プラットフォーム労働の従事者を保護する労働協約

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  • 国別労働トピック:2022年6月

プラットフォームを通じた料理配送サービスを行うデリバルー社と全国都市一般労組(GMB)は、配送従事者に最低報酬の保証や団体交渉などを認める労働協約を締結した。法的には自営業者のまま、労働者に類似した一部の権利を保証する取り組みとして賛同の声がある一方、労働者としての法的地位を求めてきた労組などはこれに反発している。

稼働時間について最低賃金相当の報酬を保証

デリバルー社の配送従事者をめぐっては、これまで独立系労組IWGB(Independent Worker of Great Britain)が、労組としての承認を申請(注1)する形で、従事者を労働者とする法的地位を求めて争ってきた。しかし、同社が従事者との契約において、本人以外による業務の遂行を認めていることが法律上の労働者の定義に合致しないとされ、従事者は労働者ではないとする判断が続いていた(注2)

今回、デリバルー社とGMBが締結した労働協約(注3)は、配送従事者を自営業者としたまま、労働者に類似した一部の権利を保証するものだ。デリバルー社は、GMBを、配送従事者を代表する唯一の労組とみなして承認し、団体交渉や協議を目的とした合同パートナーシップ委員会を設置する。配送従事者には、配送業務に従事した時間につき最低賃金以上の最低報酬(併せて配送に要した費用を考慮)が保証され、団体交渉はこれを扱うことが主眼とみられる。また協議では、その他の福利厚生や安全衛生を含む事柄(注4)を扱うとされる。このほか、デリバルー社はGMBが組織化のために従事者に接触することを認め、また可能な範囲で、従事者を違法な差別や、GMBの組合員であること等による被害から保護することなどが盛り込まれている。協約は、9月以降の発効が予定されている。

ナショナルセンターのイギリス労働組合会議(TUC)は、傘下のGMBが協約締結により労組として承認を得たことを「歴史的」と賞賛、デリバルー社の配送従事者に止まらず、広くギグエコノミー従事者の条件向上につながるだろう、としている。一方、従来からデリバルー社の配送従事者の組織化やストライキの支援などを行ってきたIWGBは、協約締結は空虚で冷笑的なPRにすぎない、と批判している。組織化の実績がなく、同社の搾取的な慣行に何ら脅威とならないGMBとの協約締結により、IWGBの労組承認を阻む試みは、法制度をないがしろにするものであり、裁判を通じた権利の追及や、発言のための組織化、労働生活の改善の取り組みの弱体化を図っている、としている。

自営業者を対象とした協約の可能性

GMBは2019年にも、宅配事業者ヘルメス社(注5)との間で同種の労働協約を締結した実績がある。「自営業者プラス(('self-employed plus'))」という新たな制度により、最低報酬額や有給休暇の付与などを保証するもので、配送従事者は適用の有無を選択することができるが、適用を受ける場合は労働時間や業務効率に関する管理を受けることになる。GMBは、同制度の適用を受けた従事者を代表する労働組合として、ヘルメス社から承認を受けている。今回のデリバルー社との協約は、有給休暇や傷病休暇を対象としていないこと、協約の適用範囲を全ての従事者としている点などが異なる。ヘルメス社の配送従事者は、予め決まった受け持ち地域で定期的に業務に従事するが、デリバルー社の従事者には基本的にそうした時間的、地理的な管理をされていないことが影響しているとみられる。

ヘルメス社の「自営業者プラス」に関する調査を行ったサセックス大学の研究者などによる論文(注6)は、社会・雇用保護を雇用法ではなく契約が代替するこうした制度は、法定の労働者の権利に比してパッチワーク的になり、また法的な権利の保証がないため、合意内容に関する使用者側の一方的な変更や、労組承認の継続拒否等の可能性があることを指摘している(注7)。ただし、同社における実態としては、新型コロナウイルスへの対応という特殊な状況もあり、経営側と労組の双方で「プラス」の適用拡大が図られ、組織化が進んで、従事者の報酬や保護の改善効果がみられた、と報告されている。

参考資料

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