介護分野の外国人労働者受け入れに関する報告書

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2022年6月

移民政策に関する政府諮問機関のMAC(Migration Advisory Committee)は4月、介護労働者の受け入れに関する報告書をまとめた。介護労働者の不足への当座の対応として、受け入れ緩和を提言する一方、より根本的な課題の解決には、賃金水準の向上やこれに対応した予算の拡充が必要であるとしている。

EU離脱の影響を検討

報告書(注1)は、EU離脱に伴う欧州経済領域(EEA)との間の人の移動の自由の廃止により、介護業の人材調達等に生じうる影響や受け入れに関して採り得る対応について、政府が2021年7月に行った諮問(注2)を受けてMigration Advisory Committee(MAC)がまとめたもの。EU離脱後、EEAからの労働者の受け入れには域外と同等の技能水準や給与に関する基準が適用され、介護労働者については技能水準の要件を満たさないとして、従来のような受け入れが困難になった(注3)。介護業では、慢性的な人手不足に加えて、経済再開に伴う全般的な人手不足により、他業種への労働力の流出が進んだとみられ、不足状況の一層の深刻化が懸念されている。統計局によれば、介護業の求人数は2022年2-4月期で21万件と対前年で59%増加しており、同期における求人数全体の約6分の1を占める。

MACは報告書の公表に先んじて、既に昨年12月、介護労働者の受け入れを認めるべきとする中間報告をまとめている。労働力不足職種リストに記載して受け入れ要件を緩和する一方、リスト上の他の職種に適用される職種毎の実勢額(賃金統計における第25百分位)を用いた要件の緩和は行わず、通常(リスト掲載職種以外)の専門技術者向けの下限額である年2万5600ポンドに80%を乗じた年2万480ポンド(時間当たり10.10ポンド)を、下限とするよう提言した。政府はこれを了承し、同月、12カ月間の期限を設けて介護労働者を労働力不足職種リストに掲載した。

EU離脱の影響は限定的

ただし、報告書はEU離脱による介護業への影響自体は、そこまで大きくはないと捉えている。介護業におけるEEA労働者の比率は、2019年時点で6%に留まり、EEA外からの労働者の比率(17%)を下回るほか、多くは必ずしも介護労働者として受け入れられたわけではないとみられることを理由に挙げている。一方で、とりわけ経済再開以降の介護業における未充足率の高さや、他業種への転職などによる離職率の高さ、さらにこのところの賃金上昇により低賃金職種に対する賃金プレミアム(相対的な賃金水準の高さ)が消失していることなどから、人手の確保が困難さを増しており、結果として介護を必要とする人の生活に影響を及ぼし得ることに懸念を示している。

報告書は、本来の問題は公的介護サービスに関する不十分な予算措置にあり、外国人の受け入れによる短期的な労働力不足の緩和は、むしろ解決を先送りすることになるとしつつ、この点はMACの所管を超えるため、労働者受け入れの関連に限定して提言を行う、としている。一つは、受け入れ手続きやコストの軽減だ。これには、無駄な手続き負担の削減可能性の検討や、受け入れの際に課される技能負担金(注4)の廃止、また看護・介護ビザによる5年間の滞在後は、居住権取得に関する費用を減額(事務取扱の実費のみ)または免除することなどを含む。ただし、賃金水準に関する要件については、今後も専門技術者の受け入れと同等で維持すべきであるとしている(注5)

また、介護分野における人手不足の問題は、長期化が想定されるため、受け入れ緩和措置も短期的な期限を設けるべきではないとして、労働力不足職種リストへの記載についても、1年に限定するのではなく、次回のリストの見直しまで残すことを提言している。

一方で、受け入れに関する管理手法として、介護サービスを提供する派遣事業者を通じた問題改善の可能性を、所管省庁(保健介護省)やサービスの担い手である地域、地方自治体が協力して探るべきであるとしている。また、現在普及している、各家庭が介護労働者を直接雇用する手法を希望するサービス受容者については、季節労働者と同様に、管理団体による仲介の制度化も考えるべきであるとしている。

介護労働者向け最低賃金の設定を

一方で、人手不足のより本質的な改善策として報告書が提示するのは、賃金水準の引き上げだ。スコットランドやウェールズは、介護労働者の賃金水準の下限を最低賃金とは別途設定しており(注6)、イングランドでも同様に、公的介護サービスについては、必要な予算措置を行って賃金水準の下限を設定すべきであるとして、手始めに時間当たり10.50ポンドとすることを提言している。また、法律上は本来賃金支払いの対象とすべき顧客間の移動時間がしばしば支払いの対象になっていないことや、泊まり込み介護における待機時間(就寝時間等)が規制の対象外になっている(注7)ことも問題であるとして、移動にせよ待機時間にせよ、業務の関連で使用された時間は賃金の最低基準を適用することを求めている。

また、公的医療サービスと地方自治体による介護サービスの間での人材の奪い合いを避けるため、保健介護省や各地域の主導により、採用や人材の維持に関して協調をはかる必要がある、と報告書は述べている。

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