法定最賃(SMIC)、22年3回目の引き上げ
 ―インフレに伴う自動引き上げ

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2022年8月

法定最低賃金(SMIC)(注1)が8月1日に時給11.07ユーロへ引き上げられた。21年半ば以降急激な物価上昇が続いており、5月1日に続いて、3カ月で更なる引き上げとなった。SMICの急激な引き上げに産業別協約の改定が追いつかず、各産業の協約が定める最低賃金がSMICを下回る産業が増えており、今回の引き上げによって9割に達するという分析もある。

1年足らずで4回目の引き上げ

フランスの法定最低賃金(SMIC)は、消費者物価(タバコを除く)が前回の最賃引き上げ時から2%以上上昇した場合に自動的に改定することになっている(労働法典L. 3231-5条)。前回、5月1日に引き上げが実施されたが、その基準となった2022年3月以降、6月までに間に物価上昇率が2%に達したため(注2)、8月1日に従来の時給10.85ユーロ(現金給与総額ベース)から11.07ユーロ(同)に引き上げられた(率にして2.01%の引き上げ)(注3)。フルタイム(週35時間)換算で月額1,645.58ユーロ(同)から1,678.95ユーロへの引き上げとなる(注4)。税・社会保障費差し引き後の手取りでは時給8.58ユーロから8.76ユーロ、月額で1,302.64ユーロから1,329.06ユーロへの引き上げとなる(注5)

2007年以降の最賃額(現金給与総額ベース)と引き上げ率の推移を示したのが図表1である。2012年以降2020年までは1月1日の年に1回の定例の引き上げのみだったが、2021年以降、物価上昇に伴う引き上げが行われており、1年足らずで4回目の引き上げ、2022年に入って3回目の引き上げとなる。

図表1:最賃額(時給)と引上げ割合の推移(2007年~2022年)
画像:図表1

出所:政府発表資料より作成。

注:08年5月、11年12月、12年7月、21年10月、22年5月以外は定例の引き上げ。定例の引き上げは2009年までは7月1日、2010年以降は1月1日。

2021年半ば以降にインフレ高進

SMIC引き上げの基準となっている消費者物価は、2021年半ば以降に急激に上昇している。国立統計経済研究所(INSEE)が7月29日に発表した消費者物価に関する速報によると、7月のインフレ率(速報値)は前年比で6.1%に達し、1958年以来の高水準となった(注6)。INSEEは、9月には前年比で6.8%まで上昇すると予測している(注7)。今回のSMIC引き上げの基準となった6月の物価上昇率は前年比で5.8%上昇だったが、エネルギー価格の上昇が前年比で33.1%(とりわけ石油製品の価格が急激に上がっており、ディーゼルエンジン燃料(軽油)が45.9%、ガソリンが35.9%上昇)、食品価格が5.8%上昇した影響が大きい(注8)図表2は、1991年1月から2022年7月までの物価上昇率の推移を示したものである(注9)

図表2:消費者物価上昇率(前年比)(1カ月ごと)の推移 (単位:%)
画像:図表2
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出所:INSEE資料(Indices des prix à la consommation)より作成。

法定最賃を下回る産業別最賃が約9割

急速なSMIC引き上げに伴って、産業別協約の最低賃金が法定最賃を下回るケースが増えている(「国別労働トピック:2022年6月『法定最賃(SMIC)を下回る産別最賃の引き上げ労使交渉』」参照)。5月1日のSMIC引き上げ直後の時点で、労働省が把握している従業員5,000 人以上をカバーする産業別協約171のうち、146の協約が定める賃金表の少なくとも一つの等級がSMICよりも低い額になっていた(注10)。その後の改定で7月1日の時点では112に減っていたが、今回の引き上げで新たにSMICを下回る協約が増える。

民主労働総同盟(CFDT)の推計によると、8月1日の引き上げによって171の約90%に相当する153の協約において最賃がSMICを下回るとしている(注11)。そうした産業の中には、賃金表の12等級がSMICを下回る協約があることも確認されている。下位等級の従業員でもSMIC以上は支払われるため、昇格して等級が上がっても、支払われる賃金は最賃額のまま変わらないという場合もある。こうした従業員にとって職階制や昇格の意義がないことにつながることを労組としては懸念している。

この問題に対して、デュソップ労相は7月初旬に労使団体との会合をもち、早急に労使で交渉し急速なインフレを踏まえた協約賃金の改定を促した(注12)。法律において、SMICよりも低い賃金額を協約で定める産業は、労使交渉を開始しなければならないと規定している(労働法典L2241-10)。折しも議会では購買力を強化するための法律が審議されており、その審議過程でSMICを下回る協約最賃を定める産業が労使交渉で合意に至らない場合には、その産業の協約を他の産業別協約に統合する措置も可能とする条項が検討されている(注13)

(ウェブサイト最終閲覧:2022年8月5日)

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