ホワイトカラー・エグゼンプションの俸給水準要件引き上げを提案
 ―連邦労働省

カテゴリー:労働法・働くルール労働条件・就業環境

アメリカの記事一覧

  • 国別労働トピック:2023年9月

連邦労働省は8月30日、公正労働基準法(Fair Labor Standards Act、FLSA)に基づき、残業代の支給対象から外れる「ホワイトカラー・エグゼンプション」について、適用対象者の俸給水準要件を引き上げる改定規則案を発表した。現在の「週給684ドル以上(年収3万5,568ドル以上に相当)」を「週給1,059ドル以上(年収5万5,068ドル以上に相当)」に改める。これにより、300万人以上が新たに残業代の支給対象になるという。パブリックコメントを募ったうえで施行する予定にしている。

ホワイトカラー・エグゼンプションの要件

FLSAは特定のホワイトカラー労働者を労働時間規制から除外する、いわゆる「ホワイトカラー・エグゼンプション」制度を設けている。FLSAは使用者に対して、週40時間を超えて働く労働者に残業代として1.5倍の時間外割増賃金を支払うよう義務付けている。しかし、「管理職」「運営職」「専門職」「外勤営業職」「コンピュータ関連職」のホワイトカラー労働者については、原則として、①賃金の支払い方が時間給ではなく、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定めた一定水準以上の俸給額が支払われている(俸給基準要件、俸給水準要件)、②管理、経営、または専門知識を必要とする(職務要件)、という要件を満たせば、時間外割増賃金(残業代)支給の適用対象から外れる(外勤営業職、医師、教師、弁護士等は職務要件のみ)。

現行規則の俸給水準要件は「週給684ドル以上(年収3万5,568ドル以上に相当)」で、2020年1月に施行された。また、10万7,432 ドル以上の年収を得ている者は、行政規則で詳細に示した「職務要件」の一つでも満たせば、「高額賃金エグゼンプト(Highly Compensated Employees、HCE)」に該当し、残業代支給の適用対象外となることも定めている。

300万人以上が残業代の新たな支給対象に

連邦労働省が今回示した改正規則案は、「ホワイトカラー・エグゼンプション」の適用対象者の俸給水準要件を「週給1,059ドル以上(年収5万5,068ドル以上に相当)」とした。同省では改定の趣旨を「この4年間で米国の俸給労働者は名目賃金の急速な伸びを経験しており、現行俸給水準の有効性が薄れている。改定を通じて、誰が真の管理職、運営職、専門職として雇用されているのかをより効果的に特定し、FLSAが意図する時間外労働の保護が完全に実施されるようにするため」と説明している。

新たな俸給水準要件は、2022年に最も低所得だった国勢調査地域(南部地域)における、フルタイム俸給労働者の収入の35パーセンタイルとした。HCEの新たな年収水準要件は、全国の俸給労働者の週あたり収入を年換算した値の85パーセンタイル(14万3,988ドル)に設定している。

このほか、俸給水準要件を最新の賃金データに基づき、3年ごとに自動的に更新すること(ただし、予期せぬ経済状況等にある場合は一時的に更新を延期)、海外領土(プエルトリコ、グアム、米領バージン諸島、北マリアナ諸島連邦)にも適用すること、なども提示した。「職務要件」に関する改定は提案していない。

連邦労働省は、規則改定によって、新たな対象者への残業代の支給や、俸給労働者としての地位を維持するための昇給の実施等により、使用者から労働者に、総額12億ドルの所得移転が生じると見積る。また、現在、週給684ドル以上1,059ドル未満で働く約340万人の労働者が、新たに残業代の支給対象になると推計。HCEの年収要件を満たさなくなる約24万8,900人と合わせ、約360万人に残業代が支給されるようになると推計している。

引き上げへの道筋

連邦労働省は60日間パブリックコメントを募り、それらの意見を踏まえたうえで最終規則を発表し、施行する。

俸給水準要件をめぐっては、2014年に当時のオバマ大統領が引き上げを指示したところ、テキサス州の連邦判事が「連邦労働省には俸給水準要件変更の権限がない」とする訴訟を起こし、引き上げの改定が留保された。次のトランプ政権の下で、経営側の主張を受け、引き上げ額を縮小する改定案を改めて示し、2020年1月に現行水準の要件を定めた規則の施行に至った経緯がある。

今回の改定案に対しても、業界団体などは、多くの雇用主が一部の給与労働者を時間給労働者に転換し、通常の残業時間を含む賃金水準がこれまでと変わらないように基本賃金を低く設定するだろうと指摘。そのうえで、こうした労働者が高給のキャリアに就く道を阻害するといったデメリットをあげている。

また、改定案は俸給水準について、施行時の最新の賃金データに基づく改定予測値を注釈で言及している。その試算によれば、民間労働者の賃金と給与の「雇用コスト指数」が2023年に4.5%増加するという議会予算局の推計を考慮すると、南部地域フルタイム労働者の35パーセンタイル値は2023年第4四半期に週給1,140ドル(年収5万9,285ドル)、2024年第1四半期に週給1,158 ドル(年収6万209ドル)になる。こうした引き上げ水準自体の適否をめぐって、あらためて議論が交わされていく可能性もある。

州独自の水準設定も

なお、州によっては、独自に連邦より高い「ホワイトカラー・エグゼンプション」の俸給水準要件を設定している(図表1)。カリフォルニア州は「フルタイム労働者の最低賃金の2倍以上」とし、2023年9月1日現在(以下同)の最低賃金(時給15.5ドル)を当てはめると、週給1,240ドル以上、年収6万4,480ドル以上が要件となる。

ワシントン州で2023年1月から適用した水準は、従業員50人以下規模の企業が最低賃金の1.75倍以上、51人以上規模では最低賃金の2倍以上としている。現行最賃(時給15.74ドル)を適用すると、50人以下規模では週給1,101.80ドル(年収5万7,293.60ドル)以上、51人以上規模では週給1,259.20ドル(年収6万5,478.40ドル)以上に相当する。

ニューヨーク州では週給1,064.25ドル(年収5万5,341ドル)以上の水準を設定している。このほか、アラスカ州、メーン州、コロラド州も独自に俸給水準要件を設けている。

図表1:「ホワイトカラー・エグゼンプション」の俸給水準要件
  俸給水準要件
連邦 週給684ドル(年収3万5,568ドル)以上
→週給1,059ドル(年収5万5,068ドル)以上とする改定案提示
カリフォルニア州 週給1,240ドル(年収6万4,480ドル)以上
ワシントン州 50人以下規模=週給1,101.80ドル(年収5万7,293.60ドル)以上
51人以上規模=週給1,259.20ドル(年収6万5,478.40ドル)以上
ニューヨーク州 週給1,064.25ドル(年収5万5,341ドル)以上
アラスカ州 週給868ドル(年収4万5,136ドル)以上
メーン州 週給796.17ドル(年収4万1,401ドル)以上
コロラド州 週給961.54ドル(年収5万ドル)以上

出所:連邦労働省、各州ウェブサイト等より作成

参考資料

参考レート

関連情報