コロナ禍で浮き彫りになった産業の空洞化
 ―製造業の国内回帰支援による雇用創出

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2022年6月

フランスでは1980年代に本格化した企業の生産拠点の海外移転によって、産業の空洞化や経済の輸入依存が問題となっていたが、コロナ禍において医療品や電子部品の不足が問題化し、対外依存が改めて浮き彫りになった。2020年9月に発表された経済活性化策(France Relance新しいウィンドウ)では、製造拠点の国内回帰による雇用創出策が盛り込まれたが、その効果が10万人の雇用創出という形で結実した。この成果に対する評価は時期尚早であるという指摘や製造業の雇用維持と拡大のためには、更なる対策が必要との声も聞かれる。

産業の空洞化による100万人の雇用喪失

工場などの生産拠点が国外移転し、産業の空洞化(désindustrialisation)が進んだため、フランスの製造業の雇用は1980年の510万人から、2012年の290万人弱にまで減少した(注1)。アニエス・パニエ=リュナシェ産業担当大臣によると、特に2000年から2016年までの間に100万人の国内雇用が失われたとされており(注2)、産業の空洞化によって貿易赤字が続き、その影響で外国への依存が強まり、更なる産業の空洞化に繋がった(注3)。マクロン政権の雇用対策によって、2017年から2019年にかけて約3万の雇用を再創出したが、新型コロナ感染拡大によって、マスクや人工呼吸器、医療器具、医薬品の有効成分など生産を外国に依存している問題が浮き彫りとなった。また、半導体などの電子部品の不足も深刻化し、自動車やスマートフォンの生産に影響が出るなど、経済のグローバル化による各国経済の相互依存に伴う国内生産体制の脆弱な一面を顕在化させた(注4)

782プロジェクトに対して54億ユーロ支援

政府は、新型コロナ感染拡大への対応として、2020年9月に経済活性化策(France Relance)を発表し、(1)環境・エネルギー転換、(2)企業の国際競争力強化とともに、(3)地域結束(雇用支援や格差是正、医療システムの改善強化を目指す)の3つの分野に対して、総計1000億ユーロを投じる計画を打ち出した。この中に、輸入依存を解消するため製造業に対する投資及び近代化支援事業を盛り込んだ。この事業は、経済・財政省の企業総局と政府系金融機関フランス投資銀行が、製造業における企業の投資計画を審査し、適切なものと評価された場合、補助金を支給するというものである。補助金の対象となるのは、特にフランス経済の成長を推進する中心分野である航空宇宙産業や自動車産業、原子力産業、農産物加工業、医療・健康、電子機器などのほか、雇用維持・創出、競争力強化が見込める部門である。プロジェクト単位の投資額は、少なくとも20万ユーロ(農産物加工業や健康、電子機器などの分野の場合、100万ユーロ以上)の計画が対象である(注5)

経済・財務省によると、2020年9月以降、政府は、製造業の海外生産拠点の戦略的な国内回帰及び事業所の近代化に関する782のプロジェクトに対して、16億ユーロの補助金を支出した(2022年2月17日発表時点)。民間企業などが投資した38億ユーロを含めると、製造業に対する投資及び近代化支援事業の枠組みの中で、合計54億ユーロが投じられたことになる(注6)

主な助成対象は中小企業やスタートアップ企業

産業部門別にみると、例えば農産物加工業の97事業に対して1.32億ユーロ、医療・健康分野の187事業(そのうち、42は医薬品の有効成分の製造する拠点を海外からフランス国内へ回帰するための事業)に対して8.29億ユーロの補助金が支出された。また、電子部門では107事業に対して1.41億ユーロ、金属・化学・リサイクルなどに関連する製造業には120以上の事業に対して3.17億ユーロ、また、第5世代移動通信システム5G関連では、0.98億ユーロの補助金を支出した(注7)。助成対象の多くは中小企業やスタートアップ企業で、フランス領ギアナにおいて初となる製粉会社を設立し約20人の雇用を創出する計画であったり、フランス南部イゼール県のサルモネラ菌やリステリア菌を検出する食品産業向けDNA抽出チップを開発する企業における26人を雇用する計画などに対する支援だが、鉄鋼業のアルセロール・ミタルのような大企業の事業所の近代化事業も対象となった(注8)

10万人の雇用が創出あるいは安定化

政府は、この製造業の国内回帰及び事業所の近代化促進策で、10万人の雇用が「創出(créés)」または「安定化(confortés)」したとしている。この10万人という人数に関して、経済・財政省は、「創出された雇用者数」と「安定化した雇用者数」を区別はしていない。ただし、雇用及び投資に関する情報収集・提供を行っている民間調査機関のトレンデオは、創出された雇用数は2万人、安定化した雇用が8万人と推定している(注9)

今回のプロジェクトによる製造業における投資拡大による雇用創出効果について、パニエ=リュナシェ産業担当大臣は、マクロン政権下で2017年に始められた野心的な政策実現の成果であると高く評価し(注9参照)、製造業の国内回帰及び事業所の近代化のための支援の規模は、サルコジ政権下の2008年から2011年の間と比べて7倍であるとしている(注10)。また、マクロン政権の4年間で、フランスにおける製造業の衰退を止めることが出来たが、今後は低迷した製造業のGDPに占める割合を拡大していくこと課題となる(注11)。とりわけ、製造ラインの自動化やデジタル化を促進するために解決すべき問題が山積しているという(注8参照)。

雇用創出効果に対する慎重な見方も

雇用創出の効果について、評価するのは時期尚早であるという指摘もある。製造業の業界団体であるFrance Industrieのアレクサンドル・ソボ会長は、2021年夏以降、製造業の雇用喪失が止まったことは重要なことであると述べるに止まっている(注9参照)。また、民間調査機関のトレンデオのダビッド・コスキ社長によると、製造業の雇用創出策は、既存の生産拠点の移転だけでは十分ではなく、新製品の開発に対する投資の方が効果的であり、生産拠点の移転とともにイノベーションを引き起こす政策が重要になってくる。今回の生産拠点国内回帰による雇用創出の効果は、雇用喪失がピークに達した2009年に製造業で失われた雇用のわずか8%程度であり、2021年に再創出された製造業の雇用のうち4%程度を占めるに過ぎないと分析し、新しい生産拠点に対する投資が促進され製造業の雇用創出といった産業形態の再構築が必要だと指摘した。

民間シンクタンクのレックスコード研究所の調査報告書によると、フランスの国際競争力の低下が危惧されており、フランスの競争力は2021年に再び悪化し、その観点から相対的な産業空洞化が進むと指摘している(注12)。ユーロ圏からの輸出に占めるフランスの比率は、2000年の18%から2021年には12.6%に低下したが、これは憂慮すべきものだと指摘する。この報告書によると、20業種ほどの調査対象の製造業のうち、2019年から2021年にかけて輸出が拡大したのは、高級革製品、動物性・植物性油、ワイン・アルコールのみであり、近年、ユーロ圏の製造業が生み出した付加価値に占めるフランスの比率は低下し続けており、2000年の17.9%から2019年には14.7%、2021年には13.9%になった。つまり、輸出競争力の低下と製造業の衰退は並行して起こっていると指摘している。その上で、報告書は今回政府が行なった経済活性化策の効果があがったのは、補助金の対象となる企業が適切であったからであり、補助金が持続可能な効果を生み出すために、充分に採算の合う事業に拠出されているかが鍵を握るとしている(注13)

(ウェブサイト最終閲覧:2022年6月14日)

参考レート

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