賃金ダンピング防止のための「業種別最低賃金」

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  • 国別労働トピック:2023年6月

ドイツにおける2023年の法定最低賃金は時給12ユーロだが、それとは別に複数の業種で「業種別最低賃金」が存在する。業種別最低賃金は、賃金ダンピングを防ぐために、ドイツで当該業種に従事する者を雇用するすべての事業所に―労働協約に拘束されない国内外の事業所も含めて(注1)―適用される。

法定最低賃金と業種別最低賃金

ドイツでは、ナチス時代に国家が直接労働条件を規制した歴史的経緯から、「賃金政策への国家介入」には、労使ともに強い警戒感がある。そのため第二次世界大戦後は「労使自治(Tarifautonomie)」に基づき、産別労使を中心とした労働協約によって賃金を決定してきた。しかし、東西ドイツ統一後の雇用情勢の悪化(特に旧東独地域)、EU拡大による国外労働者の流入、賃金ダンピングの加速、ハルツ改革の規制緩和等による格差の拡大、グローバル化や産業構造の変化に伴う労働協約システムの弱体化など、複数の要因が重なり、労使だけで賃金の下限を設定し、その協約賃金を労働者全体に行き渡らせることが次第に困難になった。

徐々に協約賃金の恩恵を受けられない低賃金層の存在が社会問題となり、必要とされる業種に限り個別に最低賃金を導入していった結果、「つぎはぎの絨毯(Bunter Teppich)」と称される状態で規制が広まっていた。そこで最終的に約10年の議論を経て、2015年1月1日に史上初の法定最低賃金(時給8.5ユーロ)が導入された。

現在は、海外労働者送出法 (AEntG) および労働者派遣法(AÜG)に基づき、連邦労働社会省が法規命令(Rechtsverordnung)(注2)で定めた「業種別最低賃金」が、最低賃金法(MiLoG)に基づく法定最低賃金よりも優先されている。

この法規命令に基づき、企業は、国籍や所在地にかかわらず、当該業種に従事するドイツ国内のすべての労働者(ドイツ人・外国人とも)に対して業種別最低賃金を支払う必要がある。適用業種は、低賃金に陥りやすく、他国から送り出される外国人労働者も多い「労働者派遣」、「建設」、「食肉加工」、「警備」、「介護」など、幅広く設定されている。

業種別最低賃金の現状

連邦統計局の2023年5月の資料によると、現在の業種別最低賃金は、図表1の通りとなっている。

図表1:業種別最低賃金(2023年5月時点)
画像:図表1
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出所:連邦統計局(2023).

なお、業種別最低賃金が法定最低賃金を下回ることは禁止されているため、22年10月の法定最低賃金の引上げ(時給12ユーロ)により、法定最低賃金を下回る金額となった食肉加工業は、上回る金額になるまで法定最低賃金が適用されることになる。

参考資料

参考レート

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