2023年までコロナ危機前の水準に戻らず
―ILO世界の雇用及び社会の見通し2022
ILOは1月17日、定期刊行物『世界の雇用及び社会の見通し ―動向編(World employment and social outlook (WESO) – Trends)』の2022年版を発表した。報告書では、ILOの回復の見通しは前回よりも下方修正された
また、パンデミック前後で臨時雇用に大規模な失業と雇用創出が生じた現象を分析し、コロナによる雇用への打撃を臨時雇用が軽減したことを指摘。その上で、臨時雇用の幅広い使用は、常用雇用や長期的な生産性の悪影響につながる恐れがあるとの警告を発している。以下で主な内容を紹介する。
回復の見通しを下方修正
ILOは、2022年の世界の総労働時間はパンデミック以前の水準を約2%下回ると予測しており、この不足分はフルタイム(週48時間)換算で5200万人分にあたる。この予測は、前回から大幅に悪化した。ILOは昨年6月発表の『世界の雇用及び社会の見通し 2021』で、2022年の労働時間の減少は2019年第4四半期と比較して1%未満に収まると予測していた。
このほか、2019年から2020年にかけて2%近く低下した世界の労働力参加率は、2022年には2019年よりも約1%低い59.3%まで回復すると予測している。また、失業率は2019年よりも高い状態が2023年まで続く見込みである(図表1)。
失業者数は、2021年から2022年までの間に700万人減少し、2億700万人になると予測されている(2019年の失業者数は1億8600万人)。人口における就業の割合、人口における週総労働時間、労働力参加率が2019年の水準を下回る状態は2023年まで続くと予測されている。
2019 | 2020 | 2021 | 2022 (予測) |
2023 (予測) |
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人口(15~64歳)における週総労働時間 | 27.5 | 25.1 | 26.3 | 27.0 | 27.2 |
人口(15歳以上)における就業の割合 | 57.3 | 54.8 | 55.4 | 55.8 | 56.0 |
失業率(15歳以上) | 5.4 | 6.6 | 6.2 | 5.9 | 5.7 |
労働力参加率(15歳以上) | 60.5 | 58.6 | 59.0 | 59.3 | 59.4 |
出所:ILO (2022)
パンデミックによって生じたリスク
世界の新型コロナウイルス感染症危機からの回復は不均衡かつ不安定に進んでおり、パンデミックの混乱などによって新たなリスクが生じている。
多くの途上国のインフォーマル企業はフォーマルな政府の支援にアクセスしづらいため、政策措置の効果が十分に発揮されず、各国内の支援を必要とする人たちに届いていない。また、労働集約的な産業(農林水産業や流通・サービス業など)に依存する途上国では、パンデミックによる需要の変化への対応に苦しんでいる。
失業と労働時間の短縮は収入の喪失や減少につながり、収入を安定させるだけの包括的な社会的保護システムがない途上国では、すでに脆弱だった世帯が打撃を受けた。最新の推計では、2020年にはさらに3000万人の成人が有給の仕事をしていない間に極めて貧困な状態(1日あたりの購買力平価1.9USドル未満で生活)に陥ったとみられる。
2021年の労働市場の回復は不均衡で停滞していた。そのため世界の労働所得は制限され、さらに需要が押し下げられる悪循環が生じている。
雇用危機を軽減した臨時雇用だが、ILOは広範な利用に懸念
コロナ危機では、臨時雇用が雇用への打撃を軽減していた。臨時雇用とは、有期または短期の給与・賃金労働を指す。臨時雇用は採用と解雇が比較的容易な雇用形態であり、企業は臨時雇用を利用すれば需要に応じて労働力の供給を調整できる。臨時労働者のインフォーマル就業(法的枠組みで保護されていない、雇用関連や社会的な保護を十分に受けていない就業者)である割合は常用雇用よりも大幅に高い。
パンデミック以前、臨時雇用の割合は年々増加していた。臨時雇用の割合は低・中所得国で高く、臨時雇用が全ての就業の3分の1以上を占める。一方、高所得国では15%に留まる。
