金属・電機の産別交渉、妥結
 ―2年で8.5%の賃上げ

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2023年1月

金属・電機産業労組(IGメタル)と使用者団体(Südwestメタル)は22年11月18日、南西部で働く90万人が対象の労働協約に合意した。これにより労働者は、今後2年間で計8.5%の賃上げと計3000ユーロの非課税一時金(注1)を獲得した。同協約はパターンセッター(注2)の役割も担うため、合意内容は最終的に、金属・電機産業で働く390万人の労働者に波及する見込みである。

当初要求よりも低条件で妥結

IGメタルは当初、「22年10月1日から23年9月30日までの1年間で、8%の賃上げ」を要求していた。しかし、「協約期間を1年から2年に延ばし(22年10月1日から24年9月30日まで)、計8.5%の賃上げ」という内容で最終的には妥結した。今後は協約に従って23年6月に5.2%、24年5月に3.3%、の2段階に分けて賃金が引上げられる。また、物価上昇を踏まえた非課税一時金(ボーナス)は、23年2月までに1500ユーロ、24年2月までに1500ユーロの計3000ユーロの支払いが予定されている。

今回の結果について、労組側の交渉担当者は、「従業員の負担を軽減し、長期的に収入を安定させ、購買力を強化することに成功した」と評価している。

しかし、今回の妥結について、一部の報道では、「IGメタルは、企業と政府の利益のために労働争議を抑制し、実質賃金を大幅に削減し、社会的利益を悪化させる官僚機構に成り下がった」とする批判も見られる(WSWS)。このほか、コロナ禍やウクライナ戦争による経済危機を経て、多くの企業の経営状況が厳しくなる中、急激な物価高騰にも対応しなければならず、産別労組が高額な賃上げを要求しにくい苦境に立たされていると分析する報道もある(Tageszeitung)。

続くVWも同率で妥結

今回の妥結を受けて、ニーダーザクセン州とザクセン・アンハルト州におけるIGメタルとフォルクスワーゲン(VW)の労使交渉は11月23日、2年間で計8.5%の同率の賃上げに合意した。具体的には、23年6月に5.2%、24年5月に3.3%の賃上げ(計8.5%の賃上げ)を行う。また、非課税一時金については、23年2月に2000ユーロ、24年1月に1000ユーロ支給する予定である。

なお、フォルクスワーゲン社は、ナチス政権時代に国策会社として設立された経緯もあり、1960年までは国営企業であった。このため現在も大株主の中にニーダーザクセン州が含まれるなど、一般企業とは異なる側面を持つ。その最たるものが金属産業労組(IGメタル)とフォルクスワーゲン社の「企業別労働協約」である。通常、産別労組のIGメタルは、同じく産別使用者団体と協約を締結する。しかし、過去の経緯から、長年にわたり企業別協約でありながら産別協約とほぼ同等の扱いをされている。

WSIによる賃金分析と今後の展望

ハンスベックラー財団経済社会研究所(WSI)が12月13日発表した資料によると、22年には、労使交渉によって全体の名目賃金が平均2.7%上昇したものの、物価高騰により、実質賃金は4.7%減少した。

分析担当者のトルステン・シュルテン氏によると、2010年の賃金を100とした場合、実質賃金は10年から20年にかけて14%上昇した。しかし、21年と22年はコロナ禍やウクライナ戦争に端を発した経済危機や物価高騰が原因で計7%減少した()。ただ、シュルテン氏は、23年は賃金が大幅に上昇すると見込む。今年度妥結した化学産業や金属産業の賃金引上げの多くが23年以降に実施されることや、今後は公務分野の大型の労使交渉で高い賃金引上げの可能性が見込まれることによる。

図:2010~2022年の協約賃金の推移
画像:図

出所:WSI-Tarifarchiv(2022)

注:消費者物価動向による試算。22年11月末までに合意された22年全ての協約賃金引上げに基づく速報値

250万人の労働者が対象になる公務員系の2労組―統一サービス産業労働組合(Ver.di)とドイツ官吏同盟(DBB)は22年10月、物価高騰を受けて、23年初頭から開始する賃金交渉で、10.5%の賃上げと、少なくとも月500ユーロ以上の賃上げを要求した。また、職業訓練生についても月200ユーロの賃上げを求めている。現在の労働協約は2022年末で失効し、今後は23年1月、2月、3月末の3回の協議が予定されており、その交渉の行方に注目が集まっている。

参考資料

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