包括的な就労促進策

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2023年6月

政府は3月に公表した2023年度予算において、各種の就労促進策に関する方針を示した。人手不足が続く状況を受けて、子供を持つ親や低所得層向け給付の受給者、障害者・長期傷病者、高年齢層などを対象に、保育支援策の拡充や就労支援・求職義務の強化など、多岐にわたる施策が盛り込まれている。

人手不足に対応

一連の施策は、経済全般にわたり人手不足が継続している状況を受けたものだ。育児や失業、健康上の問題などが就労の妨げとなっている層に対して、就労の促進や拡大を図る措置を講じるとともに、早期退職等による非労働力化の防止や、就労への復帰を促すため、訓練施策の拡充や、年金制度の改革などが盛り込まれている。さらに、一部業種では、外国人労働者の受け入れ拡大が企図されている。

保育に関する支援策

子供を持つ親の就労への復帰を支援する新たな施策として、以下を実施する。

  • 生後9カ月から就学までの保育費用を週30時間、年間38週分無料とする。2025年9月までに段階的に実施を予定(現行の3~4歳児に関する週30時間・年間38週分の無料での提供に加え、2024年4月から2歳児について週15時間を無料化、同年9月から生後9カ月~2歳児に週15時間の無料化を拡大、2025年9月から生後9カ月~2歳児に週30時間を無料化)。
  • 年38週以上の保育を要する親には、より長い期間に分散させての利用を認める(現行制度と同様)。
  • 現行の無料保育の提供に関してプロバイダ(保育提供者)に支払う時間当たりの補助額を引き上げ、2027年度に想定される年間予算額(41億ポンド)に向けての追加予算として、2023年度に2.04億ポンド、2024年度には2.88億ポンドを措置。
  • 2歳児保育における従業員当たりの児童数の上限を4人から5人に引き上げるほか、さらなる規制緩和策について意見聴取を実施する。
  • 新たに家庭的保育事業者(childminder:自宅等で託児サービスを実施)を目指す者(保育事業者への登録を含む)に補助を実施する(教育水準局(Ofsted)への登録者に600ポンド(起業補助)、保育事業者への登録に1200ポンド)。

(学童保育)

  • 学童保育(wraparound childcare)の新設のための予算として、イングランドの自治体を対象に、2024年9月からの2年度で計2.89億ポンドを補助する。

(ユニバーサル・クレジットにおける保育補助を先払いに)

  • ユニバーサル・クレジット(注1)受給者が就業を開始または労働時間を増やす場合に、保育補助(保育料の85%を補助)を還付ではなく先払いし、低所得層の就労への復帰をより容易にする。
  • ユニバーサル・クレジットの保育補助を、子1人の場合646ポンドから951ポンドに、子2人以上の場合1108ポンドから1630ポンドに引き上げる。

ユニバーサル・クレジット受給者に関する施策

受給者の多くについて、ワークコーチ(ジョブセンター・プラスのアドバイザー)による求職活動支援を強化し、就労への移行や就労所得の拡大を促す。このため、

  • 求職や就労拡大を要する受給者には、週当たりの就労所得が所定額(Administrative Earnings Threshold:AET)に達するまで、ワークコーチとの定期的な面談の義務が課されるが、これを現行の全国生活賃金の15時間分から18時間分に引き上げる。カップルに対するAET(カップルの一方が一定以上の就労所得を得ている場合に、もう一方についてワークコーチとの定期的な面談を免除)は廃止する。これらにより、新たに10万人以上の受給者がワークコーチとの定期的な面談を行うことになる。
  • 求職活動義務の強化により、育児責任を有する受給者70万人以上にワークコーチの追加的支援を提供する。
  • 制裁措置の適用を強化し、ワークコーチに対する効果的な制裁措置の適用に関する訓練を実施(求職活動や就職を怠る受給者等)、また制裁措置の事務手続きの自動化(ワークコーチとの面談を欠席した場合にメッセージを自動送信する等)により、ワークコーチの誤手続きの防止や時間の節約をはかる。
  • 若者向け就業支援プログラム(Youth Offer:16-24歳の受給者に短期の訓練や就労体験、求職支援などを提供)の実施期間を2028年まで延長、無業により労働市場において不利な状態になりやすい若年層の求職活動を支援。併せて、現在求職活動を行っていない層(若い親や介護者等)に対象を拡大する。
  • 試行中のワークコーチによる追加的支援(13~26週にわたる失業者や低収入層に対する2週間の集中支援)を拡大する。またこの中で、顕著な業績を示したジョブセンターのチームに対する褒賞を併せて実施する。(イングランド、スコットランド)

障害者・長期傷病者に関する施策

障害者の就業率ギャップ(障害者と非障害者の就業率の格差、2022年時点で29.8%ポイント)の改善をはかるとともに、長期傷病により就労していないが働きたいと考えている層に対するさらなる支援策の導入(特に循環器疾患、メンタルヘルス、筋骨格疾患を重視)

