年金制度改革の成立と全国的な抗議行動(1)
 ―1995年以降、最大最多のデモ活動

カテゴリー:労働法・働くルール労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2023年7月

年金支給開始年齢を引き上げる年金制度の改革法案が2023年1月初めに発表された直後から、労働組合が主導する大規模な抗議行動が展開された。1月19日の全国的な抗議行動やストライキを皮切りに6月6日までの間に14回の全国的な抗議行動がおこなわれた。とりわけ1月31日の2回目の抗議行動には127万人(内務省発表、労組発表では280万人)が参加、3月7日の6回目には128万人(内務省発表)が参加し、1995年以降に行われた年金制度改革反対運動のなかで最多最大人数の抗議行動になった。

支給開始年齢の引き上げ等の改革が9月1日から実施

大規模な抗議にもかかわらず、年金制度改革法案は3月20日に国会で可決成立した。これにより年金支給開始年齢は現行の62歳から64歳に引き上げられる。2023年9月1日から2030年まで受給開始年齢を毎年3カ月ずつ引き上げ、1968年以降の生まれの国民は支給開始年齢が64歳になるとともに、満額支給に必要な拠出期間が43年に引き上げられることになった(注1)

憲法評議会の審議の結果が4月18日に公表され、一部条文を削除すべきとする指摘があったが、支給開始年齢の引き上げ等、年金改革の根幹については合憲との判断が下された。これを受けてマクロン大統領は即日、法律を官報に掲載して施行された。その後、年金改革に反対する左派勢力と中道野党勢力(院内会派LIOT)が国民投票を請求する議員立法法案を提出したが、これも憲法評議会によって却下された。具体的な改革を9月1日から施行するために必要な31のデクレおよびアレテが5月初旬には出そろい、6月4日から順次、官報に掲載された(注2)

法案成立までの経緯と記録的な全国規模のデモ活動

マクロン政権下の公的年金制度改革は、コロナ禍前の2019年12月に、42の年金制度(公務員や国鉄職員等の特別制度)を一本化するほか、年金支給開始年齢を現行の62歳から64歳への引き上げる法案が公表された。20年1月24日の閣議に法案を提出し、2月17日から国会での審議が始まったが、その後、新コロナウイルス感染拡大対策の経済支援を盛り込んだ補正予算が3月18日に採択された際に、年金改革の凍結が決まった(当機構国別労働トピック参照)(注3)

2022年の大統領選ではマクロン大統領は、年金支給開始年齢を65歳に引き上げるという公約を掲げて当選した。法案準備が22年9月から始められ、10月から12月にかけて労使協議が行われたが、特に労組側の理解が得られず、12月15日に予定された法案の発表は1月10日にずれ込んだ。12月から1月にかけての協議で、支給開始年齢を65歳から64歳に譲歩するかたちで改革の骨子が公表されたが、改革に対する反発は強く、発表直後から大規模な抗議行動が計画された。

最初の全国的な抗議行動が行われたのは1月19日で、内務省の発表で112万人、労組発表で200万人が参加するという大規模なデモ活動となった。1月31日に実施された2回目の全国的な抗議行動では内務省発表で127万人となり、2010年10月12日の年金制度改革に対する抗議デモの際、最大規模となった123万人を超える記録的な参加者数となった。3月7日の抗議行動には128万人(内務省発表)が参加し、今回の最大の参加者となった。図表1は、6月6日まで14回実施された全国的な抗議活動の参加者を内務省発表数値と労組発表の数値を併記して示したグラフである。労組発表の数値の方が80万人から200万人程度多く見積もられている。

図表1:抗議行動参加者数(内務省発表と労組発表)
画像:図表1
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出所:Le Monde, Publié le 28 mars 2023、France Bleu, Jeudi 13 avril 2023等を参照して作成。

1995年以降の最大規模の年金制度改革に対する抗議行動

フランスにおける年金制度改革の歴史を振り返ると、ミッテラン政権下の1982年に拠出期間37年半、受給開始を60歳とする制度が導入されて以来、法定退職年齢を延長する改革が幾度か実施され、その度ごとに抗議行動が展開された。

