EU離脱以降の外国人の増加

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2023年6月

EU離脱以降、EU域外からの就学や就労を目的とした外国人の流入が急速に増加している。離脱に伴い、EUからの労働力の維持・調達が困難になったことが一因と考えられるが、具体的な影響や、外国人労働者の受け入れによる状況改善の可能性は、業種によっても異なるとみられる。

外国人の流入が記録的に増加

統計局が5月に公表した移民関連統計によれば、外国人の純流入数(流入者数から流出者数を差し引いたもの)は2022年通年で61万1000人(入国者107万6000人に対して、出国者46万5000人)で、記録的に高い水準で推移している(図表1)。とりわけ2021年のEU離脱以降、EU域外からの外国人の流入が大幅に増加したことの影響が大きく、EUからの流入については対照的に、ここ数年減少が続いている。

図表1:外国人の出身地域別流出入数の推移(人)
画像:図表1

注:各期のデータは直近12カ月(YE:year end)のもの。また2022年9月、12月は暫定値(P)。

出所:Office for National Statistics 'Long-term international migration, provisional: year ending December 2022新しいウィンドウ'

並行して内務省が公表した入国許可に関するデータによれば、この間に顕著に増加したのは就学目的の流入とみられ、2022年の入国許可件数はおよそ63万件とコロナ禍前の2019年(40万件)から1.5倍となっている(図表2)。国籍別には、インドや中国、ナイジェリアなどの出身者が多い点は従来と変わらないものの、2019年の水準との対比ではインドで4倍、ナイジェリアで13倍など、大幅な増加がみられる(注1)。また、就労目的の入国許可も42万件と2倍強拡大しており、従来から6~7割を占めるインド出身者(対2019年で2倍)に加えて、ナイジェリアやジンバブエなどの出身者が大きく増加(同7倍と17倍)している。

図表2:入国許可区分別件数(千件)
画像:図表2

注:各区分の件数は、主申請者及びその扶養・帯同者の合計。

出所:Home Office 'Immigration System Statistics, year ending March 2023新しいウィンドウ' (Entry clearance visas - Detailed Tables)

就労目的の入国許可件数は、コロナ禍以前から緩やかな増加傾向にあったが、コロナ禍及びEU離脱を挟んで急増した大きな要因は、専門技術者(skilled worker)の保健・介護分野での拡大にある(図表3)。特に2022年2月、介護業における人手不足への対応を目的とした緩和措置(注2)が講じられて以降、保健・介護分野の入国許可件数は、2021年の6万3291件から2022年には15万7857件と2.5倍に増加した。その多くが、この間に急増したインド、ナイジェリア、ジンバブエなどの出身者に関するものとみられる。

図表3:就労目的の入国許可件数(千件)
画像:図表3

注:「企業内転勤」は、イギリス国内に事業所を有する多国籍企業が、従業員を他国から派遣するもの。離脱前の制度では、専門技術者と並んで労働者受け入れの主要ルートとして設けられ、手続きがより簡易であったため(受け入れに先立つ国内での求人義務が適用されない等)多用されていたが、新制度における手続き簡素化を背景に、件数が縮小。

出所:同上

人手不足への対応としての受け入れ

保健・福祉業に限らず、宿泊・飲食業や製造業、建設業など、人手不足は国内の広範な業種に及んでいるとみられ(注3)、状況の改善を外国人労働者の受け入れ緩和に求める声は強い。

歳入関税庁が公表している、源泉徴収システムに基づく出身別被用者数データからは、コロナ禍及びEU離脱を挟んだ期間における雇用の構成の変化を窺うことができる(図表4)(注4)。これによれば、2019年12月から2022年12月の期間で、イギリス全体の被用者は115万4000人増加しており、イギリス人は46万1000人、EU域外出身者は85万8600人、それぞれ増加したのに対して、EU出身者は16万5600人減少している。また業種別には、EU域外出身者は業種ごとの被用者の増減を問わず、全ての業種で増加しており、特に保健福祉業や事務・補助サービス業(注5)、宿泊・飲食業、卸売・小売業などでの増加が顕著だ。一方、EU出身者は対照的に、宿泊・飲食業や事務・補助サービス、卸売・小売業などでの減少が大きく、また減少を免れた(多くは相対的に専門性が高いとみられる)業種でも、増加幅は限定的だ。

