雇用の回復と社会的保護から取り残される低所得国
 ―ILOモニター第11版

カテゴリ−:雇用・失業問題労働条件・就業環境

ILOの記事一覧

  • 国別労働トピック:2023年6月

ILOは5月31日、新型コロナウイルス『COVID-19と仕事の世界(ILOモニター第11版)』の最新版を発表した。同報告書は、多重危機の状態によって発展途上国の回復が滞り、高所得国との格差が縮まらないことを示している。以下で概要を説明する。

多重危機による格差の継続

新型コロナウイルス危機とウクライナ侵攻の影響が長引いたことによって世界の所得と生計が打撃を受けている。スリランカの経済危機やトルコやシリアの地震等、一部の国ではさらに危機が重なった。特に発展途上国では、こうした多重危機への対応がインフレと金利高によって制限され、債務危機へのリスクが高まっている。

世界の失業率は最新の推計ではかなり改善し、2023年にパンデミック以前の水準にまで回復する見込みである。この回復速度は世界金融危機(2008~2009年)等の過去の危機と比較するとかなり早い。しかしこれは高所得国の力強い回復によるもので、低所得国は未だに回復していない(図表1)。

図表1:所得水準別失業率(2019,2022,2023年) (単位:%)
  2019 2022 2023
世界 5.5% 5.4% 5.3%
低所得国 5.2% 5.7% 5.7%
下位中所得国 5.5% 5.1% 5.1%
上位中所得国 6.0% 6.0% 5.7%
高所得国 4.8% 4.6% 4.6%

出所:ILO(2023)

ILOは、2023年の労働需要不足率(jobs gap)は世界全体で11.7%(4億5300万人)になると予測している。労働需要不足率は、ILOが新たに開発した指標で、失業者を含む、働きたいが仕事がないすべての人の割合(満たされていない雇用需要)を示したものである。所得水準別に見ると、低所得国で21.5%と最も高く、雇用が大きく不足した状態にある(図表2)。低所得国の労働需要不足率は2005年の19.1%から上昇しており、唯一長期的な上昇傾向にある(図表3)。

図表2:労働需要不足率(2023年) (単位:%)
画像:図表2

出所:ILO(2023)

図3:労働需要不足率の推移(2005~2023年) (単位:%)
画像:図3
画像クリックで拡大表示

出所:ILO(2023)

途上国の社会的保護への強化が必要

先進国との財政状況の格差は途上国の政策対応を悪化させ、世界人口の半数以上はすべての社会的保護にアクセスできない状況におかれている。

社会的保護の中で最も普及率が高い老齢年金の場合、世界の高齢者の77.5%が適用範囲に含まれるにもかかわらず所得水準による格差は大きい。高所得国の97.5%が年金を受給しているのに対して、下位中所得国と低所得国ではそれぞれ38.6%と23.2%にすぎない。

ILOは、高齢者の社会的保護の基盤となる老齢年金の導入は、高齢者の所得保障にとどまらず、経済成長と格差の解消をもたらすと指摘する。

推計によると、途上国ですべての高齢者が利用可能な老齢基礎年金を導入した場合、10年以内に1人当たりGDPが14.8%増加し、途上国における極度の貧困状態(1日の購買力が2.15USドル未満)の人口が現在の15.5%から6ポイント減少する。

そのためILOは、低所得国における社会的投資のための財政的余地を創出することが大変重要となり、国際金融の規制・監督の体制の改革について喫緊に検討する必要があるとしている。

参考資料

参考レート

2023年6月 ILOの記事一覧

関連情報