QuBeによる職業需給予測を発表
 ―技能労働者の確保が課題に

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  • 国別労働トピック:2022年9月

連邦労働社会省は8月29日、「職業と資格の将来予測(QuBe)」プロジェクトを通じた今後5年間の職業需給に関する中期予測を発表した。それによると、今後は団塊世代が次々と定年退職を迎える中、他の要素も相俟って技能労働者の確保がますます困難になることが指摘されている。以下に主な概要を紹介する。

QuBeプロジェクト

「職業と資格の将来予測(QuBe ; Qualifikation und Beruf in der Zukunft)」は、連邦労働社会省(BMAS)の委託により、ドイツ労働市場・職業研究所(IAB)と連邦教育訓練研究所(BIBB)が、ドイツ経済構造研究所(GWS)等の協力を得て定期的に実施している。ビッグデータやAIを用いて、将来的な職業や資格に関する需給予測を行うことで、適切な労働政策の立案に寄与することを目的としている。

QuBeには、15年から20年先を見据えた「長期予測」と、5年先を見据えた「中期予測」があり、今回発表されたのは後者である。

予測に際しては、これまでの人口動態の変化やデジタル化の進展に加えて、新型コロナウイルス危機、ロシアによるウクライナ侵攻、エネルギー転換や金利の上昇が与える影響など最新の要因が広く加味された。

不足職種と余剰職種

分析には、職業分類2010(KldB 2010)の140の職業分類が用いられ、特別な指標に基づく42の職業分野を「重点分野」として特定。今回はそのうち36を中期的に人材確保に困難をきたすボトルネック職業として提示している(表1)。

今後2022年から2026年にかけて人材確保の点でボトルネックとなる職業は、デジタル化の進展や少子高齢化によって労働需要が大きく拡大している職種(IT、教育、医療分野など)や、後継者不足が深刻化している技能職種(金属加工分野、電気工学分野など)で、このほかに新型コロナウイルス危機からの需要回復により、ホテル分野でも強い人材需要が起こると予測している。また、IT技術者、板金工や配管工などの職人や、エネルギー関連の技術者など、技能労働者不足がとりわけ懸念されているのは、男性比率の高い職種であることも指摘。さらに、エコロジカル変革(注1)等の影響により、建設分野の職種でも、長期的に技能労働者が不足し続けると予測している。

表1:今後ボトルネックとなる36の職業分野
職業分野
構造エンジニア(Hochbau)
ITシステム分析、顧客コンサル、IT流通(IT-Systemanalyse, Anwenderberatung, IT-Vertrieb)
ITネットワーク、管理、調整(IT-Netzwerkt.,-Koord.,-Administr.,-Organisation)
医学・歯学(Human- und Zahnmedizin)
建設計画・監督、建築(Bauplanung und -überwachung, Architektur)
乾式壁、断熱、ガラス、ローラーシャッターの工事(Aus-,Trockenbau, Isolierung, Zimmerei, Glaserei, Rolladenbau)
配管、空調(暖房・冷房)技術(Klempnerei, Sanitär, Heizung, Klimatechnik)
エネルギー技術(Energietechnik)
プラスチック、ゴムの製造・加工(Kunststoff, Kautschukherstellung, verarbeitung)
機械エンジニア・経営エンジニア(Maschinenbau- und Betriebstechnik)
技術研究開発(Technische Forschung und Entwicklung)
ソフトウェア開発・プログラミング(Softwareentwicklung und Programmierung)
防災、労働安全担当(Objekt-, Personen-, Brandschutz, Arbeitssicherheit)
技術製図、組立て、模型製作(Techn. Zeichnen, Konstruktion, Modellbau)
木工・木材加工(Holzbe- und -verarbeitung)
金属加工・溶接技術(Metallbau und Schweißtechnik)
ホテル業(Hotellerie)
電気エンジニア(Elektrotechnik)
教員(一般学校)(Lehrtätigkeit an allgemeinbildenden Schulen)
高齢者介護(Altenpflege)
障害者教育、社会福祉(Erziehung, Sozialarbeit, Heilerziehungspflege)
教員(学校外教育)(Lehrtätigkeit außerschulische Bildungseinrichtungen)
建築サービスエンジニア(Gebäudetechnik)
医療、看護、救急、産科(Gesundheits, Krankenpflege, Rettungsdienst, Geburtshilfe)
セラピー(非医療)(Nicht ärztliche Therapie und Heilkunde)
床の施工(Bodenverlegung)
物理学(Physik)
観光・スポーツ(Tourismus und Sport)
旅客輸送乗務員(Servicekräfte im Personenverkehr)
心理士、カウンセラー(非医療)(Psychologie, nichtärztl. Psychotherapie)
スポーツ指導(学校外教育)(Fahr-, Sportunterricht außerschul. Bildungseinricht)
鉄道輸送の運転(Fahrzeugführung im Eisenbahnverkehr)
葬儀サービス(Bestattungswesen)
広報(Öffentlichkeitsarbeit)
エンターテイメント・司会(Moderation und Unterhaltung)
鉄道・航空・船舶交通の技術的運用(Technischer Betrieb Eisenbahn, Luft-, Schiffsverkehr)