臨時雇用の性質は先進国と発展途上国で一部異なる。先進国では、臨時雇用は常用雇用への足がかりや、労働進入のための戦略的な措置として使われることもあるが、雇用の安全や賃金、社会的保護へのアクセスなどは常用雇用よりも不十分である。発展途上国の場合、臨時雇用はしばしばインフォーマル就業であり、社会的保護システムや雇用の保護へのアクセスはほとんどない。
パンデミック以降の雇用者における臨時雇用の割合は比較的安定しており、2019年の臨時労働者の割合は2020年、2021年と比べて大きな変化がなかった。これは、臨時労働者の失業を新たに創出された雇用が相殺したためである。
コロナ危機では、臨時労働者はそれ以外の雇用者よりも早期(2020年第2四半期)に大幅に失業した。例えばアルゼンチンでは、2020年第2四半期には、2020年第1四半期時点で臨時労働者だった者のうち42%が失業していた(臨時雇用以外の労働者は17%)。
データが利用可能だった5カ国(アルゼンチン、ブラジル、コスタリカ、メキシコ、南アフリカ)のデータを年間で比較すると、2020年第1四半期時点で臨時労働者だった人のうち、1年後の2021年第1四半期も臨時労働者であった人は約32%にすぎなかった(図表2)。
図表2:2020年第1四半期の臨時雇用労働者の1年後の移動先 (単位:%)
- 注:5カ国(アルゼンチン、ブラジル、コスタリカ、メキシコ、南アフリカ)の単純平均。各国の臨時雇用率はメキシコのみ世界平均より高く、それ以外の国は世界平均をわずかに下回る。
- 出所:ILO (2022)
以上のように臨時雇用は大幅に減少したが、新たに創出され増加もした。2021年第1四半期の臨時労働者のうち、4分の1以上が以前は臨時雇用以外の雇用者(常用雇用かその他の雇用者)であった。利用可能な5カ国のデータでは、2021年第1四半期の臨時労働者のうち前年同期に失業していた人の割合は約28%であった(図表3)。つまり、臨時雇用は失業者に対して重大な就業の機会を提供していたことになる。
図表3:2021年第1四半期の臨時雇用労働者の1年前の状態 (単位:%)
- 注:5カ国(アルゼンチン、ブラジル、コスタリカ、メキシコ、南アフリカ)の単純平均。
- 出所:ILO (2022)
二重労働市場(高賃金や良質な労働条件、安定した雇用である第1次市場と、低賃金や低い労働条件で不安定な雇用である第2次市場の二重に分かれた構造のこと)の特徴を持つ国では、従来はフォーマル部門の失業者をインフォーマル部門が吸収する。しかしコロナパンデミック早期の段階ではこの傾向がみられなかった。これらの国々の多くではインフォーマル就業者はフォーマル就業者よりも失業やロックダウンなどの措置によって活動できない状態に陥りやすかったためである。経済活動が徐々に再開するにつれ、インフォーマル就業、特に自営業は強いリバウンドを受け、多くのインフォーマル労働者が再び不活動状態となった。
臨時雇用は、失業中の人々に短期的な仕事の機会を提供し、就業率を上昇傾向に保つことで失業率を軽減することを助ける。これは一般にはマクロ経済が安定しポジティブな状態のときには短期間の就業の成長につながるが、景気循環の低迷時には利益が止まる可能性がある。また、常用雇用の労働者に適した仕事のために臨時雇用を雇うようにインセンティブを強化した場合、常用雇用に悪影響を及ぼすことになる。
そのためILOは、幅広い臨時雇用の使用が、長期的な生産性の成長にネガティブな影響を及ぼすことを懸念している。
参考文献
- ILO資料 World Employment and Social Outlook: Trends 2022
- ILO (17/1/2022) WESO Trends 2022, ILO downgrades labour market recovery forecast for 2022
参考レート
- 1米ドル(USD)=126.39円(2022年4月15日現在 みずほ銀行ウェブサイト
)
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