他方、機械/製造は最も著しく増加しており、21年の4.47%から23年には9.14%にまで増加した。次いで、電子/通信/半導体は21年の4.67%から23年には8.75%に、医療健康も21年の8.05%から23年には11.04%に増加した。さらに、エネルギー/化学/環境、自動車、研究技術/ビジネスサービスなども増加している。

図3:新卒者の就職希望先(産業別、%)
画像:図3

出所:全国大学新卒者の就職動向と展望2023

地域ごとの状況

地域ごと(一線都市、新一線都市(注3))に、新卒採用時平均月収と賃上げ率を見ると、北京が1万3283元で最も高く、深センと上海はそれぞれ1万2783元、1万2317元であった。過去3年間の賃上げ率を見ると、合肥(29.28%)、西安(26.86%)、深セン(26.15%)、杭州(21.41%)が上位となり、その増加率はいずれも20%を超えていた。上海(19.68%)、寧波(18.62%)、蘇州(17.87%)、長沙(16.80%)、武漢(15.36%)も3年間の増加率が15%を超えている(図4)。

近年、急速に発展している「新一線都市」では、人材を獲得するため、新卒者の給与水準を大幅かつ継続的に引き上げており、全国的な「人材争奪戦」に積極的に加わっている。

図4:一線都市、新一線都市における23年新卒採用時平均月収(左軸)と賃上げ率(右軸)
画像:図4

出所:全国大学新卒者の就職動向と展望2023

なお、大学生の就職意向に関して、新卒者の「新一線都市」への就職希望が高まっている。これまで中国では、「一線都市」の経済状況が良く、就業機会が豊富なため、長らく、多くの新卒者にとっての優先的な就職先だった。しかし、21から23年にかけて、新卒者の「一線都市」への就職エントリーシート提出は減少傾向にあり、21年の53.99%から23年には48.67%にまで減少した。一方で、「新一線都市」へ就職エントリーシート提出の割合は、21年の32.78%から23年には39.87%に増加した。「新一線都市」は近年、人材募集の優遇政策、経済発展の見通し、相対的に低い生活費、住みやすい環境などで、新卒者を積極的に引き寄せている。

新卒者の安定志向の高まり

不安定な経済情勢を受けて、新卒者の就職には安定志向の高まりが顕著に見られる。23年および24年の新卒者を対象とした卒業後の進路について調査を行ったところ、23年新卒者の約64.48%以上、24年新卒者の約40.58%がフルタイムでの就職を選んでいる。同時に、公務員試験の受験者割合は23年の新卒者の16.92%に対して、24年の新卒者は25.12%にのぼった。さらに、就職を避けて進学を選んだ割合は23年が13.93%、24年が22.22%となっていた。公務員試験と進学の選択肢を合わせた割合は、23年の新卒者が3割であるのに対して、24年はほぼ半数に近い結果となっている。

新卒者が期待する平均月収は、23年に8033元と、前年(22年)の8133元よりも1.2%下落した(ただし、22年は21年の7417元から9.7%上昇)。厳しい経済状況の中で、新卒者が冷静な判断をしていることを示している。

業種別の選択を見ると、新卒者は国営/中央企業を好む割合が最も高く、72.6%に達した。次に、政府機関/政府系事業組織が34.6%で、外資系企業は33.8%であった。不安定な経済環境のなか、求職者が安定性を優先する傾向が顕著に見られる。就職する際に重要だと考える要因については、「給与・福利厚生」が83.3%と最も重視されており、次いで、「キャリアの展望と昇進機会」が75.7%で、「安定性(64.0%)」、「企業の実力と規模(53.2%)」なども上位にあがった。

参考文献

参考レート

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