22年の協約賃金、物価高で実質4.7%減

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2023年1月

ハンスベックラー財団経済社会研究所(WSI)の速報によると、22年の協約賃金上昇率(平均)は、名目で2.7%増だったものの、同時期の物価上昇率を考慮すると、実質で4.7%減であったことが判明した。分析担当者は、史上稀に見る大幅な実質賃金の減少であり、23年以降の労使交渉は、労働者の購買力の低下を可能な限り回避すること重要だと指摘する。

物価高騰に追いつかない協約賃金

図1は、22年の協約賃金上昇率である。22年は、約740万人の労働者を対象に新たな労働協約が締結され、賃金上昇率は2.9%だった。それより前(21年以前)に合意された労働協約の対象者は約1200万人で、賃金上昇率は2.6%と、22年度よりも若干低い。

22年中に合意、締結された労働協約の影響を受ける労働者数の最多は、金属・電機産業である。しかし、そこで合意された賃上げの実施は2023年からとなるため、22年の賃金上昇率には反映されていない。従って、この大型の協約締結を除き、21年以前に締結して22年から引上げが実施された協約賃金と、22年に締結されて同年中に引上げられた協約賃金を合計し、対象労働者数を考慮すると、22年の協約賃金の上昇率は2.7%となる。

図1:22年の協約賃金の平均上昇率 (前年比、速報値)
画像:図1

出所:WSI-Tarifarchiv(2022).

名目賃金は回復も、実質は大幅減

22年の協約賃金は既述の通り2.7%と、コロナ禍の20年(2.0%)と21年(1.7%)を上回り回復の兆しが見える。しかし、好況だった直前の18年、19年(それぞれ3.0%、2.9%)には若干及ばない(図2)。加えて、急速かつ急激な物価高騰を考慮すると、実質賃金は、21年の1.4%減に続き、22年も4.7%減と落ち込みが続いている。

図2:協約賃金上昇率の推移 2010年~2022年 (前年比、%)
画像:図2

出所:WSI-Tarifarchiv(2022)

注:消費者物価(22年1月~11月)の推移を考慮。
22年11月30日までに合意された全協約賃金改定に基づく速報値。

なお、こうした産業全体の傾向とは別に、パン製造、接客、清掃、警備などの低賃金労働者が多い一部の産業では、22年10月に法定最低賃金が時給12ユーロに大幅に引上げられたことに起因して、同産業の協約賃金が大幅に引上げられるという異なる動きが見られた。

労使交渉の新たな課題

分析担当者のトルステン・シュルテン氏は、「労使交渉は、急激な環境変化に対応できず一定のタイムラグをもってしか対応できない。そのため、今回のような急激な物価高騰は、労使交渉に全く新しい課題を突きつけている」と指摘する。さらに、「22年は、それ以前に多くの産業で長期的に有効な労働協約が締結されていたため、実施された労使交渉自体が少なかった。しかし、23年には大幅な協約賃金の引上げが予想されている。例えば化学、金属・電機産業などが22年に締結した協約では、賃上げに加えて、3000ユーロの非課税特別手当(ボーナス)(注1)の支払いが23年と24年に予定されている。今後、公共分野、ドイツポストAG、食品産業などで行われる労使交渉でも賃上げの要求が大幅に引上げられる傾向が見られる」という見通しを示した。その上で同氏は、不況危機が迫る中、適切な賃上げによって民間需要を維持し、国内全体の経済を安定的に発展させることが重要であり、そのために「23年以降の労使交渉は、労働者の購買力の低下を可能な限り回避すること重要だ」と指摘している。

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