実質賃金の減少

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2022年10月

失業状況の記録的な改善が続く一方で、年初からの雇用回復には減速がみられ、再び非労働力人口の増加が進んでいる。労働力需給の逼迫を背景として、高い賃金上昇率が続いているが、このところの急激な物価上昇の影響により、実質賃金は減少している。

就業者数は停滞、失業者は減少、非労働力人口は増加

統計局が10月に公表した雇用統計によれば、2022年6-8月期の就業者数は3275万人で、2022年に入って続いていた増加が減速し、対前期(2022年3-5月期)でマイナス11万人と減少に転じた。コロナ禍前の就業者数(2019年12月-2020年2月期で3307万人)に回復しつつあるものの、依然として30万人前後低い水準で推移している(図表1)。また、失業者数は2020年末以降継続的に減少しており、6-8月期には119万人、失業率は3.5%で、いずれも47年ぶりの水準に改善した。

一方、年初には就業者数の増加に対応する形で減少が見られた非労働力人口は、ここ数カ月再び拡大傾向にあり、6-8月期には前期から33万人増加して200万人となった。年齢別には、50-64歳層と18-24歳層が増加分の多くを占めている(注1)。なお、生産年齢(16-64歳)について理由別に見ると、長期傷病や就学・訓練を理由とする非労働力人口の増加が顕著となっており、50-64歳層は前者、若年層は後者にそれぞれ多く含まれることが推測される。就業者数の停滞と失業者数の減少により、過去20年以上にわたって大きくは上昇傾向にあった労働力率も低下が続いている。

図表1:2020年以降の就業者数、失業者数、非労働力人口の変化(累積)と労働力率の推移(単位:千人、%)
画像:図表1

注:各指標は3カ月間の移動平均。就業者、失業者、非労働力人口は16歳以上、労働力率は16-64歳。

出所:Office for National Statistics 'Labour market overview, UK: October 2022'新しいウィンドウ

これに対して、昨年の経済活動再開と前後して急速に増加していた求人数は、2022年3-5月期のピーク以降4カ月連続で減少が見られるものの、依然としてコロナ禍前の1.5倍(125万件)の水準にある。業種別で多くを占める保健・福祉業(22万件)や卸・小売業、宿泊・飲食業(いずれも16万件)などを中心に、人手不足の状況が続いていることが窺える(図表2)。

図表2:業種別求人数の推移 (単位:千人)
画像:図表2
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出所:同上

高い賃金上昇率を上回る物価の上昇

労働力需給の逼迫を背景に、週当たり平均賃金上昇率(対前年同期比)も名目ベースでは6.0%(6-8月期)と高い水準にある。しかし、昨年から続くエネルギーや食品などの価格上昇が、今年に入って発生したロシアのウクライナ侵攻の影響などでさらに激化したことから、消費者物価指数(住宅関連コストを含む)(注2)は年初の4.9%から8月には8.6%に上昇し、結果として実質賃金は4期連続で減少している(8月にマイナス2.4%)(図表3)。

図表3:賃金上昇率と物価上昇率の推移 (単位:%)
画像:図表3
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出所:同上

この間の賃金水準の動向は、業種によっても異なる。統計局が、歳入関税庁の源泉徴収システムの登録データを用いて推計している月額賃金(名目)のデータによれば、2022年9月までの12カ月間の賃金上昇率は全業種平均で6.3%だったが、相対的に高賃金かつ上昇率の高かったエネルギー生産・供給業(10.1%)や金融保険業(8.3%)、情報通信業(8.0%)などの業種と、低賃金かつ上昇率も低調にとどまった芸術・娯楽等業(2.4%)や世帯雇用主(家内労働者等を雇用)等(3.3%)、宿泊・飲食業(4.2%)などでは、この間の賃金増加の状況に大きな開きがあったと推測される(図表4)(注3)

図表4:業種別月額賃金と対前年上昇率(2022年9月)
画像:図表4

出所:Office for National Statistics 'Earnings and employment from Pay As You Earn Real Time Information, UK: October 2022'新しいウィンドウ

物価上昇に見合った賃上げを要求する動き

急激な物価上昇が賃金に影響していることを受けて、広範な業種の労働組合が、これに見合った賃上げなどを雇用主側に要求しており、鉄道業や郵便業、通信業、あるいは教育業の一部などでは、既に夏頃から断続的なストライキが実施され、国民生活に影響が生じている状況にある(注4)。特に公共部門では、民間部門に比して賃金の上昇が限定的で、物価上昇の影響が大きいとみられる(6-8月期の名目賃金上昇率は2.4%、民間部門では6.8%)(図表5)。政府は7月、医療や教育、警察などの各部門に5%前後の賃上げを行うとの方針を示したが(注5)、多くの公共部門労組は実質賃金の減少になるとしてこれに反発しており、今後、看護師や研修医、あるいは教員などによる大規模なストライキの発生も予想されている。

図表5:民間部門および公共部門の賃金上昇率の推移 (単位:%)
画像:図表5
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出所:Office for National Statistics 'Labour market overview, UK: October 2022'新しいウィンドウ

参考資料

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