図表4:出身別被用者数の変化(2019年12月~2022年12月、人)
画像:図表4

出所:HM Revenue and Customs 'UK payrolled employments by nationality, region and industry, from July 2014 to December 2022新しいウィンドウ'

人手不足への対応策の一環として、政府は3月に公表した2023年度予算の中で、建設業の5職種(レンガ職人、大工、屋根職人、左官、指物師)を労働力不足職種リストに掲載する方針を示した。政府からの諮問を受けて、建設業と宿泊・飲食業への受け入れ緩和に関する検討を行った諮問機関Migration Advisory Committee(MAC)の提言に基づく措置だ。MACは、いずれの業種もコロナ禍とEU離脱による影響を大きく受けて、人手不足の状況にあると分析している。しかし、建設業については緩和を提言したものの、宿泊・飲食業については、国内での労働力の調達が困難であることを示すエビデンスが得られなかったことや、不足が生じているとみられる職種の大半が相対的に低技能であることなどを挙げ、緩和の必要はないと結論付けている(注6)

一方、5月には、2024年の季節労働者スキーム(Seasonal Worker Scheme)について、受入上限を今年に続き4万5000人とすることが発表された。同スキームは、園芸作物の収穫などに業務を限定した短期受け入れ制度(最長6カ月)として、2019年に試行的に導入されたものだ(注7)。2023年以降は、順次縮小するとの方針も示されていたが、EU離脱と前後して生じた人手不足から、農作物の収穫などが滞るといった状況もあり、年々引き上げられてきた受け入れ上限が維持される形となった。ただし、スキームをめぐっては、搾取の横行なども指摘され(注8)、またこの2月には管理機関(政府の認可に基づき労働者の受け入れを担う組織)の一つが、不適切な制度運用を理由にライセンスを剥奪されるといった状況も生じている(注9)。導入以降、受け入れの大半を占めていたウクライナからの労働者が、ロシアによる侵攻を期に大幅に減少したため、中央アジア諸国やネパールなどからの受け入れ拡大やインドネシアからの新規調達を行ったことが大きな要因とみられる(注10)

受け入れ企業は人材育成などにも積極的な傾向

シンクタンクCIPDが5月に公表した報告書(注11)は、EU離脱以降の雇用主による外国人労働者の受け入れ状況を分析している。これによれば、離脱後の新制度を通じて外国人労働者を雇用したとする雇用主は全体の15%と限定的で、人手の調達に困難を抱えていると回答した雇用主の比率(57%)を大きく下回っている。外国人労働者を受け入れている雇用主は、人材の調達や育成、あるいは人手不足への対応(オートメーションへの投資等)を積極的に実施しているほか、人種的マイノリティや長期失業を経た者、健康上の問題を有する者をより採用する傾向にあると分析、また半数以上(54%)が、新制度はスキル・労働力不足への対応に有効であるとしている。一方、外国人労働者を受け入れていない雇用主では、制度は有効ではないとの回答が34%を占める。

報告書は、人手不足に直面する雇用主の多くが外国人労働者を受け入れていない大きな理由は、受け入れに要する内部資源や知識を持たないことや、充足が困難とする求人の多くが、現状の受け入れ基準に満たない仕事であることにあるとみている。低技能職種への受け入れを制限する、という政策意図には適っているものの、そうした雇用主が人手不足の改善に向けて、国内労働者の育成を積極的に行う傾向にあるとも言えないと指摘。国内のスキル・労働力不足により対応可能な制度への改善策として、労働力不足職種リストの定期的な改定や必要に応じた拡大、また利用しやすさの向上や、受け入れに要する時間・費用の削減を目的とした制度の見直しの必要性などを指摘している。同時に、企業における人材育成を支援、促進する施策の改善などを通じて、国内の労働者の能力開発を図ることが重要であると述べている。

参考資料

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