人材不足に短期の外国人受け入れ

国別労働トピック：2021年12月

政府は、経済の再開とともに深刻化している一部業種の人材不足への対応のため、外国人労働者の短期での受け入れを決めた。従来、EUからの労働者を多く受け入れていたトラック運転手や、食肉処理労働者が対象で、数カ月から半年の滞在期限が設けられている。

運転手不足で食品などの輸送に遅滞

運送業で貨物輸送を担うトラック運転手は、従来からその不足がいわれてきたが、新型コロナウイルスの感染拡大やEU離脱の影響を大きく受けたとされる職種の一つだ。これには、低賃金・長時間労働など労働条件に関する問題や、雇用主による育成の不足などを背景に、近年増加していたEU出身の運転手^(注1)の多くが、感染拡大やEU離脱に伴う不確実性を理由に帰国した^(注2)ことが大きな要因として挙げられている。また、感染拡大防止策に伴う育成・資格試験の遅延により、新たな運転手の供給が滞ったまま、高齢の運転手の引退や転職が進んだことなど、複数の要因が指摘されている^(注3)。現地メディアによれば、運転手不足が食料や物資の輸送の遅滞を招き、小売店や飲食店における食料品や生活必需品の品切れなどの原因となっている。また同様に、EU加盟国の外国人労働者が多く従事していた食肉製造業でも、労働者の不足により、生産量の削減や、食肉処理が間に合わない家禽や豚が大量に処分されるといった状況が生じているとされる。

道路運送業の業界団体Road Haulage Associationは、トラック運転手の不足の規模は10万人以上にのぼり、危機的な状況にあると主張、対応策として、EUからの運転手の受け入れを政府に要請していた。トラック運転手は、現在の外国人労働者の受け入れ基準(職務等の水準)に満たないことから、専用の短期ビザの導入と労働力不足職種リストへの記載により、受け入れ要件の緩和を求めるものだ。同様に、小売業や運輸業^(注4)、食品・飲料関連の業界団体^(注5)も、深刻な労働力不足の状況を政府に訴えており、短期的な外国人労働者の受け入れ緩和策や、既存の季節労働者受け入れスキームの拡大などの対応を要請した。

滞在期限は数カ月から半年

政府はこうした要請に対して、運転手の資格試験や育成支援に関する拡充などを約束する一方、外国人の受け入れ緩和については応急処置にしかならないとしてこれを拒否し、国内労働者の育成による充足を雇用主に求めていた。しかし、物流の停滞に伴う混乱が長期化しかねないとの懸念から、方針転換を決めたとされ、10月以降、トラック(重量物運搬車両)運転手を5000人^(注6)、鳥肉処理労働者^(注7)を5500人、豚肉処理労働者を800人、期間限定での受け入れを認めている。

トラック運転手については、EUの重量物運搬車両の運転資格の保有者であることが求められ^(注8)、大きくはEU域内の外国人労働者を対象とした受け入れといえる。滞在の期限は2月末とされている。一方、食肉処理労働者については、明確な資格要件は示されていない。鳥肉処理労働者については、滞在期間は12月末まで、また豚肉処理労働者については、6カ月間の滞在が許可される。受け入れにあたっては、現在実施されている季節労働者等の受け入れ制度において運営を委託された組織(4社)が、対象者の募集や雇用主の申請の受け付けを担う。

業界団体は、政府の方針転換を歓迎しつつも、受け入れの規模については難色を示しており、より長期的な対応策の検討を求めている。

注

後述の業界団体Road Haulage Associationによれば、新型コロナウイルスの感染拡大に先立つ時期には、国内のトラック運転手60万人の1割をEU労働者が占めていた。(本文へ)
正確な人数は不明だが、後述の業界団体(British Retail ConsortiumとLogistics UK)は、2万5000人と試算している。(本文へ)
このほか、4月の制度改正により、仲介事業者を通じた就労に対する徴税が強化されたことで、派遣事業者がサービスから撤退したことの影響も指摘されている。(本文へ)
British Retail ConsortiumとLogistics UKは、運転手不足の対応策として、資格試験に関するキャパシティの拡大や、運転手の育成に関する支援策の拡充と併せて、EUからのトラック運転手の短期の受け入れに関する規制緩和を政府に要請していた。(本文へ)
食料の生産や加工、輸送に関する複数の業界団体が共同で作成した報告書(”Establishing the labour availability issues of the UK Food and Drink Sector”)は、関連業種における労働力不足について50万人に達するとの試算を示している(企業調査による平均の欠員率が13％であったことから、これを関連業種の就業者数410万人に乗じて算出)。(本文へ)
タンクローリー運転手300人、食品輸送運転手4700人で構成。タンクローリー運転手については、先行して10月1～15日の期間、申請が受け付けられた。また食品輸送の運転手の受け入れ申請期限は12月1日まで。(本文へ)
職業分類に基づき、申請可能な職種を「熟練工」、「加工・プラント・機械操作」、「単純労働」の下位区分の鳥肉または豚肉処理関連のものに限定。申請期限は、鳥肉処理労働者が11月15日まで、豚肉処理労働者は12月31日まで。現地メディアによれば、政府は鳥肉製造業の生産が滞る場合に、クリスマス用の七面鳥が不足する可能性を懸念していたとされる。当初はクリスマスイブを滞在期限としていたが、一週間延長された。(本文へ)
イギリス国内の資格との互換性による。(本文へ)