自営業者の減少

カテゴリー:雇用・失業問題

イギリスの記事一覧

  • 国別労働トピック:2022年10月

統計局は7月、自営業者の減少に関するレポートを公表した。自営業者数は、長期にわたり増加が続いてきたが、新型コロナウイルスの感染拡大以降の2年間で大幅に減少している。ただし、多くが同じ仕事のまま、分類上のみ自営業者から労働者に移行しており、レポートはこの間の雇用維持スキームの導入や税制改正が、自営業者や使用者に分類の見直しを促した可能性を指摘している。

多くが分類上のみ被用者に転換

自営業者は、ここ20年あまり継続的に増加し続け、2000年の350万人から2019年には500万人に達していたが、新型コロナウイルスの感染拡大以降、急速に減少している。統計局のレポートによれば、2022年第1四半期までの2年間で73万人(15%)の減少、その大半(70万人分)が2021年第1四半期までの1年間に生じている。業種別には、建設業(12万人)、専門・科学・技術(10万人)、情報通信業(7万人)、事務・補助サービス、卸・小売業等、教育業(各6万人)などで減少が顕著だ(図表1)。一方、労働者(注1)は同時期に40万人増加しており(1年目に7万人減少の後、2年目に47万人増加)、業種によっても傾向が異なるものの(注2)、全体としては自営業者に比して好調に推移したといえる。

図表1:自営業者、労働者の業種別増減(2020年第1四半期~2022年第1四半期) (単位:千人)
画像:図表1

出所:Office for National Statistics "Understanding changes in self-employment in the UK: January 2019 to March 2022"の付属データより作成。

レポートは、自営業者と労働者、失業者、非労働力人口の間の移動(前四半期からの区分の変更)に着目して推計を行っている(図表2)。自営業者の減少は、他の区分への移動が流入分を上回ったことが大きく、2020年第1四半期以降の2年間では、労働者との間で差し引き33万人、非労働力人口との間で23万人の流出超過となっている。この間、失業者との間では12万人の流入超過だ。

図表2:自営業者と労働者、失業者、非労力人口の間の移動 (単位:千人)
画像:図表2

出所:同上

統計局は、自営業者から労働者に移動した者について、さらに「仕事を変えた」(changed job)かどうかを尋ねており、「変えていない」と回答した者(注3)については、同じ仕事のまま区分のみ自営業者から労働者に移動した「再分類」(reclassified)層とみている。2020年第1四半期以降の2年間で自営業者から労働者に移行した172万人のうち、108万人(63%)がこれに相当する。特に、移行が顕著に増加した2020年第2~第3四半期には、再分類層が約8割を占めている(図表3)。統計局は考えられる要因の一つとして、コロナ禍に伴って導入された雇用維持スキームが、認識の変更をもたらした可能性を指摘している。同制度は、コロナ禍の影響により雇用主が労働者を一時帰休させる場合に、賃金を助成するものだが、自営業者が自ら設立した会社(personal service company)の労働者として就労する場合、制度の適用を受けることができたために、自らを労働者と回答し始めたのではないか、と述べている。

また、2021年4月に導入された税制上の制度改正(IR35)では、こうした会社を通じて就労する自営業者を請負事業者として使用する企業に対して、実態に即した分類の責任が課されることとなった(実態として労働者とみなされる場合、労働者と同等の所得税や社会保険料が課される)。これについても、労働者への再分類を促す要因となった可能性を、レポートは指摘している。

図表3:自営業者から労働者に移動した者の内訳(仕事を変えたかどうか) (単位:千人)
画像:図表3

出所:同上

参考資料

2022年10月 イギリスの記事一覧

関連情報