雇用維持スキームの終了
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う雇用への影響を緩和する目的で、政府が2020年4月に導入したコロナウイルス雇用維持スキーム(休業中の従業員の賃金を補助)が、9月末で終了した。多くの労働者が、未だに同スキームの対象となっているとみられ、影響が懸念されている。
9月末時点で114万人が対象に
雇用維持スキームは、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けた雇用主が、従業員を解雇せずに休業させて雇用を維持する場合に、賃金の8割(注1)を補助する制度だ。2020年4月に期間限定で導入され、本来昨年10月末での終了(補助率の低い制度への切り替え)が予定されていたが、感染状況が秋以降も悪化したことから継続されることとなり、最終的には2021年9月末まで延長された。導入以降、国内の労働者1170万人がいずれかの時点で同スキームの対象となり、支給額は計700億ポンド(申請ベース)とされる。1日当たりの対象者数は、2020年5月上旬の886万人をピークとして段階的に減少、9月末時点では114万人となっている。このところの経済活動の再開を受けて、特に若年層の対象者が急速に減少している。業種別には、ロックダウン等の影響をとりわけ大きく受けたとみられる宿泊・飲食業や芸術・娯楽業などで、対象者の比率が高い。スキームは、感染対策に伴う経済の著しい低迷の間、雇用状況の悪化の抑制(注2)に寄与したとして評価されている。
図表:雇用維持スキームの対象者の推移(人)
- 出所:HMRC ‘Coronavirus Job Retention Scheme statistics: 4 November 2021’
スキーム終了の影響
シンクタンクInstitute for Fiscal Studies(IFS)は、スキームの終了により想定される影響について分析している(注3)。これによれば、未だ対象者としてスキームに残留している層の多く(156万人のうち110万人)が、事業活動の制限緩和による影響が相対的に小さい業種(例えば建設業や製造業)の就業者であり、経済再開による雇用の復調効果も期待しにくいことから、スキーム終了後の失業リスクがより高い、と指摘している(注4)。また、ここ1年強の間に解雇された約100万人の再就職状況の分析から、ロンドン在住者や50歳以上層、相対的な低資格層(大卒学位未満)など、スキームの対象者で相対的に比率が高い層の再就職率が低い傾向にあり、スキーム終了後に解雇された場合、より困難な状況に直面する可能性があるとしている。
一方で、感染拡大による雇用への打撃が大きかった若年層については、親との同居により困窮状態を免れた層も多いとみられ、雇用状況が顕著に改善していることから、比較的楽観的な見方を示している。今後の就業支援策については、現在施策の中心となっている若年層よりも、高齢者やロンドン在住者への支援策に注力すべき、とIFSは提言している。
注
- 補助率の引き下げが行われた2020年8-9月、2021年8-9月を除く。(本文へ)
- 2020年通年の経済成長率はマイナス9.2%、失業率は前年から0.7ポイント増加して4.5%(24万人増)となった。(本文へ)
- ”Employment and the end of the furlough scheme”(本文へ)
- こうした層の約半数は、世帯内に他の就業者がいないため、失業により生活水準が低下しやすい、とIFSはみている。(本文へ)
参考資料
参考レート
- 1英ポンド(GBP)=150.64円(2021年12月1日現在 みずほ銀行ウェブサイト
)
2021年12月 イギリスの記事一覧
- 人材不足に短期の外国人受け入れ
- 雇用維持スキームの終了
関連情報
- 海外労働情報 > 国別労働トピック:掲載年月からさがす > 2021年 > 12月
- 海外労働情報 > 国別労働トピック:国別にさがす > イギリスの記事一覧
- 海外労働情報 > 国別労働トピック:カテゴリー別にさがす > 雇用・失業問題
- 海外労働情報 > 国別基礎情報 > イギリス
- 海外労働情報 > 諸外国に関する報告書:国別にさがす > イギリス
- 海外労働情報 > 海外リンク:国別にさがす > イギリス