1995年のシラク大統領の時代、ジュッペ首相が立案した公務員や国鉄職員の年金拠出期間の延長等の改革では、11月から12月にかけて抗議行動が実施され、12月12日には100万人(内務省発表、労働組合発表では200万人以上)がフランス全土でデモ活動を行った(注4)。この抗議行動によって年金制度改革は撤回された。

2003年のシラク大統領の下、フィヨン労働社会大臣によって行われた年金制度改革は、拠出期間の延長とともに、公務員の制度の満額年金の受給要件を民間の一般制度と統一する改革が行われた(注5)。5月13日には、フランスの全土の都市で合計113万人(内務省発表、労組によると200万人)参加する抗議行動が実施された(注6)

2010年、サルコジ大統領の下、ワース労働・団結・公務員大臣が提案した年金制度改革は、年金支給開始年齢を60歳から62歳へ段階的に引き上げる措置を含む改革だった。国鉄、製油所、運送業や廃棄物回収業の労働者によるストライキが行われたほか、2010年3月から11月にかけて12回の大規模な抗議行動が行われた(注7)。10月12日のデモが最大の参加人数となり、内務省発表で123万人(労働組合によると350万人)が参加した(注8)

2019年12月にはマクロン大統領によって公務員や国鉄職員など42ある特別制度を一本化する改革のほか、満額支給開始年齢を62歳から64歳へ引き上げる改革が発表されたが、12月5日の全国規模の抗議行動には80万6000人(内務省発表、労組発表では150万人)が参加した(注9)。この改革は新型コロナウイルス感染拡大によって凍結された。

1995年以降に行われた年金制度改革に対する抗議行動は、123万人が参加した2010年10月12日のデモ活動が最も多かったが、今回の抗議行動はそれを上回る記録的な規模の抗議行動が全国的に展開されたことになる。内務省発表の数値に基づいて、1995年、2003年、2010年、2019年の抗議行動参加者で最も多かった回のものと、今回の参加者数を比較したグラフが図表2である。

図表2:1995年以降の年金制度改革の抗議行動参加者数と
2023年の参加者数(内務省発表数値)
(単位:万人)
画像:図表2

出所:BFMTV. Le 18/01/2023、Le Monde, Publié le 28 mars 2023等を参照して作成。

こうした抗議行動や野党の抵抗の甲斐なく、今回の改革は成立したが、過去には1995年のように改革法案を撤回に持ち込むことができたケースもある。また、労働組合は今回の抗議行動を通じて、国民の信頼を獲得し、組合員の大幅増に結びつけている。CGTは23年に入ってから3万人以上の新規メンバーを獲得し、2010年の年金改革抗議行動まで遡っても前代未聞のことだとしている。CFDTは、例年の40%増に相当する31,677人の新規メンバーを獲得した。新しいメンバーは若い層が多く、20%は30歳未満であるとしている。またFOも直近の3カ月で、前年の一年間の加入数の半数に相当するメンバーが既に登録された(注10)

1995年以降の抗議行動と比較してみると、2023年の抗議行動が記録的な規模となったことがわかる。1995年の全国的な抗議行動の回数は5回、2003年は4回、2010年は12回、2019年は10回だったのに対して、2023年は14回だった。それぞれの回数ごとの参加者人数(内務省発表)の推移を示したのが図表3である。2023年の抗議行動は最も回数が多く、平均参加者人数も最も多かった(図表4)。

図表3:1995年以降の抗議行動の各回の参加者数の推移 (単位:百万人)
画像:図表3
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出所:Franceinfo, Publié le 01/02/2023を参照して作成。

図表4:1995年以降の全国的な抗議行動の平均参加人数
画像:図表4

出所:Franceinfo, Publié le 01/02/2023を参照して作成。

参考資料

(ウェブサイト最終閲覧日:2023年7月19日)

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