初期職業訓練の近代化
 ―公認職種の更新と訓練内容の刷新

カテゴリー:若年者雇用人材育成・職業能力開発

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  • 国別労働トピック:2021年11月

若者向けの初期職業訓練(デュアルシステム)は近年、時代の変化に対応するため公認職種の更新や、訓練内容の見直しが進んでいる。8月1日からは、全ての初期職業訓練に共通して学ぶべき「標準職業プロフィール項目(以下、「標準項目」)(Standardberufsbildposisionen)」が刷新され、訓練内容に「デジタル化した労働環境」という新分野が加わった。8月1日に規定された8つの公認職種から順次拘束的に適用され、それ以外の訓練に対しては「勧告」として訓練計画に盛り込むことを促す。

公認訓練職種の更新

現在国内には、約3万の異なる職種が存在するが、初期職業訓練(デュアルシステム)の公認職種は、2021年8月時点で324となっている(図表1)。公認職種は、最新技術や労働現場の要請に応じるため、過去10年で122の更新が行われた(図表2)。

デュアルシステムは、職業学校に通いながら、企業において実践的な職業訓練(2~3年半)を同時並行(デュアル)で受ける制度である。若者や企業にデュアルシステムへの参加義務はないが、若者の約半数が参加し、訓練費用は企業が自主的に負担する。若者にとっては失業リスクを減らすことができ、企業にとっては将来の技能労働者を確保できる利点がある。企業での職場訓練を希望する若者は、職業学校の生徒でありながら、企業と職業訓練契約を締結して訓練生手当を受け取る職業人としての一面も持つ。

図表1:職業訓練職種数の推移(2011~2021年)
画像:図表1
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  • 資料出所:BIBB(Datenreport-2021)、BIBBサイト(2021年8月)をもとに作成。
図表2:公認訓練職種の更新
改定 新設 合計
2011年 15 1 16
2012年 5 0 5
2013年 12 2 14
2014年 9 0 9
2015年 17 0 17
2016年 9 0 9
2017年 12 0 12
2018年 24 1 25
2019年 4 0 4
2020年 11 0 11
合計 118 4 122
  • 出所:BIBB(Datenreport-2021)

訓練内容の刷新

連邦職業教育訓練研究機構(BIBB)(注1)によると、デュアルシステムには「訓練生の人格成長に寄与する」という重要な教育任務があり、自立的で責任感のある、社会的能力の高い熟練労働者への育成が重視されている。

そのため、従来から全職種に共通して身につけるべき技能・知識・能力を得るための訓練として、「標準項目」が設定されている。全ての訓練生がそれを学び、別途、各職業に必要とされる固有の訓練を受ける。共通して身につけるべき技能・知識・能力は、時代とともに大きく変化しており、近年「標準項目」の刷新が求められていた。そこでBIBBは2020年春に作業部会を立ち上げ、訓練関係者と議論を重ね、新たな「標準項目」を策定した。

刷新された「標準項目」は、①初期職業訓練実施事業所の組織、職業教育、労働法、労働協約法、②労働における安全および健康、③環境保護および持続可能性、④デジタル化した労働環境の4分野で構成されており、詳細は図表3の通りである。

