初期職業訓練の近代化
―公認職種の更新と訓練内容の刷新
若者向けの初期職業訓練(デュアルシステム)は近年、時代の変化に対応するため公認職種の更新や、訓練内容の見直しが進んでいる。8月1日からは、全ての初期職業訓練に共通して学ぶべき「標準職業プロフィール項目(以下、「標準項目」)(Standardberufsbildposisionen)」が刷新され、訓練内容に「デジタル化した労働環境」という新分野が加わった。8月1日に規定された8つの公認職種から順次拘束的に適用され、それ以外の訓練に対しては「勧告」として訓練計画に盛り込むことを促す。
公認訓練職種の更新
現在国内には、約3万の異なる職種が存在するが、初期職業訓練(デュアルシステム)の公認職種は、2021年8月時点で324となっている(図表1)。公認職種は、最新技術や労働現場の要請に応じるため、過去10年で122の更新が行われた(図表2)。
デュアルシステムは、職業学校に通いながら、企業において実践的な職業訓練(2~3年半)を同時並行(デュアル)で受ける制度である。若者や企業にデュアルシステムへの参加義務はないが、若者の約半数が参加し、訓練費用は企業が自主的に負担する。若者にとっては失業リスクを減らすことができ、企業にとっては将来の技能労働者を確保できる利点がある。企業での職場訓練を希望する若者は、職業学校の生徒でありながら、企業と職業訓練契約を締結して訓練生手当を受け取る職業人としての一面も持つ。
図表1:職業訓練職種数の推移(2011~2021年)
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- 資料出所:BIBB(Datenreport-2021)、BIBBサイト(2021年8月)をもとに作成。
改定 | 新設 | 合計 | |
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2011年 | 15 | 1 | 16 |
2012年 | 5 | 0 | 5 |
2013年 | 12 | 2 | 14 |
2014年 | 9 | 0 | 9 |
2015年 | 17 | 0 | 17 |
2016年 | 9 | 0 | 9 |
2017年 | 12 | 0 | 12 |
2018年 | 24 | 1 | 25 |
2019年 | 4 | 0 | 4 |
2020年 | 11 | 0 | 11 |
合計 | 118 | 4 | 122 |
- 出所:BIBB(Datenreport-2021)
訓練内容の刷新
連邦職業教育訓練研究機構(BIBB)(注1)によると、デュアルシステムには「訓練生の人格成長に寄与する」という重要な教育任務があり、自立的で責任感のある、社会的能力の高い熟練労働者への育成が重視されている。
そのため、従来から全職種に共通して身につけるべき技能・知識・能力を得るための訓練として、「標準項目」が設定されている。全ての訓練生がそれを学び、別途、各職業に必要とされる固有の訓練を受ける。共通して身につけるべき技能・知識・能力は、時代とともに大きく変化しており、近年「標準項目」の刷新が求められていた。そこでBIBBは2020年春に作業部会を立ち上げ、訓練関係者と議論を重ね、新たな「標準項目」を策定した。
刷新された「標準項目」は、①初期職業訓練実施事業所の組織、職業教育、労働法、労働協約法、②労働における安全および健康、③環境保護および持続可能性、④デジタル化した労働環境の4分野で構成されており、詳細は図表3の通りである。
身につけるべき技能、知識、能力 | |
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1 | 職業訓練実施事業所の組織、職業教育、ならびに労働法および労働協約法 |
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2 | 労働における安全および健康 |
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3 | 環境保護および持続可能性 |
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4 | デジタル化した労働環境 |
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- 出所:BIBB中央委員会勧告(2020)
従来の「標準項目」にあった「訓練実施事業所の組織」と「職業教育、労働法、労働協約法」は1つに統合され、さらに学習項目が追加された。「労働における安全および健康」には、「職場におけるリスクを確認し、評価する」に加えて、「通勤」も、考慮すべき側面として採用された。また、「環境保護」に、「持続可能性」が補足され、「環境保護および持続可能性」として、商品、サービス、材料、エネルギー等の利用に、持続可能性の3つの側面(経済的、環境的、社会的側面)の考慮や比較衡量が学習内容として加えられた。「デジタル化した労働環境」は、今回新規に追加された分野で、ここでは、デジタル媒体やデジタルデータの取り扱いや、フェイクニュースの増加を背景として重要度が増す「情報収集・評価能力」等の学習が行われる。さらに、デジタルな労働環境におけるコミュニケーション能力および社会的能力も、社会の多様性と相互尊重の観点から考慮されている。
2021年8月1日から順次適用
「標準項目」は今後、全ての公認職種の訓練実施計画に盛り込まれる。具体的には、2021年8月1日以降に発効する全ての改定・新設される公認訓練職種において拘束的に適用される。まず、同日に更新された以下の8つの公認職種に適用された。
- ビール醸造者・麦芽製造者(改定)
- 電気電子技術者(改定)
- 建物システムインテグレーション系電気電子技術者(新規)
- 職業訓練法に基づく機械・駆動技術系電気電子技術者(改定)
- 手工業法に基づく機械・駆動技術系電気電子技術者(改定)
- 車両内装系機械工(改定)
- 情報系電気電子技術者(改定)
- 塗装工(改定)
その他の職業訓練法(BBiG)や手工業法(HwO)に基づいて定められた全てのデュアルシステムの公認訓練職種について、新しい「標準項目」は、「勧告」の性質を有する。
BIBBは2021年6月から、連邦、労使、各州の代表者等の職業訓練関係者と連携して、刷新された「標準項目」に関するメディアキャンペーンを行っており、関連パンフレットや説明動画の作成等を通じて訓練現場への導入支援を行っている。フリードリヒ・フーベルト・エッサーBIBB所長は、刷新された「標準項目」について、「法律、安全、持続可能性、デジタル化の各分野を改定することで訓練をさらに魅力あるものにし、近未来の労働環境で喫緊に必要となる資格・能力を習得することができる」と、公式サイト上で説明している。
注
- BIBBは、連邦教育研究省が所管する公的機関で、教育訓練に関わる調査研究、政府や訓練関係者への助言、訓練関係者との調整会議等の開催等多岐にわたる活動を行っている。(本文へ)
参考資料
- BIBB Datenreport-2021、BIBBサイトほか
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