ユン・ソンニョル新政権の国政課題 労使が見解を表明

カテゴリー:雇用・失業問題労使関係

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  • 国別労働トピック:2022年6月

大統領職引継ぎ委員会が5月3日に発表したユン・ソンニョル新政権の「6大国政目標」とその下に策定された「110大国政課題」には、韓国を再び飛躍させるという意思が込められている。規制緩和を通じ民間企業の活力と創意を引き出し、その牽引力を期待する姿勢が表れている。また、各種の労働政策にも公正と自律を重視した新政権のビジョンが反映されている。この度発表されたユン政権の「110大国政課題」に関し、労使団体が各々の立場から見解を表明している。その一端を紹介する。

労働組合は不平等社会と二極化を懸念

ユン政権の「110大国政課題」に関し、韓国の2大労働組合のひとつである韓国全国民主労働組合総連盟(KCTU)は次のとおり見解を表明している(注1)

大統領選において公約していた労働問題の多くの課題が、国政課題から排除されてしまった。新型コロナウイルスの感染拡大により大きなダメージを被った中小企業への対応、労働者の生命・安全に直結した労働災害対策との関連、非正規職やプラットフォーム労働者の権利保障、国家の責任を放棄した介護サービスの民営化問題、女性の雇用拡大に向けた具体的な計画――といった問題が「民間が引っ張り、政府が後押しするダイナミックな経済」の名の下に置き去りにされており、露骨な規制緩和によって、国政の主導権は企業に手渡されてしまった。こうしたことは、社会の二極化を招くことになるであろう。そして不平等社会が定着、深化していくことになるであろう。110大国政課題は大きな危険をはらんでいるとKTUCは批判している。

2大労組のもう一方の韓国労働組合総連盟(FKTU)は国政課題に対し、次のような評価をしている(注2)

国政課題には「国が良くなっていくだけではなく、国民自身の生活の問題が改善されていくことが国民の要求である」と記されているように、新政府が国民の生活向上のために共に考えていこう、という姿勢を示していることについて、FKTUは一定の理解を示したうえで、労働分野においては「労働の価値が尊重される社会」を約束してはいるものの、掲げられている目標と現実には距離があるとし、新政府が追及する「労働の価値」についての具体的な説明が欠けている点も批判している。

また、経済政策については、KCTUと同様に、民間企業に対する規制緩和と税制優遇等の政策が不平等と二極化を招くおそれがあるとしている。そのため、賃金不平等の解消に向けた最低賃金引上げ等の政策が必要であるが、国政課題には成果中心の賃金体系の改編のみが盛り込まれており、今後の労働市場は深刻な葛藤状況に直面することになると懸念を示している。

経営者側は規制緩和を高く評価

一方、国政課題に対する経営者側の評価と期待は高い。韓国の経済5団体のうち、韓国経営者総協会と大韓商工会議所が公表している見解(注3)の概要を紹介する。

韓国経営者総協会は、公正な国政運営により、国の競争力を回復させ、国民の生活を改善していくという新政府の目標と国政運営の原則に対して共感の気持ちを表明するとともに、調和的で強力な指導力によって、国民を飛躍に導いていくことに期待を寄せている。

特に、グローバルスタンダードに適った規制緩和を断行し、労使関係の先進化のための法や制度を向上させ、韓国経済にダイナミズムをもたらし、企業にとって良い環境を構築していき、企業投資の促進、雇用創出、経済成長という好循環を起こしていくことを求めている。

大韓商工会議所は、新政府の経済政策と最近の経済状況に関して、国内企業322社を対象に調査を行い、その結果を公表している。概要は次のとおりである。

新政府の経済政策について、回答企業の72.7%が「期待する」と答え(「非常に期待する」7.5%、「期待する」65.2%)、「期待しない」は17.4%、「全く期待しない」は9.9%であった。期待する主な理由としては、「市場、民間重視の政策基調」(47.9%)、「規制改革の意思」(35.3%)が上位に挙げられた。また、新政府の経済政策が成功する要因として、企業は「未来のための投資、インフラ支援」(96.3%)、「規制の撤廃による企業イノベーションの誘導」(90.4%)、「労使間の葛藤の調整」(86.8%)、「民間企業による連携システムの整備」(82.2%)等を上位に挙げている(複数回答)。

現在、韓国内の企業の多くが、物価の上昇、ウォン安による為替レートの高騰、国際情勢によるサプライチェーンの混乱の3つのリスクに直面していると言われている。こうした中で、新政府の国政課題には「成長の原動力の回復」「物価の安定」が謳われているように、企業側としても「成長の原動力の回復」と「物価の安定」を3大リスク克服の鍵と考えている。特に中小、中堅企業は「物価の安定」を喫緊の課題と感じているところが多かった。

キム・ヒョンス大韓商工会議所経済政策室長は現在の韓国経済の状況について、「直面している危機を突破しなければならない100メートル競走と中長期的に成長の原動力を引上げていかなければならないマラソン競技を同時に走っている状況」と表現し、新政府に対して、それぞれの危機に合わせたあつらえ(オーダーメード)型の支援体系を構築し、将来の不確実性を最小限に留めると同時に、企業の足首をつかんでいる規制を外していくことに取組んで欲しいとコメントしている。

参考資料

  • 大統領職引継ぎ委員会ウェブサイト
  • 日本貿易振興機構(JETRO)ウェブサイト
  • 韓国全国民主労働組合総連盟(KCTU)ウェブサイト
  • 韓国労働組合総連盟(FKTU)ウェブサイト
  • 韓国経営者総協会ウェブサイト
  • 大韓商工会議所ウェブサイト
  • 聯合ニュース(日本語版)

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