2025年まで労働市場は回復しない
 ―ILO世界の雇用及び社会の見通し2023

カテゴリ−:雇用・失業問題労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2023年6月

ILOは1月16日、定期刊行物『世界の雇用及び社会の見通し―動向編(World Employment and Social Outlook (WESO) – Trends)』2023年版を発表した。同書でILOは、2023年の雇用は2022年よりもさらに鈍化し、変わらずコロナからの回復は不十分であるという見通しを示した。また、インフレによって雇用の質が低下することも懸念している。

以下で主な内容を紹介する。

2023年の労働市場は大幅に減速する見通し

2022年は、新型コロナウイルス危機からの回復が不十分なままで、ウクライナ侵攻やサプライチェーンの障害が生じ、1970年代以来の高インフレと低成長が併存するスタグフレーション状態となった。

ILOは、2023年の雇用の伸びは2022年(2.3%)から大幅に減速し、1.0%になるという見通しを示し、コロナによる損失は2025年までに回復することはないと予測している。ただし、所得水準国別に見ると、高所得国では雇用の伸びはほぼゼロになる一方で、低所得・中所得国はパンデミック前を上回る伸び率に回復すると予測する。

雇用状況も属性によって、違いが見られる。就業率には男女差がみられ、2022年の女性の就業率は47.4%、男性は72.3%であった。また、若年者(15~24歳)にとってはディーセント・ワークに就くには困難な状況が続いている。若年失業率(25歳未満)は成人の3倍で、若年者の20%程度は就業・教育・訓練のいずれもしていないNEETの状態にあった。

各地域の回復には大きな差

2023年の労働市場の見通しには地域ごとに大きな差がある。

アフリカ、アラブ諸国では、生産年齢人口が増加しているものの、失業率は小幅な増加にとどまり、約3%以上の就業増加が見込まれる。アジア・太平洋地域、ラテンアメリカ・カリブ海地域では、就業の伸びは1%程度となる見込みである。北アメリカでは、2023年には雇用の増加はほぼなく、失業率が上昇する見込みである。ヨーロッパ・中央アジアは、ウクライナ侵攻によって特に大きな経済的打撃を受けた地域だが、2023年の就業は減少するものの、労働年齢の人口の増加が限定的なため失業率はわずかな増加に留まると予測されている。

労働需要不足率

ILOが新たに開発した指標「労働需要不足率(global jobs gap)」は、就業に関心を持っているが就業していない者すべてを対象とし、満たされていない雇用ニーズを示したものである。同指標の推計によると、2022年時点で、就業に関心があるが就業していない者は約4億7300万人で、このうち失業者が2億500万人、失業者に定義されない者が2億6800万人を占めた。後者には、例えば、就業の可能性がなく求職活動を諦めてしまった者、急に就業できなくなった者、家庭の事情や学生といった理由がある者が含まれる。

世界的に見ると、2022年の労働需要不足率は12.3%で、特に女性や低所得国でその割合が高くなっている(図表1)。

図表1:失業率と労働需要不足率(2022年) (単位:%)
画像:図表1

出所:ILO(2023)

雇用の質が低下するおそれ

2022年、賃金・給与労働者の実質賃金は下落し、インフレに見合った賃金の引き上げはなかった。この実質賃金の下落は先進国で最も深刻で、▲2.2%にのぼると推定されている。一方、途上国では、賃金の伸びは減少したもののプラスに転じ、0.8%であった。

また、世界の就業者の6.4%にあたる2億1400万人の労働者が極度の貧困状態(1日当たりの収入が購買力平価(PPP)で調整後1.90USドル未満)にあり、2020年以降1億4000万人程減少したものの、低所得国についてはパンデミック前の2019年と同程度にとどまることが懸念されている。

ILOは、景気の悪化が雇用の質を悪化させることを懸念している。社会的保護を受けられない労働者は、好景気のときと比べると、賃金が低かったとしても、また、労働時間が不便であったり不十分であったりしたとしても、働かざるを得ない。また名目賃金が上昇するよりも先に物価が高騰するため、現在の仕事を続けるとしても可処分所得は急速に減少していく。

インフォーマル就業(法的枠組みで保護されず、社会的な保護を十分に受けていない就業者)は過去10年以上減少傾向にあり、2004年から2019年の間に5ポイント減少した。しかし、パンデミックからの回復はインフォーマル就業が牽引しているため、その割合は再びやや上昇している。

生産性の向上は鈍化

過去20年間、全世界的に生産性の伸びは減少し続けてきた。
この傾向は特に先進国でみられるが、中国やインドといった主要な新興国でも急激な鈍化がみられる(図表2)。

図表2:G7諸国(左図)とブラジル、中国、インド(右図)の
生産性の推移(1960年~2020年)
(単位:%)
画像:図表2
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出所:ILO(2023)

今後に向けたILOの取り組み

ILOは、現在の多重危機への対応として、これまで以上に国際的な連帯が重要になると述べている。2023年には、それを強化する「社会正義のためのグローバル連合(Global Coalition for Social Justice)」という新たな枠組みを設置予定である。その上で、世界の労働需要不足の軽減、仕事の質の向上、実質所得の保護等の取り組みを加速させ、グローバルな社会契約を強化するためには、政府とソーシャル・パートナー(労使)の連携をより深めるべきだとしている。

参考文献

参考レート

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