出所:Forschungsbericht 602 (2022).

他方、今後5年間で人材が余剰すると予測されたのは、表2の通り、6つの職業分野である。

デジタル化の進展により、「印刷、加工、製本」関連の職業は、人材が余剰になることが指摘されている。同様にデジタル化によるオンライン商取引の増加で、「商取引」分野でも雇用減少を予測。また、「言語学、文学」分野では、同分野の職業資格を取得予定の学生数が多い反面、対応する雇用数が少ないことを余剰要因として挙げている。さらに、「大学における教育・研究活動」分野は、年間労働時間がドイツ平均より短く、男女分布が比較的均等で人気が高い職業であるが、今後は需要に対して供給が上回ると予測している。

表2:今後、人材余剰となる6の職業分野
職業分野
商取引(Handel)
大学における教育・研究活動(Lehr-, Forschungstätigkeit an Hochschulen)
印刷、加工、製本(Drucktechnik,-weiterverarbeitung, Buchbinderei)
交通インフラの保守、監督(Überwachung, Wartung Verkehrsinfrastruktur)
鉱業、発破技術(Berg-, Tagebau und Sprengtechnik)
言語学、文学(Sprach-, Literaturwissenschaften)

出所:Forschungsbericht 602 (2022).

このほか、経済や労働市場全体としては、コロナ危機などの影響により苦しむ部分はあるものの、概ね2022年から2023年にかけて、コロナ前の2019年の水準に再び回復し、それ以降は回復基調が続くと予測している。

表3:主な経済・労働指標予測(2021-2026年)
  2021年 2022年 2023年 2024年 2025年 2026年
総人口(百万人) 83.20 83.98 84.18 84.28 84.36 84.40
就業者数(百万人) 44.81 45.30 45.36 45.48 45.48 45.56
失業率(%) 3.2 2.9 2.8 2.6 2.7 2.5
年間労働時間 1306 1311 1323 1321 1321 1322
実質賃金の推移(%) -1.9 -1.5 2.0 2.0 3.2 2.3
国内総生産成長率(%) 2.9 1.8 2.0 1.7 1.7 1.5
合計特殊出生率            
①ドイツ人
②ドイツ人以外
①1.43
②1.97
①1.45
②1.96
①1.46
②1.95
①1.48
②1.95
①1.49
②1.94
①1.50
②1.94
年齢中央値(歳)            
①女性
②男性
①47.58
②44.09
①47.18
②43.86
①47.06
②43.78
①47.00
②43.77
①46.95
②43.77
①46.93
②43.78

出所:Forschungsbericht 602 (2022).

三省共催による政労使「技能労働者サミット」

QuBeによる中期予測発表後、連邦労働社会省(BMAS)、連邦教育研究省(BMBF)、連邦経済エネルギー省(BMWi)の三省は9月7日、「技能労働者サミット(Fachkräftegipfel)」を共催した。サミットには、経済界や使用者団体、労働組合、政府関係者ら政労使が参加し、増加する技能労働者不足に対処するための諸政策について話し合った。主な議題は、「教育訓練の現代化」、「焦点を絞った継続訓練政策」、「潜在能力の顕在化と労働人口の増加政策」、「仕事の質の向上と企業風土の改善」「外国人労働者の資格認定と受入制度の改善」などである。

政府は今後、QuBe予測やサミットにおける議論などを踏まえて、「技能労働者戦略(Fachkräftestrategie)」を秋ごろ策定するとしている。

参考資料

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