図表3:標準職業プロフィール項目の詳細
身につけるべき技能、知識、能力
1 職業訓練実施事業所の組織、職業教育、ならびに労働法および労働協約法
  • 訓練実施事業所(Ausbildungsbetrieb)の構成、基本的な労働・事業プロセスを説明する
  • 職業訓練契約から生じる権利と義務、ならびに職業訓練関係の期間と終了について明示し、デュアルシステムの職業訓練における関係者の任務を説明する
  • 職業訓練規則および事業所別の職業訓練計画の重要性、機能および内容を説明し、その実施に寄与する
  • 訓練実施事業所に適用される労働法、社会法、労働協約法および共同決定法の規定を説明する
  • 訓練実施事業所の事業所組織法または公勤務者代表法に基づく機関の基本原則、任務および活動方法を説明する
  • 訓練実施事業所とその従業員の、経済団体および労働組合との関係を説明する
  • 事業所別の報酬明細書の項目について説明する
  • 労働契約の主要な内容を説明する
  • キャリアアップと職業継続訓練の可能性について説明する
2 労働における安全および健康
  • 職種に応じた労働保護規定・事故防止規定から生じる権利と義務を熟知し、それらの規定を適用する
  • 職場および通勤における安全と健康のリスクを確認し、評価する
  • 安全で健康的な労働について説明する
  • リスク回避、ならびに自身と他者の心身のストレス回避のための技術的・組織的な措置を、予防的にも講じる
  • 人間工学的な働き方を考慮し、適用する
  • 事故発生時の行動方法を説明し、事故発生時に初動/応急措置を開始する
  • 事業所別の防火規定を適用し、火災発生時の行動方法を明示し、初動消火の措置を講じる
3 環境保護および持続可能性
  • 自身の業務範囲における、事業所に起因する環境・社会に対する負荷を回避する可能性を認識し、その改善に寄与する
  • 労働プロセスにおいて、および製品、商品またはサービスに関して、経済的、環境調和的(umweltverträglich)および社会的な持続可能性の視点から、材料およびエネルギーを利用する
  • 訓練実施事業所に対して適用される環境保護規制を順守する
  • 廃棄物を回避し、物質と材料の環境に配慮したリサイクルまたは処理・処分を行う
  • 自身の業務範囲に対して持続可能な行動のための提案を生み出す
  • 事業所内の規定を順守した上で、経済的、環境的および社会的に持続可能な開発の意味において協力し、受け手に適したコミュニケーションを図る
4 デジタル化した労働環境
  • 自身および事業所関連のデータならびに第三者のデータを取り扱い、その際にデータ保護とデータセキュリティに関する規定を順守する
  • デジタル媒体およびITシステムの利用におけるリスクを評価し、その利用時に事業所の規定を順守する
  • 省資源の、受け手に適した効率的なコミュニケーションを図り、コミュニケーションの結果を文書化する
  • コミュニケーション・プロセスにおける異常を認識し、その解決に寄与する
  • デジタル・ネットワークで情報を調査し、デジタル・ネットワークから情報を収集し、情報(外部の情報も含む)をチェックし、評価し、選別する
  • 学習・労働技術、ならびに自己管理学習の手法を活用し、デジタル学習媒体を利用し、生涯学習の要求を認識し、引き出す
  • 参加者(他の業務・事業分野の参加者も含む)とともに、デジタル媒体も利用して課題を計画し、処理し、設計する
  • 社会の多様性を考慮した上で、他者の尊重を実践する
  • 出所:BIBB中央委員会勧告(2020)

従来の「標準項目」にあった「訓練実施事業所の組織」と「職業教育、労働法、労働協約法」は1つに統合され、さらに学習項目が追加された。「労働における安全および健康」には、「職場におけるリスクを確認し、評価する」に加えて、「通勤」も、考慮すべき側面として採用された。また、「環境保護」に、「持続可能性」が補足され、「環境保護および持続可能性」として、商品、サービス、材料、エネルギー等の利用に、持続可能性の3つの側面(経済的、環境的、社会的側面)の考慮や比較衡量が学習内容として加えられた。「デジタル化した労働環境」は、今回新規に追加された分野で、ここでは、デジタル媒体やデジタルデータの取り扱いや、フェイクニュースの増加を背景として重要度が増す「情報収集・評価能力」等の学習が行われる。さらに、デジタルな労働環境におけるコミュニケーション能力および社会的能力も、社会の多様性と相互尊重の観点から考慮されている。

2021年8月1日から順次適用

「標準項目」は今後、全ての公認職種の訓練実施計画に盛り込まれる。具体的には、2021年8月1日以降に発効する全ての改定・新設される公認訓練職種において拘束的に適用される。まず、同日に更新された以下の8つの公認職種に適用された。

  1. ビール醸造者・麦芽製造者(改定)
  2. 電気電子技術者(改定)
  3. 建物システムインテグレーション系電気電子技術者(新規)
  4. 職業訓練法に基づく機械・駆動技術系電気電子技術者(改定)
  5. 手工業法に基づく機械・駆動技術系電気電子技術者(改定)
  6. 車両内装系機械工(改定)
  7. 情報系電気電子技術者(改定)
  8. 塗装工(改定)

その他の職業訓練法(BBiG)や手工業法(HwO)に基づいて定められた全てのデュアルシステムの公認訓練職種について、新しい「標準項目」は、「勧告」の性質を有する。

BIBBは2021年6月から、連邦、労使、各州の代表者等の職業訓練関係者と連携して、刷新された「標準項目」に関するメディアキャンペーンを行っており、関連パンフレットや説明動画の作成等を通じて訓練現場への導入支援を行っている。フリードリヒ・フーベルト・エッサーBIBB所長は、刷新された「標準項目」について、「法律、安全、持続可能性、デジタル化の各分野を改定することで訓練をさらに魅力あるものにし、近未来の労働環境で喫緊に必要となる資格・能力を習得することができる」と、公式サイト上で説明している。

参考資料

  • BIBB Datenreport-2021、BIBBサイトほか

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