ミニジョブの雇用代替効果
 ―IAB分析

カテゴリー:労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2022年5月

ドイツ固有の雇用形態であるミニジョブは、労働市場の評価が分かれている。連邦雇用エージェンシー付属の労働市場・職業研究所(IAB)の分析によると、ミニジョブは50万以上の通常雇用(社会保険加入義務のある雇用)を締め出す雇用代替効果があることが判明した。また、創設時の意図に反して、ミニジョブ労働者が通常雇用へステップアップする事例は殆ど無かった。以下に分析の概要を紹介する。

1. ミニジョブとは

ミニジョブ(僅少労働)は、パートタイム雇用の一種で、雇用機会の拡大を目的に導入された。煩雑な手続きをせずに気軽に働くことができ、平均月収が450ユーロ以下の場合、社会保険料や所得税などの労働者負担が免除される(注1)。ただし、使用者負担は免除されず、労働者に対する賃金に加えてその3割相当を別途支払う義務がある。

労働者は手取り賃金が目減りせず、人気が高い働き方だが、「ミニジョブは、特に女性にとって、貧困高齢者という末路をたどる労働市場政策上の袋小路だ」との問題点が従前から指摘されていた。これに対処するため、2013年からはミニジョブ労働者も年金保険への加入が原則として義務付けられた。しかし、労働者自身が使用者に文書で適用除外を申請すると免除される特例があり、加入割合は現状それほど伸びていない。

なお、ミニジョブの月収上限を超えると、急激に社会保険料負担が重くなるため、それを緩和する月収1,300ユーロまでのミディジョブという制度も設けられている。

2. 分かれる評価

ミニジョブ労働者は賃金を控除なく受け取ることができるが、使用者は賃金の3割相当を別途負担する。つまり、通常雇用において労使が負担するはずの公租公課(注2)の合計額よりもミニジョブのそれは明らかに低い。この文脈で、ミニジョブは『助成を受けた雇用形態の1つ』とも言える。こうした制度設計も含めて、労働市場の評価は分かれている。

肯定的な評価は「特に失業者にとって労働参加がしやすく、通常雇用への架け橋にもなり得る」というものだ。これに対して、否定的な評価は「ミニジョブこそが働きたい者を一種の“罠”に陥らせ、雇用上のステップアップを容易にするどころか逆に難しくする」というものだ。反対者はさらに、使用者がミニジョブを景気の調整弁として利用し、通常雇用の代替にしているのではないかとの懸念を提示する。実際に、2020年のコロナ危機の時に使用者が真っ先に解雇したのがミニジョブ労働者である。

3. 小企業に偏在

ドイツには現在、数百万人規模のミニジョブ労働者がいる。その数は、2003年に急増した。これは、労働市場改革(ハルツ改革)(注3)によって、『副業』として(通常雇用の業務にプラスして)ミニジョブで働くことが可能になったためである。

2019年には700万人以上が、本業または副業としてミニジョブに従事していたが、コロナ危機の2020年には、600万人近くにまで急減した(図表1)。

図表1:コロナ禍における労働者数の推移(2019年3月~2020年6月)
画像:図表1

  • 出所:DIW(2020).

これには、ミニジョブが、雇用維持政策の主柱である「操業短縮手当(KuG) 」(注4)の保護対象外であったことも関係する。

また、ミニジョブは多くの企業で利用されているが、特に小規模企業における利用が多い。例えば2014年には、小企業の従業員の40%がミニジョブとして働いていた。他方、大企業におけるその割合は10%にすぎなかった。労働者側から見ると、ミニジョブ全体の36%が小企業で働いていた。

4. 使用者負担の引上げに利用抑制効果

IABではこのほど1999年から2014年までの事業所パネル調査(注5)を用いて分析を行った。特に、各企業のミニジョブ労働者数の変化が、同一企業の通常雇用労働者数にどのような影響を及ぼすかを分析した。好景気等のバイアスを避けるため、1999年から2013年までの間に行われた4回の制度改正(使用者の負担率引上げ)が利用された(図表2)。

図表2:ミニジョブに関する法改正(1999年~2013年) 
制度の変遷(発効日) 賃金月額の上限
(ユーロ)
労働時間の上限
(週当たり時間数)
使用者負担率
(%)
1999年4月1日 325 最長15 22
2003年4月1日 400 制限なし 25
2006年7月1日 400 制限なし 30
2013年1月1日 450 制限なし 30
  • 出所:IAB(2021)

この使用者の負担引き上げは、企業のミニジョブ労働者を減少させた。ここで注目されるのは、「同時に、通常雇用労働者数にも影響があったか」という点である。通常雇用労働者数と労働量を評価し、その結果、特に従業員数9人以下の小規模企業が制度改正に反応を示し、実際にミニジョブ労働者数を減らしたり、採用を控えたりしたことが明らかになった。その上で、こうした反応を示した企業のみを抽出して、同期間中のバイアスを取り除き、更なる詳細分析をしたところ、「ミニジョブは通常雇用の規模を縮小する」という結果が得られた。別の結論を述べると、「もしミニジョブに対する使用者の租税公課負担が引き上げられなかったら、ミニジョブ労働者はもっと増加した」ということも言える。

なお、小企業においてミニジョブが増加した場合、平均で約半数の通常雇用ポストが代替されていた(分析では、社会保険加入義務のあるパートタイムとフルタイムを区別していない)。つまり、ミニジョブと通常雇用の2つの雇用形態は補完関係ではなく、ミニジョブが通常雇用を締め出す関係になっており、推計で小企業においてミニジョブは少なくとも50万以上の通常雇用を代替した可能性がある。

5. 社会保険料の収入損失は30億ユーロ超

IABの見解 (2021年2月発表、(注6))によると、ミニジョブ制度の導入時に意図された効果―通常雇用への橋渡し効果―は期待よりも小さい。ミニジョブ労働者は往々にして低賃金層に属したままであることが多く、自身の保有資格水準を下回る労働環境下にあることが多い。例えば本来付与されるべき有給休暇などを実際には利用できず、その上、年金受給対象になるのは、本人が追加的な年金保険料を納付する場合に限られる。

さらに、ミニジョブは、こうした労働者本人が被る不利益のみならず、ドイツの社会保険制度における収入損失も引き起こす。通常雇用の場合、労使が負担する社会保険料の合計は、総賃金の約40%に上る。しかし、ミニジョブの場合、労働者が任意で年金保険料を納めなければ(それをする人はかなり少数に留まる)、28%である(注7)。この12ポイントの差とミニジョブの平均的な月収が300ユーロであることを踏まえると、社会保険料収入の損失は2014年だけで年間最大30.2億ユーロに及ぶ。

6. 新政権による今後の方針

昨年12月8日に誕生したショルツ新政権は、その前日に成立した三党連立協定(社会民主党、緑の党、自由民主党)の中で、今後ミニジョブやミディジョブ制度を改善する方針を示している。将来的にミニジョブの月収上限は、最低賃金の引上げに即して、週10時間という基礎時間を設け、月450ユーロから520ユーロに、ミディジョブは同1,300ユーロから1,600ユーロに引上げる方針である。同時に、ミニジョブが通常雇用の代替として濫用されたり、女性がミニジョブの罠に陥ることを阻止した上で、ミニジョブ労働者に対する労働法遵守に関する取り締まりを強化するとしている。

参考資料

参考レート

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