  • 健康・障害白書において、障害者のニーズにより対応するための福祉制度の改革案を提示。就労能力評価を廃止して審査を単一化するとともに、就労を試すことで受給資格を失うことがないようにする。
  • 地域における就労と健康の支援に関する新たな施策モデル(WorkWell Partnerships)を試行、ジョブセンターや保健サービス、その他の関係機関の連携により求職者や給付受給者、健康問題により失業リスクに直面する層に対する包括的健康支援を実施。
  • 障害者や傷病者の求人とのマッチングや就労支援をはかるユニバーサルサポートプログラムを実施。(イングランド、ウェールズ)
  • 個々の障害者に合わせたワークコーチによる就職支援を拡大(Additional Work Coach time)、就労や就労関連活動の能力が限定的なために現在ワークコーチと接していない層の自発的な参加を含む。
  • 重度の精神疾患を有する層の就労を支援するスキーム(Individual Placement and Support scheme)の拡大、筋骨格疾患を有する受給者の就労への復帰や持続的就労を支援する。(イングランド)
  • コミュニティセンターや地域の運動施設で筋骨格疾患の治療を提供。(イングランド)
  • NHS(公的医療サービス)のヘルスチェックのデジタル化により循環器疾患の予防を強化、NHSのウェブサイトやアプリを通じてメンタルヘルスや筋骨格疾患の管理に関するオンラインの情報提供を実施、正しい支援を簡単かつ迅速に受けられるようにする。
  • 中小企業向けの労働衛生サービスに関する補助金制度を試行するとともに、職業衛生の向上に関する新たな規制や税制優遇の可能性に関するコンサルテーションを実施。

高年齢層の雇用に関する施策

高年齢層のより長期の就労や、就労への復帰を支援するため、以下の改革を実施する。

  • 年金積立における非課税額に関する制度改正として、年間の上限額(Annual Allowance)を2023年4月より4万ポンドから6万ポンドに引き上げるほか、生涯積立額の非課税上限(Lifetime Allowance)については、将来的な廃止を前提に適用を停止する。年間の上限額の引き上げは、NHSの臨床医のような高度技術者が、労働市場に留まることで被る年金積立への大幅な課税リスクを減じて、インセンティブ向上をはかることを目的としている。
  • 労働市場を離れた層が就労に復帰して収入を増やし、あるいは年金貯蓄を増やすことを支援するため、確定拠出型の積立年金に関する年間の非課税上限額(Money Purchase Annual Allowance)を4000ポンドから1万ポンドに引き上げる。
  • 中年層への就労や金銭的な相談(midlife MOT)のオンラインでの提供を強化するとともに、50歳超のユニバーサル・クレジット受給者に対するジョブセンター・プラスにおけるファイナンシャルプランニングや意識啓発セミナーの提供を強化する。

外国人労働者関連施策

企業の労働力不足やビジネスモビリティ(企業内異動、事業所新設等を目的とした入国)支援のため、以下を実施する。

  • 諮問機関(Migration Advisory Committee)の提言に基づく労働力不足職種リストの改定:建設業およびホスピタリティ業に関する諮問機関の臨時見直し作業の結果を受けて、5つの建設業職種を追加。秋に予定されるより大幅な見直しに先立って、夏の間に実施する。
  • ビジネスビザの手続き簡素化と拡大:6カ月までの短期ビジネス活動の範囲を拡大し、2023年秋からは報酬を伴う短期招へい(paid engagements)に関する見直しを実施。また、通商交渉に関連したさらなる拡大を検討する。

教育・技能関連施策

イングランドの若者・成人に、年齢にかかわらず労働市場においてフルに能力を発揮できるために必要な訓練を提供する。

  • 「リターンシップ」:50歳を超える層を対象に、柔軟性やこれまでの経験に応じた期間短縮をはかりつつ、既存のプログラムを通じた訓練を提供する。具体的には、短期アプレンティスシップ(既に習得された知識やスキルを考慮)や、業種別ワークアカデミー(就業前訓練と6週間の就業体験、採用面談等を組み合わせたプログラム)、50歳超の層のためのスキル・ブートキャンプ(16週間の訓練コースに、企業との採用面談を組み合わせたプログラム)を推進する。
  • スキル・ブートキャンプ:2024年度に追加で8000人の参加者の拡大をはかるため、3440万ポンドの予算を措置する。建設やデジタルなどの高付加価値分野における機会を開くことが想定される。
  • 業種別ワークアカデミー:2023年度及び2024年度の間に4万人の参加者拡大をはかるため、2880万ポンドの予算を措置する。これにより、失業者に対して、高需要業種で雇用を得るために必要な訓練や職業体験を提供する。
  • ウクライナ人向け就労支援:戦地を逃れて、ウクライナ人向けビザスキームを通じてイギリスにたどり着いたウクライナ人に対する施策を延長、1150万ポンドを投じて集中的英語講座や雇用支援を最大1万人分提供する。

参考資料

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