デジタル・プラットフォームで就労するドライバーや配達員の代表選挙

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

フランスの記事一覧

  • 国別労働トピック:2022年10月

食事配達のデリバルーなどデジタル・プラットフォームで就労する労働者の契約形態をめぐる裁判で、配達員を労働者として認める判決が相次いでいる。そのような中、デジタル・プラットフォームを介して就労する配達員やドライバーの労働条件を交渉する代表の選出選挙が2022年5月に初めて実施された。労働組合や各種団体が立候補し、労組系の組織が代表者に選出された一方で、投票率が2.5%という低さから選挙自体を問題視する声もきかれる。

2021年4月のオルドナンスに基づく選挙

デジタル・プラットフォームを利用して就労する労働者の代表者を選出する選挙が、2022年5月、雇用プラットフォーム規制庁(Arpe)の選挙管理の下で初めて実施された。この選挙は、モビリティ・プラットフォームの自営業者の集団代表制の確立を定めた2021年4月のオルドナンス(注1)に基づくもので(注2)デジタル・プラットフォームを利用して食事等の配達業務に従事している配達員やUberに代表される運転手付き運送自動車(VTC)のドライバーそれぞれの代表者を選出する選挙である。

ボルヌ労働大臣(当時)は2022年1月の省令(選挙の投票期間や立候補者の労組等に関するアレテ)(注3)を発出する際、この選挙を次のように位置付けている。プラットフォーム労働者代表を選出する選挙は、配達および配車サービスのプラットフォームにおける社会的対話の構築において前例のない前進であり、この選挙によって代表者が選出され、関係するドライバーや配達員は、就労にまつわる健康、報酬、さらには専門的な訓練の受講などの労働条件について交渉できるようになると位置づけている(注4)

ドライバーの代表として7つ、配達員の代表として9つの労組等が立候補

配達員の代表者を選出する選挙には9つの団体や労働組合が立候補し、ドライバーの代表選挙には7つの労働組合が立候補した。その一方で、立候補を見送る団体や労組もあった(注5)。ただし、パリの配達員集団であるClap(Collectif des livreurs autonomes de plates-formes)、民間ドライバーの労働組合であるSCP-VTC(Syndicat des chauffeurs privés de VTC)、横断的労組であるVTC INV(Intersyndicale nationale VTC)など、デジタル・プラットフォームの部門で顕著な存在感を示していた組織は今回の代表選挙への参加を見送った。Clapは、今回の代表選挙は政府が主導する社会的対話であり、そうした選挙によって生み出される社会対話には何ら期待できないとしている。

立候補した団体・労働組合が、交渉の席に代表者を選出するためには、少なくとも5%(次回以降は8%)の得票率を獲得する必要があり、代表権が得られればそれぞれの組織が3人の代表者を選出できる。任期は2年とされている(注6)

有権者は、(1)VTCのドライバーの自営業者、あるいは二輪・三輪車(電動機付きか否かに関わらず)によって商品を配達する自営業者として選挙人名簿に登録されていること、(2)2021年7月から 2021年12月までの間に、デジタル・プラットフォームを介して、少なくとも 3カ月間に5回以上のサービス提供を行った者とされており、国籍を問わないとしている(注7)

投票結果

配達員の代表選出選挙では、FNAE(全国自動車起業家連盟)(得票率28.45%)、労働総同盟(CGT)(同27.2%)、Union-indépendants(仏民主労働総同盟(CFDT)系) (同22.32 %)、Fédération SUD commerces et Services(連帯統一民主労働組合系) (同5.69%)の4団体・労働組合の得票率が5%を超え、交渉の席に代表者を送ることが決まった(注8)。それに対して、FNTR(全国道路運送組合連合会))、Unsa(全国自治組合連合)、FO(労働者の力)、CNT-SO(Confédération nationale des travailleurs - Solidarité ouvrière (全国労働組合総連合 - 労働者連帯))、仏キリスト教労働者同盟(CFTC)の5団体・労働組合は、得票率が5%に満たなかった(図表参照)。

VTCドライバーの代表選出選挙では、立候補した7つの団体・労働組合全てが5%以上の得票を得た。その中でも、association des VTC de France(フランスVTC協会)が42.81%の票を獲得し、2位以下のUnion-indépendants(自営業者を代表する労働組合)(得票率11.51%)、Acil(Association des chauffeurs indépendants lyonnais(リヨン独立系ドライバー協会)) (同11.44%)、FO(同9.19%)、FNAE(同8.98%)、CFTC(同8.84%)、Unsa(同7.23%)を大きく引き離した(注9)

図表:各労組・団体の得票率(5%以上) (単位:%)
配達員 ドライバー
FNAE 28.45 association des VTC de France 42.81
CGT 27.28 Union-indépendants 11.51
CFDT系の)Union-indépendants 22.32 Acil 11.44
Fédération SUD commerces et Services 5.69 FO 9.19
FNTR - FNAE 8.98
Unsa - CFTC 8.84
FO - Unsa 7.23
CNT-SO -
CFTC -

極めて低い投票率

5月9日から16日にかけて電子投票が行われた選挙の投票率は、Arpeによると配達員が1.83%、ドライバーが3.91%と極めて低いものだった。配達員の有権者は8万4,243人、ドライバーの有権者が3万9,314人に対して、投票したのは合計で3,088人だけだった(注10)。つまり、配達員の投票で1位を獲得したFNAEでさえ1,547 票中390票を獲得したに過ぎない(注11)

選挙管理組織のArpeは、低い投票率は残念な結果だが、選挙そのものの有効性には影響はないとの立場を取っており、この選挙結果を受けてデジタル・プラットフォームの就労者の労働条件を交渉する場が約束されたことを歓迎する姿勢を示した(注12)

投票率が低かった要因として、電子投票を挙げる見方もある。労働者は電子メールで投票に必要な情報を受け取り、投票のためのサイトへ接続し、個人情報を入力するかたちで投票した。個人情報には本人確認として、配達員は銀行口座の下5桁、VTCは職業登録ナンバーを入力するという手続きが必要だった。Arpeによると配達員は複数の銀行口座を持っていることが多く、しばしば口座番号を変更するため、個人情報の入力事項が明らかに投票への障害となり得たとの見解を明らかにしている。

選挙の有効性を問題視する労組も

ドライバーの代表に選出されたAssociation des VTC de Franceは、得票率でトップに立った選挙結果に満足しているが、複雑な投票方法は改善の余地があるとしている(注13)。労働総同盟(CGT)も、配達員の投票で第2位を獲得したが、この選挙に対して否定的な反応を示している。投票用紙が配布されなかったケースが多く見られたり、電子投票システムの不具合が散見された上に、未成年者や不法滞在者などの参加も認められなかったことがVTCの代表選挙の投票率が2%にも満たなかったことに影響しているという見解を示した。今回の選挙は成功からは程遠いと評価している。5%獲得できなかった労働組合CNT-SOは、有権者に投票用紙が届いていないケースが散見されることを踏まえて、パリの司法裁判所に対して、この選挙の無効を求めて提訴することを決定している(注14)

その後、9月13日の官報に掲載された2つのアレテにおいてデジタル・プラットフォームで就労するドライバーと配達員の全国レベルの代表が公式に決定した(注15)。今後、最低報酬額など労働条件の交渉が始まるとみられている。なお、代表者として活動することを理由に、デジタル・プラットフォームが業務に関する契約を打ち切ることは違法とされている。

(ウェブサイト最終閲覧:2022年10月14日)

2022年10月 フランスの記事一覧

関連情報