最低賃金の段階的引き上げ
 ―8月1日から月額120万キープへ、2023年5月には月額130万キープへ

カテゴリー:労働条件・就業環境労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2022年11月

法定最低賃金が2022年8月1日付けで月額110万キープ(約65米ドル)から120万キープ(約70米ドル)へ引き上げられた。さらに2023年5月には130万キープ(約77ドル)に引き上げられる予定である(注1)。今回の引き上げは2018年5月に90万キープから110万キープに改定されて以来、4年ぶりとなる。

経営側提案の額を踏まえた4年ぶりの引き上げ

ラオスの最低賃金制度は1991年に導入され、3年~5年ごとに改定されている(図表1参照)。2018年5月の引き上げから4年ぶりに110万キープから120万キープに引き上げられ、さらに段階的に130万キープに引き上げられることが決まった。

図表1:最低賃金引き上げの推移
画像:図表1

出所:労働政策研究・研修機構(2020)『ラオスの労働・雇用・社会』99頁等をもとに作成。

今回の引き上げは2022年3月から政労使三者で審議された。ラオス労働組合連盟(LFTU)は月額150万キープへの引き上げを提案したが、使用者側のラオス商工会議所(LNCCI)は、その引き上げでは雇用主の負担が大き過ぎ、雇用機会が減る懸念があるという見解を示し(注2)、月額130万キープへの引き上げを提案した(注3)。それに対して、ラオス労働組合連盟(LFTU)は近隣諸国に比べて著しく低いラオスの最低賃金が人手不足の原因になっていると指摘し、2022年中に150万キープに引き上げる必要性を強調した(注4)

人手不足解消のための引き上げを求める労組

ラオス人の熟練度の高い労働者は、賃金が高いタイへ出稼ぎに行くケースが多いが、労働社会福祉省の統計によると、コロナ禍のためタイで失業した約24万6,000人がラオスに帰国していた。2022年1月にはタイでの企業活動再開を受けて、帰国者のうち約15万人が再び出稼ぎに出て、その後、3月までに約7割に相当する20万人がタイに戻ったと推計している。労働組合は、帰国者が全てタイに戻る前に、最低賃金を引き上げ、熟練労働者の流出を回避しなければ、ラオス国内の人手不足が深刻になると指摘していた。

ラオス南部サワンナケート県出身のある男性は、タイの工場において月額15,000バーツ(約405ドル)で働き、自身の生活費を差し引いても両親に送金できたという。感染拡大で工場が閉鎖され解雇されたためサワンナケートに戻ったが、就職できたのは月額100万キープ(約60ドル)の仕事だった。3カ月間働いたが、賃金が生活するのに十分ではなかったために退職したが、タイの元雇用主から工場が再開されるのでタイに戻るようにという連絡を受けたという(注5)

22年は物価の顕著な上昇も

ラオスでは2022年に入ってから物価が急激に上昇しており、今回の最賃引き上げでもカバーしきれない水準になっている。統計局によると2022年1月には前年同月比で6.25%だったが6月以降に顕著な上昇が見られ(図表2参照)(注6)、9月は前年同月比では34.05%、10月は同36.75%に上昇した(注7)。これは最近22年間で最も高い数値である(注8)。アジア開発銀行によると、この物価上昇は、燃料価格の急騰とその背景にある為替の変動によるところが大きい。燃料の行政価格が22年1月から9月にかけて13倍に跳ね上がり、その結果、ディーゼル燃料の価格が90.3%、ガソリン価格が62.3%上昇した。またこの背景には、キープは1月から8月にかけて、米ドルやタイバーツに対してそれぞれ3分の1程度に下落するという急激な為替変動がある。

図表2:物価上昇率(前年同月比)の推移(単位:%)
画像:図表2

出所:統計局、中央銀行等を参照して作成。

(ウェブサイト最終閲覧日:2022年11月7日)

参考文献

参考レート

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